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魔法学校の中の刀使い  作者: シェイフォン
1章 彷徨う者
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実は味方なし

「うーん……黒炎球を小さくして数を増やせば良いかもしれないわね」


「……」


 魔力が尽きて倒れ伏した僕はそうブツブツと呟く神崎さんを半眼で見る。


「けど、あまり数を増やし過ぎると取り返しがつかなくなりそうだからむやみに増やすわけにはいかないわ」


 僕は恨みを視線に込めているのだけど、生憎と全然神崎さんは気付いてくれない。


「やるだけやっておいて後はポイか?」


 思わずそんな嫌味も漏れたが、余ほど自分の思索に没頭しているのか神崎さんは一瞥どころか身じろぎもしなかった。


 そしてそのまま神崎さんは鍛錬場から出て行く。


 時間的に考えて風紀委員の三役で行われる打ち合わせに出席するためだな。


 意外かもしれないが神崎さんは頭の回転も速いので人でも意見でも纏めるのが上手い


 そのせいか神崎さんは僕達一年の風紀委員のリーダーとして上級生から信頼されていた。


「御神楽さん、ありがとうございます」


「ん? どうして白川先輩がお礼を言うんですか?」


 魔力回復のために寝そべっていると上からそんな声をかけられる。


 白川雪――中肉中背、髪もボブカットとこれといって特徴が無く、初対面だとまず顔を覚えられないという悲惨な属性を持っている彼女だが、治癒魔法が扱える他にも誰に対しても優しく飽和する態度を変えないので風紀委員の内外を問わず人気が高い。


 僕としては何故二年の白川先輩が風紀委員長はおろか三役にすら選ばれなかったのかは疑問に感じているが、詮索したところで無駄だろう。


 部外者が口を出しても意味が無いしね。


「御神楽君と戯れている神崎さんは本当に生き生きとしていました」


 白川先輩はそうコロコロと笑うが、残念ながら僕は全然笑えない。


「言っておきますが僕は生死の狭間にいましたよ?」


 特に中盤から黒炎球を小さくして数を増やしたのでそれを斬るのに大変だった。いくら白川先輩が制服を含めて後で治してくれるとはいえ死んだら意味が無い。


あの黒炎の前に僕の直感は警報を鳴らせ続けていた。


「今日は久しぶりに穏やかな会議になりそうです」


「大変そうですね」


 しみじみと呟く白川先輩に僕は相槌を打つと彼女はキッとこちらに顔を向けて。


「大変どころじゃありませんでしたよ。御神楽君がいなくなったあの日以来、風紀委員会内が殺伐とし、息苦しさを感じる毎日でした」


 なるほど。


 だから同期の橋本が僕に対してあんな態度を取ったのか。


 あの橋本が傲慢な対応を取る日が来るなんて思いもしなかったな。


 橋本って呑み込みが遅いからよく今日の授業の復習とか教えていたんだけどな。


 真面目で礼儀正しかった橋本の豹変に僕は胸に隙間が空いてしまったように感じる。


「と、いうことで御神楽さん」


「はい?」


 僕が悲しさに浸っていると白川先輩が声を掛けて来る。


「次からもよろしくお願いして良いですか?」


「まあ、僕はそのつもりですけど」


 正直これを耐え切れたら強くなるかどうか分からないけど、一人で黙々と修練に励むよりかはましだろう。


 そういう意図を白川先輩に伝えると、彼女はホッとして両手を合わせて。


「良かった、これで風紀委員内の空気も和らぎそうです」


 そう呟く白川先輩は心底嬉しそうだ。


 白川先輩が喜んでくれるのはお世話になっていたことも手伝って僕も嬉しい。


 だから僕は膝に手を付いて立ち上がりながら。


「心が折れて魔力が尽きない限り僕はこの特訓を受ける予定です」


 軽くそう返すと白川先輩は僕の手をぎゅっと握る。


 白川先輩の柔らかい手が僕の手を包みこんだので一瞬心拍数が跳ね上がるけど。


「大丈夫です。例え心が折れても神崎さんの前に引っ立ててあげますし、欠席したら私が直接迎えに行きます」


「……それ、冗談ですよね?」


 白川先輩の宣言に僕は泣き笑いになってしまった。


 僕の味方はいないのか?


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