第1話 白猫邪神
主人公は女の子です。
しかし作者は男です。
言葉遣いなど、変なところも多々あるかと思いますが、それでもいいと言う方は読んでくれるとうれしいです。
この世界は、神様と人間が共存する世界。
人間の作った社会に、神様も一緒に住んでいる。
大体の国では、神様条約があって、その国の神様の許可を取らなければ他の神様は入国出来ないの。
神様達は人間の信仰心から生まれているので、当たり前っていえば当たり前だよね。
他の神様に人間の信仰を奪われたら力が弱まるし、最悪の場合消えちゃうし。
で、他の国ではそうやって、人間と、1人か多くても2人くらいの神様が仲良く暮らしていたんだけど、1つの国だけは違ったのよ。
どこって?そんなの日本に決まってるじゃん。
だって、長く大切に使い続けた物や、米なんかの食料からまで神様が生まれる国だよ?
八百万の神っていうくらいだもん、それはもういっぱいいるのよ。
てことは、人間が信仰する神様も千差万別、1人の神様に集まる信仰も高が知れてるわけで・・・。
たまに、すごく強い神様もいるんだけどね。
この国では、日夜人間の信仰を奪い血で血を洗う戦いが繰り広げられているわけ。
この話は、そんな神様の中の1人が引き起こしたスゴーク迷惑な話。
そして、その神様の陰謀を食い止めようと頑張った私たちのお話でもあるわけよ。
興味があるなら見ていけば?
じゃ、始まり始まりー。
★★★★
「ねえねえ、あーちゃん。」
「・・・何?りっちゃん。」
「・・・日本にも、邪神っていたんだねえ・・・。」
「そうねえ・・・。」
私は久瀬亜津子。
隣にいるのが長瀬鈴。
私の幼馴染で、2人とも16歳の高校生。
私たちは今、りっちゃんの家でテレビを見ながらお喋りしてたんだけど、突然番組が変わったと思ったら、俺は邪神だっていうやつがテレビに出てきて、こんな話を始めたの。
「俺は全ての闇を司る存在、全ての神の頂点に立つことを約束された、すばらしい神様なのだ!」
なんか、この時点でいやな予感しかしなかった。
だって・・・物凄くアホそうなんだもん。
てか、姿が完全に白猫の邪神って何?
全ての闇を司る邪神なのに、何で白猫なの?
せめて黒猫だったら、もう少し威厳があるかもしれないのに。
っていうか、胸を貼ってマイクの前で話をしている猫・・・何か癒されるわねぇ・・・声や態度を気にしなければ。
「俺は、この日本でしか生きていけない。なぜなら、神様条約があるからだ。これは、神様が破ろうとしても破ることができない絶対の力なのだ。」
「あーちゃん、そうなの?私この辺の話よくわからないんだけど。」
「うん、知り合いの神様に聞いたことあるなー。他の国に無許可で入ろうとすると、すごく痛い思いをするんだって。場合によっては、それで消滅もありえるくらい。何でそんなことになるのかは、誰にもわからないらしいけど・・・。」
その神様はその時「すげえ痛かったよ。マジで泣きそうになったもん。」と泣きながら言っていたなあ。
「だが、俺はこの条約を破る方法を見つけたのだ。どうせ他の国の神に入れてくれと言っても、入れてくれるわけがない。なら、そこを強引に破って入り、そいつの信仰を奪っていくしか、今日本に住んでいる神には生きるすべがないのだ!そうだろう神様諸君!」
その言葉を聞いて私は一瞬動きを止めてしまったよ。
(今、何て言ったこの猫?)
