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魔法学校の中の刀使い  作者: シェイフォン
1章 彷徨う者
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教室での決意

 キーンコーンカーンコーン


「今日のHRはこれで終わりだ」


 壇上に立つ教師がチャイムの音を聞いて話を中断させる。


「続きはまた来週のこの時間に行う……それでは起立、礼」


 教師の言葉で僕を含め、全員が立ち上がって礼をし、そして着席した。


「ふう、今週も生き残ることが出来た」


 教師が去り、残った生徒が部活へ向かったり隣のクラスの友人と待ち合わせをするなど皆が思い思いの行動を取るなか、僕は安堵にホッと一息をつく。


「今日の実技のテストで三回連続及第点に達しなかった生徒が転校手続きを取らされているのを見ると、明日は我が身かと戦々恐々だよ」


 僕は何とかギリギリ及第点だったので声がかけられていない。


 ただ、それだからといって安穏とするわけにはいかない。


「はあ、来週は更にハードルが上がっているのだろうな」


 今日が無事だからと言って明日も無事とは限らないのが僕の様なギリギリの者にとってストレスが溜まる。


 と、ここまで考えた僕は机に立て掛けてある愛刀を抜く。


 長さ三尺(約90cm)と長刀の部類に入るそれは名を千変万化といい、ここに入学する際に父から贈られた家宝である。


 幕末の頃に造られたそれはもう百五十年以上経っているにも拘らず、その刀身は鏡の如く僕の顔を映していた。


「……酷い顔だ」


 刀身に映った自分の顔をそう自嘲する。


「あの時の僕はどこへ行ったのか」


 魔力を失っていなかったあの頃は今の様にテストの対策をする必要もなく、ぶっつけ本番で何とかなっていた。そして退屈な授業の後には風紀委員の教室で駄弁るか神崎さんと学園周辺の地域を含めて見回る日々。


「失って始めて分かったけど、僕はそこが居場所だったんだな」


 中身のない話や神崎さんとの喧嘩で無駄な時間を過ごしているなと考えていた時が今では懐かしい。


「……ッウ」


 不意に視界がぼやける。


 それは自分が泣いているからだと気付くのに少しかかった。


 魔力があった頃だと、クラスメイトは僕の一挙一足に注目していたものだけど、今ではまるで透明人間の様に僕に対して何の関心も抱いていない。


「本当に何をやってるんだろ」


 一瞥を向けることすらせずにクラスメイトが去っていく中、思わずそんな弱音が漏れてしまう。


 どうして自分がこんなに苦しい思いをしなければならないのか。


 しかし、その答えは頭の片隅で出ている。


 生きるためだと。


 退学しても自分の帰る場所は無いからだと。


 勘当されたら食べるために働かなければならないが、中卒で雇ってくれる会社なんて絶望的に少ない。


「だから頑張るしかない」


 魔力のほとんどを失ったとはいえ、まだ夢宮学園に通うだけの力量は残っている。


 それに少しずつだが失った魔力も鍛錬を重ねるごとに戻ってきている。


 僕が段々ハードルが上がっていくテストにギリギリで合格しているのはそのためだろう。


「よし、泣き言は終わり」


 僕は自分の頬を叩いて喝を入れる。


「何のために学園に通い続けるのか。それは生きるため」


 針の寧ろどころか毒針の寧ろで座っているのは、ここを辞めてしまえば本気で自分の人生が終わるからだ。


「意外と僕って生きたがりなんだな」


 涙を拭いた僕は新たな自分の発見に笑う。


 小さい頃から何でもできた僕は世の中に関心が薄く、明日に死ぬとしても足掻かずにそれを受け入れる。


 何に対しても追わず拒まずというのが御神楽圭一だと考えていた。


 しかし、実際生死の淵に立たされて見るとそれは虚像だということを知る。


 本当の僕は相当執念深い。


 生きるためならば。


 目的のためならばあらゆる努力を惜しまず、どんな嘲笑にも耐える。


 それこそ石に齧り付いてでもその場で留まろうとするだろう。


「やれやれ、本当に自分というのは分からないものだ」


 まさか自分にこんな一面があったとは。


 こんな状況に陥らなければ絶対に気付かなかっただろうな。


「さて、帰るか」


 気分を入れ替えて僕は立ち上がる。


 来週のテスト対策のために一瞬足りとも時間を無駄にしたくない。


 明日を続かせるために僕はしっかりした足取りで教室を出ていった。


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