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河城にとり

さぁ、今回はにとり回です!

立場上書きやすい?誰が一体そんな事を言ったんでしょうね、めちゃくちゃ書きづらいですよこれ。にとりには申し訳ないけれど。

しかしまぁ、書き始めてしまった者の責任としてキャラクター達に敬意を払いつつ、何とか書き切りました。


キャラ崩壊に注意しながらお楽しみ下さい。

ここは妖怪の山の、とある川べり。

そこに佇む少女、河城にとりは悩んでいた。

「んーーーー………」

時に、その大きな目を瞬かせながら。

時に、背中のリュックに入ったキュウリなど齧りながら。

時に、二つの髪束が伸びた頭をぶるんぶるんと振り回しながら。……本当に集中出来ているのか、それは。



「むむむむ〜………」


彼女の悩みの種は、最近の発明品についてである。

元々、河童という種族は根っからのエンジニアであり、発明やら何やらといったものを生業にしている者も少なくない。

にとりも多分に漏れず、そういった職業についている。……と言っても、河童達はその性格が良くも悪くもチームプレーに向いていない為、職業と言うよりは完全な個人営業になってしまっている訳だが。

要するに、自分で何か作って何かしらの成果を上げなければ、生きてゆく事すら危うくなってしまうのである。しかも競争相手が無駄に多い。

その様な生活をする上で、アイデアが浮かばないという事態は文字通りの死活問題。必死にもなろうと言うものだ。



彼女は先程まで、山のとある場所に作られた自分専用のラボで、新作の構想を練っていた。しかし暫くしてそれにも飽き、気分転換を兼ねて川まで出てきたのである。

……だが、そこまでしても何の成果も無し。あまりにも不憫だが、何かを作るというのはそういう事だ。

誰かが一度通った道標といったものが存在しない為、一度停滞期に入ると何も出来ない。

厳しい様ではあるが、同時にそれは、発明に携わる者の宿命でもある。

発想が浮かばなかった者が悪いのでは無い。浮かんだ者の運が良かったのだ。……まぁ、その「発想」が浮かぶかも普段の努力によって変わってきたりするのだが、それは話が長くなる上に彼女が報われないので割愛する。



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「……………だぁー!駄目だ!」


そして更に一時間程考え込んだ後、にとりは怒声と共に思考を放棄した。

「駄目だ駄目だ……いくら煮詰めても、効率的なエネルギー運用を視点に置く限りはどうしても既存の機構に行き着いてそこで止まる……」

彼女は下を向き、自分の脳に対して怨嗟の声を吐く。

「何で私はこういう時に何も思い付けないんだ……普段は馬鹿みたいにアイデアが湧いてくる癖に、っ……」


にとりはふと、水面に映った自分の顔を見た。

何日も徹夜していた為、目の下には大きなクマが浮かんでおり、知らない内に涙ぐんでいたのか目は真っ赤、おまけに水にも長い間潜っていなかった所為で肌もカサカサ。まるで幽鬼の様な、見るも恐ろしい外見になっていた。

……しかもそれに対比する様な、自慢の青い髪だけは普段の輝きを保っていると来る。


「……ははっ。」


にとりは、そんな自分の姿を見て小さな笑いを零した。

それは自分の姿格好のみっともなさに気付いての自嘲なのか、それともはたまた別の何かか。……それは本人にしかわからないが、それでもその時の彼女の笑いは、とても穏やかなものだった。


