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魔法学校の中の刀使い  作者: シェイフォン
第二章 我が道を行く
23/29

引き抜き 2

長くなりそうなのでサブタイトルを変更しました。

 南条会長と共に生徒会室に入室した僕はまず備え付けのポットと茶道具がある場所に向かう。


 何時の間にか僕がお茶を淹れる役割になっていた。


「ん〜、圭一君の淹れるお茶は美味しいわねぇ」


「そりゃどうも」


 褒められて悪い気はしないけど、ここは素っ気なく返しておくのが無難だろう。


「生徒会役員になりたいと希望する生徒はロクにお茶も淹れられない……全く、エリートとあろうものが一体何を学んできたのかしら」


 妾とはいえ上流階級出身の南条会長を満足させるお茶を出せる十代が何人いるのか。


 しかも我が道を貫く魔法使いが格式張った礼儀作法に興味を持つはずが無いだろう。


「ふう、落ち着くわ」


 ほっこりとした表情でお茶を啜る南条会長を見ながら僕はそんなことを考えた。




 お茶とお茶菓子をつまみ、ある程度空気が緩まったところで南条会長が口を開く。


「新入生の獲得合戦は大方終えたみたいね」


 夢宮学園は委員会も勧誘が行われており、部活よりもそれは激しいのが特徴である。


「良い新入生を獲得出来なかった委員会や部活からの勧誘が煩かった」


 僕は肩を竦めながらそう述べる。


 四月の下旬ごろになると新入生のほとんどが身の振り方を決めており、委員会や部活は残っているパイを手に入れようと血眼になる。


 そのせいか僕のような半端者まで勧誘を受けるようになっていた。


「しかし、学園と社会を繋げるのは止めて欲しいよな」


 各団体がこうまで新入生獲得に躍起となっているのは金と地位が関係している。


 外の社会で結果を出せばその分謝礼として報奨金が出されるに加え、卒業してからの進路も決まるので生徒としては活躍機会の多い委員会に入ろうとする。


 そして委員会も組織自身の面子や伝統を保持しようと働く作用があるので結果的に他の学園より勧誘活動は激しくなった。


「あら、私は良いシステムだと思うわよ」


 南条会長は唇に笑みを浮かべながら言葉を紡ぐ。


「魔法でも学校でも人の役に立つことが普通。頭の中でしか使えない理論なんて存在する必要が無いわ」


 なら付属大学の存在はどうなるのか。


 様々な理論や公式を編み出すことが目的の大学を南条会長は全否定した。


「あーあ、生徒会も社会と交わることが出来れば良いのに」


 南条会長はため息を吐く。


「そうすれば生徒会にもう少し人材が集まるわ」


「まあ、その可能性は否定できないね」


 夢宮学園にある組織の中でぶっちぎりの最下位が社会と交わる権限の無い生徒会。


 希望する生徒はどこの委員会や部活にも不要とされた生徒ばかりという、別名姥捨て山と蔑まれている。


「でも、それで良いんじゃないか?」


 僕は続ける。


「君臨すれども統治せず、実際これで上手く回っているのだから何も手を加える必要はないと思うけど」


 が、南条会長はその現状に気に食わないと言わんばかりに机をバンと叩いて。


「代表といっても発言権すらないお飾り! そして決裁書類も私の判子無しでもOK! 舐めているのかしら!」


「そこは言ったらお終いだろう」


 学園内最弱の立場である生徒会に権利などある方がおかしい。


「だから圭一君、私はこの状況を打破するために秘策を考えてきたわ」


 ようやく本題に入れそうだ。


 僕はぬるくなったお茶を傾けながら公聴モードへと入る。


「圭一君、現在生徒会役員は何人だと思う?」


 南条会長がそう振ってきたので僕は躊躇いもなく。


「ひとーー」


「私と圭一君の二人しかいないのよ」


 ……言おうとして南条会長に機先を制される。


 しかもいつの間にか僕を勘定に加えている始末である。


「いくら私と圭一君が優秀で回させているとはいえ、万が一のことがあれば学園の業務が停滞してしまうわ」


「いや、おそらく何の支障もないと思うぞ」


 実際、南条会長のやることは生徒の代表としての立場として立つか、決裁書類に百均で売っている判子を押すだけなので正直必要ない。


「だから私は早急に人材の補給をしなければならないのよ」


「だから質さえ拘らなければ人は幾らでもいる。しかも生徒会の業務は特に魔法を使用しないから誰だって出来るだろう」


 普段は南条会長が全てをこなしているけど、会議の代表として出席などどうしても外さなければならない場合は僕が代わりに業務を遂行する。


 魔法を使う必要が無いので劣等生でも十分である。


「圭一君、この写真を見て頂戴」


「……もう良いよ」


 南条会長の話に突っ込みを入れていた僕だけど、もう止めることにする。


 言ったところで時間の無駄だし。


 適当に頷いておけば南条会長は飽きるだろうと考えていると。


「――と、いうことで圭一君。彼女を勧誘してきなさい」


「は?」


 南条会長が手渡した写真に写っている生徒を見た僕は思わずそんな言葉が漏れる。


「南条会長……どう考えてもこれは不味いだろう」


 顔を歪ませながらそう抗議するも。


「大丈夫よ、圭一君は彼女をここまで連れて来れば良い。後は私が引き受けるわ」


 自信満々に不敵に笑いながら宣言する南条会長に僕は何も言えなくなってしまった。


 その様子を見た僕は説得を諦める。


 ここまで来るとあーだこーだ言う前に現実を見せた方が早いだろう。


「……分かった、彼女を連れて来る」


 僕はため息を吐きながらそう告げる。


「しかし、僕はあくまで連れて来るだけだ。勧誘の際の口出しは一切しないから援軍など期待するなよ」


「分かっているわよ~」


 手をヒラヒラさせながら軽く微笑む南条会長に僕は呆れを通り越して感動すら覚える。


「まあ、場を整えるだけなら良いけどさ」


 僕は写真に写っている生徒をもう一度凝視する。


 その生徒は個性というものが無く、余程記憶力の良い人でないと写真を見ただけでは覚えることが出来ない。しかし、その全てを包み込むような博愛的精神によって多くの人から愛されている生徒。


 夢宮学園三年、風紀委員会回復班――白川雪。


 彼女が写真の中で照れくさそうに微笑んでいた。

白川雪の再登場に読者様が「おおっ」と、唸ってくれると作者冥利に尽きます。

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