今の話が本当なら、すごく困った話になるんだよ。
すごーく、しかも世界中が。
だけど困ったことに、私の聞き間違えでは無かったわけ。
「俺は、この日本を出るぞ!日々新しい神が生まれていくこの小さな島国では、この先神々は生き残ることは出来ないんだからな!もしこの俺についてくる者がいるのなら、明日俺のところまで来い!神ならば場所がわかるはずだ!俺の居場所もわからない雑魚に用はないからな!」
白猫が一方的に話し終えると、テレビは元のチャンネルに戻り、そこではテレビ局のスタッフが慌しくしている様子が映っていた。当然か、放送事故もいいとこだもんね。それより・・・・・・。
「うわー、すごいことになっちゃったねえ。どうするのかな、神様達。」
りっちゃんは人事のように言ってるけど、私は焦っていたのよ。
なぜなら、私はある意味で当事者だったから。
(うそ、バレた・・・?神様条約で国境に張ってる結界、バレたってこと?つまり、あの白猫がやろうとしてることって・・・)
「あーちゃん、あーちゃん?」
「悪いりっちゃん。用事を思い出したから帰るね。それと、明日は私いないと思う。学校にも行かないから先生に言っておいてくれる?」
「うん、わかったー。頑張ってねー。」
多分、りっちゃんは私が何をしにいくかはわかってない。
だけど、大切なことなんだってことはわかってくれてるんだろうなあ。
こういう時、幼馴染パワーは偉大だよね。
「ゴメンね、今度パフェ奢ってあげるから。」
「わーい。」
「じゃね。」
「ばいばーい。」
りっちゃんに見送られながら、私は自分の家に戻ったの。
家が隣同士だし、1分も掛からなかったけど。
「ただいまー!」
靴を脱いで、2階の自分の部屋に駆け上がる。
「亜津子、どうするんだい?解決、しに行くのかい?」
私は、目の前に立体的に出てきた私の影に向かって叫んだの。
「当たり前!じゃなければ楽しい遊びの時間をキャンセルして帰るもんか!あの白猫には、たっぷりお仕置きをして上げないといけないわねえ・・・。」
「クククって、年頃の女の子がしていい笑いではないでしょうに・・・。あたしゃあんたの将来が心配だよ。」
「何言ってんの!私とりっちゃんの逢引の時間を邪魔したのよ!?生まれてきたことを後悔するくらい痛めつけてやらないと気がすまないわ。」
「逢引て・・・。少なくとも向こうは遊んでるだけだと思うけどねえ。レズなんてやめて、男と付き合えばいいのにさ。貴重な青春を無駄にしてるんじゃないのかい?」
「レズなんて呼ばないで、百合と言ってよ!それに、自分の青春をどう使おうと私の勝手だわ!凡人にはりっちゃんの可愛さがわからないのよ!あんなに可愛いのに。・・・それに、私りっちゃんに好きな人が出来たら全力で応援するもの。りっちゃんが悲しむようなことはしないし、誰にもさせないわ。」
「それがたとえ、神様にでも、かい?」
「ええ。たとえ、神様でも、よ。」
私と私の影は、少しの間見詰め合ったの。
傍から見たら可笑しな構図だったでしょうね。
でも、ここには私たちしかいないのだから、関係無いわ。
「じゃあ、行くんだね?」
「ええ。今すぐにでも。もしあの白猫が、本当に結界を破る方法を見つけているとすれば、止めなければ、あなたたちの、いえ、私たちの時代は終わるわ。」
「なら、まずは情報集めだね。誰に聞きに行くんだい?」
「大丈夫よ。多分、もうすぐ来るわ。あいつだって、こんなことになってるのに黙って見ているわけにはいかないでしょ。」
「そうなんだよねえ。困ったことに、今回は静観するというわけには行かないみたいだ。全く、俺は静かに暮らしていたいんだけどねえ・・・。」
突如部屋の中に響いた男の声に、しかし私も彼女も驚いたりはしなかったわ。
そろそろ来ると思ってたし。
「乙女の部屋に勝手に入るなんて、殺されても文句は言えないのよ?オトナシ。」
「うわ、こええ。いや、すいません。マジごめんなさい。」
そう言って私たちの前に姿を現したのは、くたびれたグレーのスーツを着た40代後半位のおっさん。
どこにでもいるような、そう、本当に何処にでもいるような人間で、近くにいても普通すぎて気づかないくらい。
こんなのが部屋にいつの間にかいれば、普通の女の子なら叫んでいるわね。