勢い良く立ち上がった彼女は、自分の頬を二度強く叩いた後、川の水を勢い良く自分の顔面に叩きつけた。

…いや、能力を使って浮かせた水に自ら突っ込んでいった、と表現すべきなのか。

「水を操る程度の能力」を持つ彼女がそれをしたのだから、当然顔に当たる水の量は(てのひら)で掬った時とは段違いなものであっただろう。

「ん…っ!……すっきりした!よし、気合入れて行くか!」

そしてびしょ濡れになった彼女は、厄神様に厄でも祓ってもらおうかと立ちあがる。

だがその前にまず身だしなみを整えねばと、ひとまずラボへ向かうのであった。



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


そしてにとりは、その途中で一人の白狼天狗の少女に遭遇する。

これぞまさにエンカウントと呼ぶに相応しい運の無さ……いや何でも無いから。だから睨まないで下さいにとりさん。


「あれ?にとりじゃないですか。……って、うわひどい顔!鏡見ました!?」


顔を見てすぐこれである。散々な言いようではあったが、あながち間違っていると言い切れない自分が悔しいにとり。


出会い頭に失礼な一言を放ったこの少女の名は、犬走(いぬばしり)(もみじ)と云う。

住んでいる場所が近いので、にとりは任務中の彼女とよく顔を合わせるのだ。おかげで、顔を見たらその場で世間話をする程度の間柄にはなっていた。


「鏡は見てないけど、水面なら見たよ。それにしても酷い言い草じゃないか……」

なまじ自覚はあっただけに、正面から言われるのは中々にくるものがあったらしい。目を逸らしてぼそぼそと反論するにとりだが、その殆どは口から出る前に本人によって意味を無くした吐息へと変えられていた。

「す、すみません。……でも、これはちょっと顔洗った程度じゃ直りそうにありませんねぇ…お化粧とか、持ってたりします?」

椛は落ち込んでいるにとりの様子を少し見るや、一気に話題を変えにかかった。

恐らく面倒臭い上司への対策か何かだろうか、見事な回避術(?)。

「化粧、って……私達は水に潜ったらすぐに溶けちゃうもん、そんなもの付けないよ。」


河童の生活には、水というものが不可欠だ。それも飲み水程度では無い、少なくとも頭まで浸かれるレベルの量が。

その縛りがあるからこそ、にとりだけでは無い、河童達の間では化粧というものがあまり流通していなかった。

一応「水に濡れても落ちない化粧」というものも売られてはいるのだが、落とす時に特殊な工程を踏まねばならず…残念ながら、あまり流行ってはいない。

「そうですよねー。どうしたものか……あ、そうだ!」

少し考え込んだ後、椛が手を打って叫ぶ。

鳥達が一斉に飛び立ち、潜んでいた動物が走り去って行く音がした。

相変わらずとも言える椛の天衣無縫っぷりににとりは頭痛を抑えつつ、形だけ尋ねる。

「あんたねぇ、もう少し声抑えなよ……で、何を思いついてそんなに興奮してるんだい?」

「私が、家でお化粧してあげますよ!にとりに!」

目を子供の様にキラキラと輝かせ、人差し指を立てて提案する椛。

だが一瞬、にとりは何を言われたのか理解できなかった。

「……いやいや椛、あんた私の話聞いてた?」

椛は、天狗の中でも決して頭がいい方ではない。だがどこぞの氷精や地獄烏では無いのだから、水に流れてしまうので無理だという理屈を理解出来ないわけが無い……はず。

だがしかし、そんなにとりの失礼な疑問にもめげず(というか気付かず)、椛は自信満々に言う。

「だってにとりの家、一応陸にあるじゃないですか!」


誤解の無い様に言うなら、椛が言っている「家」とは先述したラボの事である。まぁ、自宅もちゃんと陸にあるのだが。

元々椛とはよく話はするものの、そこまで仲がいいという訳でも無いので、なんだかんだで家の場所までは教えていなかったのだ。

「そうだけどさ……それでも水に潜る機会が無い訳じゃ無いし。」

「その時はその時、ってことでいいじゃないですか。なんなら水に落ちやすい化粧品使ってあげてもいいですよ?それなりの値は張ったやつですけど。」

椛のその言葉を聞いて、思わず頭の上に疑問符を浮かべるにとり。

「……なんでわざわざ?それなら落ちにくい方を使うべきなんじゃあ…」

「うーん…何というか、落ちにくいお化粧でもやっぱり、水に濡れちゃうと被害は免れないんですよ。だから中途半端に落ちて変なことになる位ならいっそ、っていう?」

「あー、成る程……」

「私はよく任務とか訓練とかで汗かくからあまり使いませんし、いい機会です。偶には使ってやらないと可哀想ですしね。」

顔に不気味な模様が出来るくらいならいっそ潔く全部落としてしまえ、ということか…と納得するにとりだが、ふとある事に気付いた。

(……ってそれ、わざわざ化粧する意味、あるのか?)

