第2話 神様と人間の関係
「ねえ、聞きたいことがあるんだけど。それに答えてくれれば、これ以上痛い思いはしなくてすむんだけどな。」
「あ、悪魔・・・その力、お前が『久瀬の悪魔』か・・・?」
「質問に答えてないわね。それに、乙女に向かって悪魔だなんて、これはもう少しお仕置きが必要かしら?」
「ひいいいいいい。」
都内の高級マンションにあった『白い牙』のアジトに乗り込んだ私は、とりあえずそこに居た3人ほどを動けなくした上で、教祖っぽい人にお話を聞いているのだけど・・・。
「私にも時間がないのよ。あんたたちが生み出したあの邪神、いったいどんな力を持った邪神なのかがわからないと、無用な被害を出してしまうかもしれないの。出来るだけ穏便に済ませたいんだけど、教えてもらえないなら、私にも考えがあるわよ・・・?」
「うううううううう。」
「おいおい。こんなに怯えておるぞい。これじゃ話したくても話せんじゃろう。少し落ち着いたらどうじゃ。」
立体的に出てきた私の影がそう言ったとき、
「か、影が喋った・・・!も、もういやだ!何でも話す、知ってることなら何でも喋るから、お願いだから殺さないでくれ!お願いだ!」
って教祖らしき男は泣き出しちゃったの。
「・・・あなたが一番怖がらせているようだけど・・・?」
「無礼なやつじゃ。」
「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい・・・。」
「鬱陶しいわねえ、まあいいか。」
あんまりウザイから蹴り飛ばしたくなったんだけど、そこをグッと我慢して私は尋ねたの。
「あの邪神の能力は?お前たちは、あの邪神を使って何をしようとしてたの?」
神様っていうのは、たくさんの人間の願いや祈りを糧として生まれてくるの。
でも、前にも説明した通り、日本の神様は何かに特化した能力しか持てない。
つまり、曖昧な願いじゃ生まれることは出来ないってこと。
あの邪神がこいつらの願いから生まれたのなら、こいつらは何かをしたくて神様を作り出したってことなの。
「答えなさい。あなたたち『白い牙』は、何をするつもりで神なんか生み出したのよ?」
「・・・この社会は狂っている。」
「・・・何ですって?」
「だってそうだろう!何故人間が生み出した神様が人間よりも上に見られる!?俺たちはな、あいつらが信仰を取り戻したいっていう、ただそれだけのために職を奪われた人間の集まりなんだよ!」
・・・神様は、人間から信仰してもらわないと力が弱まって、やがて消えてしまうの。
そうならないために、神様達は色々なことをやっているわ。
その内の1つが、人間の仕事を手伝うこと。
神様は、自分の能力に合った事なら、人間に出来ない奇跡を簡単にやってのける。
しかも、神様に必要なのは信仰心だけ、お金を払う必要も無いからって、人間の職員を解雇するっていうお話は何度も聞いたことがあるわ。
「あいつらは邪魔なんだよ!俺たちの社会に勝手に入ってきて、俺たちの生活を乱しやがる!俺たちはこの社会全体を変えたかったんだ!日本から神様がいなくなれば、万事解決だろうがよ!」
「なるほど。<扇動する>、つまり、神様を洗脳して日本から追い出す能力か・・・。確かに効果的だわ。全く、厄介な能力を持たせてくれたわね・・・。」
男が、ビックリして私の顔を見てきた。
何故知っている?とでも言いたそうね。
こんなの、一寸考えればわかるでしょうに。
「テレビを電波ジャックしたのは、恐らくより効率的に能力を日本中に伝える為。多分、あの放送を見た神様は、余程抵抗力が強くないと、操られてしまうんでしょう。」
ジロっと私が睨むと、男は明らかに怯えた顔をして震え始めた。私は、座り込んでいる男の顔に顔を近づけて、出来るだけ優しい声で話始める。
「あなた、知っているかしら?神様条約を破る方法。」
「し、知るか。どうせ勝手に出ていくんだろ。そもそも、神様条約なんてデマじゃないのか。神様が勝手に言ってるだけで、誰も確認したことないんだろ。」
私は溜息をついてから、とびっきりの笑顔で言ってやったわ。
「いいえ、神様条約も、そして、それを破る方法もちゃんとあるのよ。それはね・・・人間の虐殺をして、完全なる邪神になること♪」
「・・・は?」
「あなたたちが生んだあの邪神も、完全な邪神というわけではないのよ。邪神になるべく生まれてきただけ。厳密にはまだ神様なの。」
男は、何がなんだかわからないといった顔で聞いていたわ。
「神様にはあの結界は絶対に壊すことは出来ない。どんなに強大な力を持っていても、絶対にね。でも、邪神には効かないの。あの幼神の目的が日本からの脱出、能力が洗脳である以上、あいつは人間の虐殺を始めるわ。あなたは、人間と神様の戦争の火蓋を切ったのよ。」
男の顔が、絶望の色に染まっていく。そりゃ、そうなるわよね。神様を追い出したいだけだったのにこんな大事になっちゃうんだもん。でも、同情はしない。
「な、何が、何故・・・私は、何のために・・・」
「一応記憶は消してあげるけど、あなたの心には一生罪悪感が残るようにしてあげる。何が原因かもわからない罪悪感に、ずっと悩まされればいいわ。」
私は踵を返すと、出口に向かって歩きながら言ってやったの。
「それだけのことをしたのよ。あなたたちは。」
パチンと指を鳴らすと、もう部屋には誰もいなくなっていたわ。
床に転がしておいた3人も、あの教祖も。
これからあいつらは、原因不明の罪悪感で一生悩まされるでしょう。
「亜津子よ。面倒なことになったのう。」
影が私に話しかけてくる。
「そうね。でも、あの白猫の思う通りにはさせないわ。」
私がドアを開けて廊下に出ると、部屋の中でボッと火が灯ったの。
それを確認してから、私はドアを閉じた。
マンションの1室だけが火事によって全焼したというニュース速報が入ったのは、それから2時間後のことよ。