普通、ならね・・・。
「オトナシ、情報は?当然、あるんでしょ?」
「こっちも一応商売でやってるんだけどねえ。まあ、今回はそんなこと言ってられないし、特別にタダで教えるけどさ。恐らく、君たち<久瀬>にしかこの問題は解決出来ないだろうしねえ。」
「余計な前置きはいいから、早く。」
私が睨むと、オトナシはそれまでのふざけた態度を一変させて、プロの顔になったの。
(うん、この顔のときは少しかっこいいんだけどね・・・)
普段がふざけているので、あまり好きじゃないのよ。
オトナシは、今現在も続く、忍者の末裔なの。
多分、この顔も本当の顔ではないんでしょうね。
でも、今までも彼がいたから解決出来た問題もあるし、腕は確かな忍者なのよ・・・多分。
「何か、とてもバカにされているような気がするんだけど・・・。ま、いいか。それよりもあの邪神だけど、どうも,<幼神>みたいだね。」
「<幼神>か・・・やっかいね。力が強いともう最悪だわ・・・。」
神様は、生まれた瞬間から高い力を持って生まれてくるの。
そもそも神様を生み出すのには強い信仰の力が必要だから、当たり前なんだけど、問題なのは、力の制御がうまく出来ないということ。
長い時間を生きた神様は、信仰の力も減ってるし、自らの力の制御の仕方もわかっているから問題ないのだけれど。
私たちの間では、生まれてから20年以内の神様を<幼神>、それ以外を<神様>って呼んでいるの。
「つまり、あの白猫は、やたらと強い力を持つ上にそれを制御出来ない、ううん、する気がない神なのかしら?」
「そうみたいだねえ。ていうか、多分生まれたのも1週間くらい前だしね。」
「1週間!?それってほぼMAXパワーってこと!?」
「うん。都内に『白い牙』っていう秘密結社があってね。そこは邪教と言ってもいいくらい禍々しいことばかりやってる所なんだけど、そこで生まれたみたい。」
「おまけに、冗談じゃなく邪神なのね・・・。そこから生まれた神なら、結界を破るなんて考え付いてもおかしくはないか。」
神様は自分の生まれた理由に関わる力を持って生まれてくるの。
海外の神様には万能の力を持ってるのもいるみたいだけど、日本で生まれる神様は皆、何かに特化した能力や性格を持っているのよ。
大雑把に言えば、川の神様なら水を出したり、水の流れを変えたり出来るわけ。
力の大小はあるし、同じ属性の神様でも、全く同じことが出来るとは限らないけどね。
「多分、人の悪意や憎悪なんかの負の概念の神様なんじゃないかな。結界を破るってことは、そういうことだし、ね・・・。」
(そう、結界を破る方法は確かに存在する。でも、それをやったら人間と神の共存の時代はお仕舞いよ。もしかしたら、その結果出る悪意を吸収することが目的・・・?)
神様は、自分の力に合ったものをとることでも力を蓄えることが出来るの。
さっきの例だと、水の神様なら水がたくさんあるところにいれば力が増すわ。
つまり、悪意や憎悪から生み出された邪神なら、たくさんの人が怒ることでも力が増す可能性があるわけ。
「これは・・・想像以上に拙いかも知れないわねえ。」
私が溜息をつくと、オトナシが笑い出したの。
「くく。どんな問題だろうと、君たちにかかれば一発だろう?君たちに勝てる神なんて、この世のどこにもいないさ。」
「楽しそうね。私は楽しくないわ。戦いなんて野蛮だし、少しの間でもりっちゃんと一緒にいられなくなるもの・・・。」
「明らかにそっちが本題そうじゃのう。」
今まで黙っていた私の影が呆れた声で言うから、
「当たり前でしょ。今回だって、りっちゃんが困るから解決するんだからね!」
って返してやったら、オトナシまで呆れた顔して・・・。
「何よ、私何か変な事言った?」
絶対変な事言ってないと思うんだけどな・・・。
「・・・それで、これからどうするんだい?」
「その『白い牙』とやらに行くわ。とりあえずこんな事態になった責任を取ってもらうの。場所を教えて?」
「・・・うわ、可愛そうに。『久瀬の悪魔』に目をつけられるなんて。」
「何か言った?」
私はニッコリ笑ってオトナシを黙らせると、教えてもらった場所に直行したの。
勿論、平和的に解決するためよ?