一度浮かんだ疑問は頭の中でぐるぐると回り、どんどん大きくなって行く。


「……な、なぁ椛。」

…どうやら、気になった事はその場で調べないと気が済まない性格の様である。

損な性格だなぁ、とにとりは内心血の涙を流しながら椛に問いかけた。


「すぐに落ちちゃうお化粧なんて、する意味あるのかね?」


にとりがそう言った途端、彼女は顔色を変えて力説する。

「な、何言ってるんですか!もう、これだから機械系女子は……」

仮にも女の子がそんな事言っちゃ駄目ですよぉ、と涙目で言う椛を見て、成る程女の子だなぁ、とよくわからない感慨に(ふけ)るにとりであった。

「……っていうか機械系女子って何さ、機械系女子って。」

そもそも、お互いもう女子なんて齢じゃ無いだろうに。

にとりはそんな事を思いながら、目の前の白狼天狗を見やった。



ざんばらな様でいて、それでもやはり気を遣って手入れされている純白の髪は風に吹かれてさらさらと舞い、まるで暗い妖怪の森に咲いた一輪の花のよう。

そして、女性比率の高い妖怪の中でも間違いなく美人の括りに入るであろうその顔にはうっすらと白粉が塗られており、白で固められた彼女の立ち姿を更に清らか (そう) な物に変えていた。

そしてその顔の中でも特に目立っている、多少吊り気味の大きな目。千里を見通す事の出来るその目は、映る全てを捉えて輝いていた。

極めつけは、よく手入れされたさらさらの白髪(はくはつ)の上にぴょこんと生えている、先の尖った狼の耳。人型の生き物には本来似合わないであろうそれも、本人の美しい顔立ち、髪の色と相まって、恐ろしい程に映えていた。


