第3話 白猫邪神の実力
『白い牙』を壊滅させた私たちは、その足で近くの港に来ていたの。
「本当にあの白猫ここに来るんでしょうね?」
『ああ、間違いないよ。<彼ら>がそっちに向かってるっていう確かな情報もあるしね。」
電話越しに教えられた情報は、私を驚かせるには十分だったわ。
「うそ、<神会>が来るの!?あいつらが来るなら私がここにいる意味ないじゃない。私帰るわ。そして、りっちゃんと朝まで遊ぶ。」
『いやいや、会いたくないのはわかる。だけど、彼らは数だけで、本当に力があるのはほとんどいないんだから。君がいないと始まらないよ。』
「あいつらだけで何とかするでしょ。」
<神会>っていうのは日本の政府組織で、主に神様と人間の間のトラブル解決をしているの。
たくさんの神様がいる日本ならではの組織よね。
でも、力で何でも解決できると思ってる脳筋集団で、結構な嫌われ者なのよ。
美人で人気者の私とは対極の存在ってわけ。
だから、現場で会うたびに喧嘩を吹っかけられて困ってるのよ。
「今、真実とは違う心の声が聴こえた気がしたが、気のせいかえ?」
「気のせいでしょ?大体、影が私に意見するなんて100万年早いのよ。」
「ひどい言われようじゃの・・・」
『自分の影と漫才してる痛い人に見られるよ?』
「あ?」
『・・・ごめん』
「まあいいわ。それじゃ私帰るから。」
『いや、待って待って!今<神会>のやつらが人間の集団と交戦状態に入ったって情報が!』
「は?何してんのよあの脳筋集団は?」
『いや、どうやらMCされているようだ。すごいなあの邪神。こんなことまで出来るなんて。』
「MC・・・ああなるほど。そういうことか。」
『何かわかったのかい?』
「つまり、あの邪神の『神の立場を貶める』って能力は、大抵のことが出来るってことじゃない?」
『・・・それはどういうことだい?』
「あなたも今思わなかった?『神様は洗脳なんていうことも出来るんだ。なら今までの俺たちの行動って、神様に操られていた結果なんじゃないか』って。」
『!!!』
「そんなことあるはずがないってわかってても、頭のどこかで考えてしまう。それでなくても人間は、自分たちと違う存在を認められない種族だからね。少なからず神様を信用出来なくなる人間も出てくるハズよ。これは、<神の立場を貶める>行為だわ。」
『つまり、神の信用を落とすためなら、どんなことでも出来る能力を持つ邪神だと?』
「自分の力の及ぶ範囲でね。まあ、これは私の推測に過ぎないけれど、大きく外れてもいないんじゃないかしら?」
そう言いながら背後をゆっくりと振り返ると、そこには1人の黒いコートを着た男が立っていたのよ。
「MCされた人間・・・いえ、この気配は神様かしら?」
『な、襲われているのかい!?大丈夫!?』
「今から忙しくなるから、後でかけ直すわね。」
電話の電源を切って、私は目の前の神様に向き合った。
「待っててくれるなんて紳士なのね、ありがとう。でも、紳士ならこんな夜更けに乙女を襲うなんてしないと思うのだけど?」
「・・げ・・・」
「?何?」
「・・・げろ・・」
「ああ、お約束の台詞か。」
「逃げろー!!!」
コートの男は叫びながら真っ直ぐに私に突っ込んできたの。
「残念だけど、私・・・」
私は、暗闇の中でもはっきり見える『私の影』の中に右手を突っ込みながら、
「とっても強いのよ?」
影の中にある存在を掴み取った。
ドカンと音がしたその瞬間、コートの男は20m位後方に吹き飛んで行ったの。
「出来るだけ痛くないようにしてあげるけど、保障はしないわ。」
ズルリと『自分の影』から出した私の手には、長さ1mほどの漆黒の日本刀が握られている。
「神刀闇切。使うのは久しぶりなの。うっかり命まで取ってしまうかも知れないけれど、その時はごめんなさいね。」
コートの男は体制を建て直している。
(何が起きたのかわかっていないようね。でも、本能的に私のことを警戒している。)
直ぐに仕掛けてこないのは私にとっては好都合よ。
その間に、いろいろ罠を張ることが出来る。
(大丈夫。さっきはあんなこと言ったけど、絶対に助けて見せるから。)
あんな邪神の手のひらで踊るなんて、真っ平御免だもの。
そんなの、私のプライドが許さない。
「相手は恐らく何らかの芸能の神様じゃのう。少なくとも戦闘を得意とする神ではないわい。」
右手の闇切が小声で話しかけてくる。
「集中してるからちょっと黙ってて、ヤミ。」
「このワシが折角教えてやってるというのに・・・」
この闇切ことヤミこそが、ずっと私と話をしていた『私の影』。
正確には、『私の影の中に入っていた神様』なの。
「向こうもやっとやる気になったみたいだしね。りっちゃんに捧げるこのお肌に傷を付けるわけにはいかないのよ。わかる?」
「わからん。だが、お前に怪我をさせたくはない。一気に片を付けるぞい。」
「当然。一撃で決めるわ。」
コートの男が走ってくるけど、たった20mの距離を詰めるのに3秒以上かかるようじゃ
「私には勝てないわよ!」
叫びながら、私はほとんど地面に這い蹲るような体制で残り15,6mほどの距離を1秒で詰めると、
「!!!!」
相手の驚いた顔を真上に見ながら右手の闇切を一閃した。
「・・・・・・・・ありがとう。」
そういいながら私の後ろで倒れる神様。
「最後までテンプレな台詞ありがと。ま、手加減したから安心して。しばらくは動けないでしょうけど、その内動けるようになるから。」
「お主もテンプレ台詞じゃがの。」
「うっさいヤミ。あんたは戻ってなさい。」
闇切を影の中にしまうと、私はオトナシに電話をかけたの。
『大丈夫だったかい?』
「あら、心配してくれるなんて、珍しいこともあるのね。」
『いや、相手の事に決まってるだろう。ここで操られているだけの神様を殺したりしたら、それこそ戦争の火蓋を切ることになる。そうなったらお仕舞いだろう?』
「・・・そうですか。ま、いいけどね。」
『え、拗ねてるのかい?』
「あ?」
『すいませんでした。』
私は溜息を1つ吐くと、気持ちを切り替えたの。
「・・・それにしても、不完全とはいえ神様さえ操るとはね。あの邪神、そうとうなもんだわ。これは、<神会>に任せっきりには出来ないわねえ・・・」
『やってくれるかい?』
「ここまでやって帰るなんて出来ないしねえ。ところで、聞きたいことがあるのだけど?」
『え、何だい?』
「これって待ち伏せよね?こっちの動きがバレててガセネタ掴まされてる、何てことはないわよね?」
私は電話越しでも伝わるであろうとびっきりの笑顔で聞いたわ。
『・・・・・・・・・・・・ごめんなさい。』
「ゆ・る・さ・な・い♪」
私は怒っているのよ。
この後家に帰って、オトナシが泣いて許しを請うまで殴ってやったわ。