……すごく、女の子です……



それと比べて、今の自分は。

「………………」

駄目だ、勝てねえ。

無言で、地に手をついて落ち込むにとりであった。

「わわっ、私そんな落ち込む様な事言っちゃいました!?」

そしてそれを見て、わたわたしている天狗が一人。

「……いや、良いさ…あんたの所為じゃ無いよ、椛……」

「そんな沈んだ表情で言われてもぉー!?」

心身共に多大なダメージを負って、最早顔を上げる気力も無いにとりである。


そしてしばらく慰め続けた後、椛はそんなにとりに優しく声をかけた。

「ま、じゃあとにかくにとりはこれから付いてきて下さい。私の家まで案内しますから。」

「えっ…あれ本当だったんだ?」

「……私が、そんなよくわからない冗談を言う天狗に見えますか?」

眉を顰め、少し悲しそうな顔でにとりを見つめる椛。

それを見たにとりは慌てて否定する。

「あ、いや…そういうつもりで言ったんじゃ無いんだよ。気を害したなら悪かったね…?」

彼女がそう言った瞬間、椛の顔が、先程までの表情がまるで嘘だったかの様に晴れ渡る。

「なら私から言う事はありません。さぁ、付いてきて下さい!」

「あっ……」

見事に嵌められた。

だがここで断りでもしようものなら、今度こそ冗談抜きで泣かれかねない。

……その思考こそが椛の狙いなのだと気付く事も終ぞ無く、にとりは渋々と椛について行く事にしたのであった。


〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


「そう言えば椛、あんた任務中じゃ無いのかい?」

ふと浮かんだ疑問を、にとりは隣を歩いている椛にぶつけてみた。

仮に任務中だとしたら、サボっていた椛は当然の事、自分にまで責任が及ぶかもしれないと考えたのだ。

「それなら問題無いですよ。今日は休みの日ですから。……それで文さんの家に遊びに行ったら誰もいなくて。」

「折角の休みにそれとは…あんたも災難だねぇ。」

アイデア浮かばなくて年中休みの私なんかとは大違いだね、という言葉は口に出しかけて何とか飲み込んだ。

今日会ったのは偶然とは言え、自分にこうも剥き出しの好意をぶつけて来てくれる友人に対して、こんなところで愚痴をこぼす様な真似はしたくなかったのである。

「そういうにとりこそ、あんな顔して何してたんですか?見たところ何日も寝てないみたいですし……」

「え?あぁ、うん…」

まるで心を読んだかの様な椛の言葉に、危うく咳き込みそうになった。

「いやぁ、新しい品のアイデアがどうしても浮かばなくてねぇ…おかげで最近の稼ぎはゼロだよ。」

食べてくのも楽じゃないねぇ、と付け加える様に呟く。

「そうですねぇ……私は一日決められた事をしていれば済みますし、自ら新しいものを求めるその姿勢は尊敬していますよ。だから落ち込まないで下さい……あ、着きました!あれです、あれ!」

「ん?……あぁ、あれか。意外と小綺麗な感じなんだね。」

にとり達が目を向けた先には、一つの木造の小屋が。

材木の日焼け具合からして、それが建てられてからそれなりの年月が経っているであろう事はわかる。しかしその外見に反して、建物そのものの損傷は少ない様だった。


「意外とって何ですか、意外とって。」

その言葉を聞いた椛が、ジト目でにとりを見てくる。

褒めたつもりだったんだけどなぁ、と頬を掻いた後、にとりは、

(……ま、それもそうか。化粧がどうのとか言ってる『女の子』の家が汚い訳が無いね、よく考えれば。)

と、自分で自分を納得させることにした。

いやはや、女心とは難しいものである。……一応女であるにとりがそれを理解できないのはこれ如何にと洒落の一つでも言いたいところだが、そこのにとりさんの視線が痛いのでやめておこう。

「……いやぁ、そういうつもりで言ったんじゃ無いよ。時間の割りには綺麗なままだなぁ、って思っただけさ。」

だが自分で納得出来ても、椛はそうでは無い。

おかげでにとりは、自分と椛に対して合計二回も弁解する羽目になってしまった。

「なあんだ、そういう事でしたか。それなら、こまめに手入れしてきた甲斐があったというものです。家主冥利に尽きますね!」

「自分のアイデンティティに家主である事を含めている奴も、大概珍しいだろうけどね……」

少なくともにとりは、今までにそういった輩を目にする事は無かった。

幸か不幸かは置いておいて、だ。


ぼーっと立って家を見ているにとりに気付いた椛は、彼女に家に入るように勧める。

「家を前に立ち話もなんですし、さぁ入って下さい。今日という今日はにとりを女にしてあげます!」

「その言い方は語弊があるからやめないかい!?」

にとりは慌てて、周囲に他の妖怪の姿が無いか確認した。

某最速最高の新聞屋にでも聞かれようものなら、今日からにとりは本当に眠れなくなってしまう。

「あ、あんまり大声でそういうことを言わないでもらいたいんだけど…」

「うーん…小声でボソボソ言ってたらそれはそれで問題じゃないですか?」

「言わないって選択肢は無いのかよ…」



にとりは一通り周りを見回して誰もいない事を確信し、椛に向き直る。

「……じゃあお言葉に甘えて、お化粧の仕方をレクチャーして貰うとするかね。生憎、もう一度するかどうかは保証しかねるけど。」

「良いでしょう……普段から鍛えている私のお化粧センスを見せてあげようじゃあありませんか……!」

バチバチと、目線だけで火花を散らし牽制し合う二人。にとりからは青の、椛からは朱のオーラが激しく立ち上っている……様に見えた。

妖力弾を使って弾幕を作るような二人である、オーラの一つや二つ、出しても何ら不思議では無いだろう。


「……ま、続きは中に入ってからですね。さぁさぁどうぞ、お入り下さいませ。」

椛は、木で出来たドアを開けて自らは横に控え、恭しく礼などしてみせた。

だがにとりはそんな彼女を軽快にスルーし、家の中の調度品に目を向ける。

「……へえぇ〜…意外も意外、なかなかにいいのが揃ってるねぇ。」

「さっきから失礼ですね、にとりは。人のことを意外意外と……」

私はそんなにガサツなイメージですか、とため息混じりに呟き、項垂れる椛。…どうやらへそを曲げてしまった様だ。

これから化粧して貰おうというのにこれはまずいと、にとりは慌てて弁明を並べる。

「い、いやそうじゃなくてさ。白狼天狗って、言い方は悪いけど所謂下っ端でしょ?お給料とかそんなに出てるイメージ無かったからさ、凝った作りなのが意外だなぁ、って……!」

「下っ端……」

「ああぁ……」

どうやら更に傷口を抉ってしまった様だ。……救いようが無いとは、まさにこの事である。


余談だが、にとりはこの後椛の機嫌を直すのに三十分程かける事になったそうだ。

お疲れ様、にとり。



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜



「よし、できた!!」

やっと椛の手が顔から離れて、にとりは伏せていた視線を目の前の鏡へと向けた。

「お、おぉ……これが私か……」

誰この美少女。

鏡を見た彼女が真っ先に抱いた感想が、それであった。

「いやー、にとりも素材は良かったですから。中々いい感じに化けてくれましたねー!」


しかしこの白狼天狗、本当に褒める気があるのだろうか。いやにとりも褒められはしているのだろうけれど。

先程から二人とも、微妙にお互いの心を波立たせる様な事しか言っていない気がする。


「素材『は』って何さ、素材『は』って。」

ぷく、と頬を膨らませ、いかにも拗ねた様な口調で言うにとり。

「あの見てくれでそれを言わても……」

「うぐ、っ……」

苦い表情で、いかにもいいづらそうに言う椛を前にして、にとりは僅かに言葉に詰まる。

それも当然、一刻前の自分にもし夜道で会ったらにとりは恐らく失禁していただろう。

彼女は今の自分と先程までの自分を見比べて、猛烈に恥ずかしい気分に襲われた。

「しかし…同じ妖怪でもここまで変わるものなんだねぇ。……何だか、逆に悲しくなってきちゃうよ。」


乾燥してガサガサだった肌には軽く白粉が塗られ、視覚的にはしっとりとした感触を与える事に成功している。

そして、目元に塗られた黒い粉(にとりにはその名前がわからなかった)はどうやら目を大きく見せる効果があるらしく、もともと童顔な彼女の可愛らしさを際立たせていた。

薄い唇に細く差された紅は、紅色と云うよりは寧ろ桃色とでも言った色合いで、自分でも思わず指でなぞりたくなる様な、外見年齢不相応な艶っぽさを醸し出している。



今の自分の外見を自覚すると同時に、先程までの自分を全力で呪うにとり。

その怒気にあてられた椛が、それを自分に向けられたものと勘違いして慌ててお菓子(ご機嫌取り)を用意し始めたのだが、そんな事は全くにとりの目には入っていなかった。入っていたとしても、少なくともお菓子は黙って食べただろうが。


ちなみに用意されたお菓子は、幻想郷ではそれなりに高価なぼた餅であった事をここに追記しておく。

文の家に持って行こうとした物の余りだが、それを言うのは野暮というものだろう。



「に、にとりさーん…折角うちに来たんですから、これ、食べます?」

椛が濃紫色のお菓子を手にして、もう一つをにとりに渡そうと机の上へ手を伸ばした、その瞬間。

「……ひっ!?」

ぐりん、と。

通常ではあり得ない様な音と勢いで、にとりの首が回った。硬直する椛。

ぎらつく瞳と目が合ってしまった彼女は、自分よりか弱い筈の河童の少女を前に、思わず尻尾を巻いて(物理的に)逃げようかと思ったという。


「………ぼた餅……?」

「えっ?…あ、そうそうぼた餅!食べますか?」

生きた心地のしない椛は、一心不乱に首を縦に振った。彼女は理解しているのだ、恐ろしいモノの前に立ってしまった時の対処法を。

「………………」

そして黙りこくったにとりを見て、あーこれは死んだなーと椛が現世への思い残しを数えていた、その時。


「……食べるッッッ!!!」


目の前で沈黙していた河童が目にも留まらぬスピードで『掌の上のもの』をひったくり、あわれぼた餅は一瞬にして口の中へと消えて行った。

「………は?」

その一連の動作を前に動く事すら許されなかった椛は、手の中から消えたぼた餅を探して視線を虚空に彷徨わせ、数瞬の後、叫んだ。

「あーーーーー!『私の分の』ぼた餅がぁぁぁあぁあぁぁあ!」

「………え?」

椛の言い方に疑問を感じたにとりは、涙目になっている彼女の横の炬燵をちらと見る。その上に用意された皿には、小豆では無く砂糖入りのきな粉をまぶしたぼた餅が積まれていた。

それはつまり、あんこで包まれたものは一つしか無かったという事で。


「………ごめん、なさい?」


可愛らしく小首をかしげてみたが、相手が健全な男子なら間違いなく鼻の下を伸ばしたであろうそれも椛には逆効果だった。

「……にとり。」

「ひゅいっ!?」

椛はにとりの怯えた瞳をじっ…と覗き込んで、

「残り……全部私が頂きますね。もともとそのつもりでしたし。」

「あ、その位なら……ってはぁ!?何言ってんのさ椛!私の分はーー!?」

醜い言い争いが始まった。


椛の言い分は、要約すると『私はあの小豆のぼた餅だけで十分だったから、残りのきな粉は全部にとりにあげるつもりだった』というもので、にとりはそれに対して『いや、普通に半分こしようよ』とジト目で言ってかかった。

どうやら疑っている様子。


面倒臭くなりそうな話である。



〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜・〜〜〜


そして、その約半刻の後。二人は、


「…ふぅ、もう何も食べられないよ。甘いものとか久し振りだぁ……幸せ………」

「久し振り、って。お金入って無いんでしたっけ?でも、そんなに……」

「そんなにさー。いや時は金なりと言うけど、時間をかけても金を稼げるとは限らないんだねぇ。実感したよ。」


………ほのぼのしていた。



事の顛末は一から語ると時間がかかるため割愛するが、結局は『半分こした方が早いし、そもそも自分自身何故餡子にムキになっていたのかわからなくなった』という理由で椛が折れ、皿に山と積まれたぼた餅は仲良く二人で分けられる事となった。

結論だけを言うなら、半分に分けたそれを食べた二人が等しくお腹一杯になっているこの状況は、まさしく理想的なものなのだろう。


そして糖分を摂取してにとりの脳が活性化……する前に、彼女は満腹の所為で意識が朦朧としてきていた。

「んー…眠くなってきちゃったよ…」

「ふあぁ……私もです。お餅って意外とお腹に溜まるんですよねー。」

どうやら、眠いのは椛も同じらしい。

だが、にとりはそれに負けまいと自らを叱咤した。幾ら気の知れた知人の家だとしても、他人の前で寝顔を晒す気にはなれなかった。

それに、今日会った時の椛の口ぶりからするとだが、この家には例の新聞屋が訪ねてくる可能性がある。そこであられもない寝顔でも撮られようものなら……!

ぞくり、と寒気を覚えるにとり。普段の行動からも読める通り、彼女は比較的人の目を気にする方では無いが…流石に、幻想郷中に自分の顔をばら撒かれても大丈夫な程悟っている訳ではなかった。


「……むぅ。」

しかし、このまま襲い来る睡魔の波に抗い続けるのにも限界というものがある。

(……駄目だにとり、寝るな…寝たら幻想郷で生きていけなくなると思え……そうだ、何か考え事を、っ…!)

そしてにとりは、今日起こった事の回想を始めた。



(今日は…新しい発明品のアイデアがちっとも浮かばないから頭を冷やしに川べりまで出てきて、それで自分の形相に自分で呆れ返って、とりあえず家まで帰って身だしなみを整えようとしたんだっけ。……なんかしょうもない事してるな、私…そりゃあアイデアも浮かばないだろ。

ま、とにかく結局身だしなみを整えるって目的は願ってもない形で叶ったけど……ん、化粧?化粧、か……あれ、私も出来る様になるのかな……)


「私も……あぁっ!?」

そこまで考えた所で、にとりの脳内に電流が走った。

「ひゃあ!?ど、どうしたんですかにとりっ!?」

どうやら半分寝ていたらしい椛はにとりの大声に飛び起き、どこからか大剣を取り出して叫んだ。

紅魔館のメイドも真っ青の手際である。

「なぁ椛!…あのさあのさ、女の人がお化粧する時ってやっぱり決まったやり方だとかそういうのってあるのかね?」

そこは流石武人とでも言うべきか、一瞬で完全に覚醒した椛へ、にとりはまるでまくし立てる様に問いかけた。

「えっ、何ですかいきなり?……うぅん、多少の個人差はありますけど、やっぱり一般的なやり方っていうのは存在しますよ。例えば目が大きい人はこう、切れ長な人はこうみたいな。」

「やっぱりか……ありがとう、ちょっとアイデアが浮かんだからラボに帰ってまとめてくるよ!今日はありがとうね!」

気の早い事に、そう言い終わる頃にはにとりは既に帽子を被ってリュックを背負い終えた所だった。

彼女のエンジニア兼発明家精神が、一刻も早く試作を仕上げろと心の中で喚いていた。

「っ!本当ですか!?おめでとうございます、頑張って下さいね!!」

そして、にとりのその言葉を聞いて心の底からの笑みを浮かべる友人が一人(一匹?)。

にとりはその笑顔を見て、今日は本当に良い一日だったと思えた。

「うん、じゃあね!ぼた餅美味しかったよ、またご馳走になりに来るからさ!」

言うが早いか、にとりは脱兎の如くドアを開けて外へ飛び出す。一秒でも早く、頭の中に浮かんでいる構想を紙に記してしまいたかった。

さよーならー、という椛の声に手を振り返し、にとりはラボへと全力で駆けた。


(お化粧する時のやり方とか、椛にまた教わりに来なきゃな。……はぁ。全く、何するにもままならないねえ。)


思わずにやける口元に気付く事も無く、そんな取り留めもない思考を巡らせながら。






その後、にとりが今度も寝ずに三日三晩作業した所為で倒れてしまったのは、心配になって訪ねて来た椛と話を聞いて取材に来た射命丸文、そして文々。新聞を写真付きで読んだ幻想郷の皆だけの秘密である。

魔理沙「さぁさぁ霊夢!今回も私達が呼び出されたぜ!」

霊夢「そうね。鬱陶しいったらありゃしない。どうせなら本文の方での出番が欲しいものだわ。」

魔「しょ、初っ端から随分と飛ばしてるなぁ霊夢…作者のライフはもうとっくにゼロだぞ……」

霊「知ったごっちゃないわよそんなもん。大体、工業系の学校にいるってだけで学んでる分野もジャンルも全然違うじゃないの。それなのに何が『書きやすそう』よ。前書きで弱音吐く位なら書くなって話だわ。」

魔「ず、随分とこき下ろすんだな……でもまぁ、確かに霊夢の言ってる事も正論ではあるよな。特に作者は計画性ってモノを身に付けた方が良いと思うぜ?……ってここで言っても応答出来ないから無理か。」

霊「そうね。ま、次回予告もあるからこの辺にしておきましょう。」

魔「そうだな。……さて、恒例の。どぅるるるるるる………」

霊「もう引っかからないわよ。そもそもまだ二回目なんだから恒例も何もあったもんじゃ無いと思うのだけど。」

魔「ちっ、つまらん奴だなー…とにかく気を取り直して次回予告!次回のメインキャラクターは『ミスティア・ローレライ』!」

霊「……………………」

魔「ん?どうした霊夢?」

霊「……いや、前々から思ってたけどこの作者、馬鹿なのかなーって。」

魔「酷えなおい!?」

霊「馬鹿じゃなかったらロリコンね。このキャラ選考、もうどうにかしてるわ。作者の立場になんて立たなくてもわかる、書きづらいキャラの代表格じゃない。」

魔「そうかー?ミスティアに関してはそうでもない気がするが。屋台やってたりだとかも含めて、意外と設定豊富だぞ?」

霊「じゃあなに、あんたならどう書くのよ?一日中屋台張っててそれで終わりとかナシよ。もしそんな事したら二度と弾幕ごっこ出来ない身体にするからね。」

魔「うぐ、っ……確かに、中々の書きづらさだな。ネックになる筈の設定がいつの間にか枷になっちまってるぜ……」

霊「そうでしょう?正直な話、作者の正気を疑うわ。」

魔「だとしてもそこまで言うのかよ……でもまぁ、今回も一応、本人なりに考えはあるみたいだぜ?」

霊「へぇ、参考までに訊いて良いかしら?」

魔「作者によると、どうやら作者は完全にミスティアに熱を上げちゃってるみたいでな。『好きなキャラなら多少書きづらくても気合が入る筈!』って力説してたよ。」

霊「………成る程ね。そういうもの、なのかしら…?」

魔「あれ、やけにあっさり引いたな。また棘を飛ばすかと思ったんだが。」

霊「あんた私をどんな目で見てるのよ。……いや、実際ねぇ。愛だとか恋だとかが付く感情って、本人ですら意外に思う様なパワーを生み出す事があるからね。」

魔「なんか自分も体験したことあるみたいな言い方だな……怪しいぜ。」

霊「はぁ!?い、いやそんな訳無いわよ!中立を保たなきゃいけない博麗の巫女がそんな事……っ!」

魔「顔真っ赤だぞ……ま、可哀想だからこの辺にしといてやるよ。」

霊「それはそれは。お礼を言えば良いのかしら……?」

魔「れ、霊夢。目が笑ってないぜ……」

霊「……ま、巫山戯るのもここまでよ。」

魔「巫女だけに、ってか?」

霊「……………………」

魔「れ、れれ霊夢さーーん……返事して下さーい……」

霊「…………夢想封印。」

魔「うわあぁぁあぁああぁあ!?」ピチューン

霊「よし、スカッとした。じゃあ黒焦げになった魔理沙は放っておくとして、作者にはまぁ、期待しておいてあげるわ。……さて。」


霊、魔「「また次回!!」」






霊「……あんた最後、さらっと入って来たわね。」

魔「当然だろう?ここまで出といて最後だけ仲間外れなんて認めないからな。」

霊「全く、しぶといんだから……」

魔「……まあ良いか。で、一つ気になったんだが。」

霊「ん?何よ。」

魔「結局にとりって何を開発したんだ?最後のところ、化粧に関する何かだって事はわかるんだが…生憎私も霊夢も化粧なんて数える位しかした事無いからなぁ。」

霊「あー、確かに気になるでしょうねそれは。えーと、ちょっと待ってなさい。」

魔「カンペかよ……」

霊「……黙ってればわからなかったのに。」

魔「勘の良い読者さんは気付いたと思うぞ。で、一体どんな道具なんだ?」

霊「本人の顔写真を機械に認識させる事によって、その顔の特徴を生かした、もっとも模範的と呼べる化粧の仕方を表示する機械だそうよ。」

魔「な、なんかとんでもないもん作ってたんだなにとり……」

霊「まだ基本的な構想しか出来てないみたいだけどね。……でもこれが普及したら、みんな顔のレベルが一段階上がるって事ね。もしかしたら化粧しないっていうことそのものがただのやせ我慢としか受け取られない時代が来るかもしれないわ。」

魔「おっそろしい……ま、どんな道具にも良いとこと悪いとこはあるわな。少なくともにとりは良かれと思って作ってるんだろうし、それはまぁ私達は不干渉と行こうか。」

霊「私は最初から干渉する気なんて無かったけどね。」

魔「ああ、そうかい。……ま、とりあえず終わりにしようぜ。長くなり過ぎても申し訳ない。」

霊「もう十分長いと思うけど……ま、そうね。さよなら、読者さん。」

魔「じゃーな!次回会おうぜ!」

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