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魔法学校の中の刀使い  作者: シェイフォン
1章 彷徨う者
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葛藤

「礼を言うわ」


 放課後。


 鍛練場に姿を現した神崎さんが開口一番そう述べる。


「幸いにもあれが初犯だったみたい。だからこれ以上問題は大きくならなくて済みそう」


 あの後、駆けつけた神崎さんは真っ先に立花さんと仙道さんの元へ赴いて謝罪したと聞いている。


 以前から面識があったのも手伝い、後腐れがなくて済みそうだと白川先輩経由から聞いた。


「で、結局彼らはどうなる?」


「橋本は風紀委員を除名。そして残りの彼らも停学処分ね」


 僕の疑問に神崎さんはあっけらかんと答える。


 彼らの行いに同情の余地はないものの、それでも神崎さんの態度に悲しみを感じる。


 僕が知っている橋本は小心者だが根は悪い奴でないので、自ら進んで悪事を行うような人間じゃなかった。


 そんな彼が今回の出来事をしでかした原因は今の風紀委員会の風潮にあるだろうと容易に予測がついた。


 上が腐れば下も皆腐るという。


 僕が魔力を失って以来、神崎さんはますます先鋭化してしまったので、その空気に合わない橋本のような生徒は異常をきたしてしまうだろうな。


「ん? 御神楽君、何か言いたいことでもあるの?」


 顔に疑問でも出ていたのか神崎さんは僕を覗き込むようにして尋ねてくる。


 今、ここで神崎さんの問題点を指摘した方が良いのかと一瞬考える。


 神崎さんは此度の不祥事を嘆いているが、彼女はその根本の原因を探ろうとしていない。


 このままだと第二、第三の橋本が生まれてしまうだろう。


 ……そう、だから。


「今の神崎さんは人の上に立つべきじゃないね」


 僕は怒りを買うのを承知の上で発言した。


「へえ、どういう意味?」


 案の定、神崎さんは剣呑な光を瞳に宿す。


「突然何を言うかと思えばそれなの?」


 神崎さんの問いかけに頷く僕。


「ああ、今の神崎さんは周りが見えていない。何故橋本があんな凶行に走ったのか理解している?」


 首を傾げる様子から神崎さんは知らないのだろう。


 いや、知ろうともしていないか。


 なら、仕方ない。


 ここは元ライバルとして叱ってやるのが正しいだろう。


 そう考えた僕は神崎さんを弾劾しようと口を開くのだけど。


「……その話は後でお願いできませんか?」


 傍で沈黙していた白川先輩がそう制止を掛ける。


「これは風紀委員会内の問題として私が責任を持って対処します」


「なるほど」


 白川先輩の提案に納得する僕。


 確かに何も知らない僕が指摘すると口論になるのは目に見えているので、比較的温和な白川先輩に任せるのが最も良いだろう。


 だから僕はこれ以上この話題に突っ込まないようにしたのだけど。


「ちょっと待ちなさい。勝手に終わらせるんじゃないわよ」


 神崎さんが目を吊り上げて抗議する。


「私は御神楽君が何を伝えたいのか非常に興味があるの。だから今、ここで話しな――」


「神崎さん、少し落ち着いてください」


 白川先輩が珍しく神崎さんの話を遮った。


 普段から温和な白川先輩がこのような態度を取ることが予想外だったらしく、神崎さんも目を丸くしている。


「先日の出来事で神崎さんだけでなく、御神楽さんもナーバスになっています。ここで話し合うと感情のぶつかり合いになるのが目に見えていますので後日私の口から話します」


「でも、それでは私と御神楽君の意見が食い違う可能性が出てくるわよ」


 話しを止めた白川先輩に対して怒りの感情を浮かび上がらせていないのは、先輩に対する配慮ゆえだろうか。


「大丈夫です、後日に二人だけで話し合う場を設けます。今回はあくまで神崎さんが話の要点を掴むだけですので」


「まあ、それなら良いわね」


 白川先輩の言い分に神崎さんは納得したようだ。


 一つ頷いた神崎さんはこの話題を打ち切った。


「ところで御神楽君。あんたは魔法を使ったようね」


 グルリと首を僕の方へ向けながら尋ねる。


「橋本から当時の状況を聞いたときは耳を疑ったわ。けど、彼が嘘をついている様子はなかったし何よりビルのあの位置にあった傷が“飛翔する刃”に酷似していたので、私は御神楽君が魔力を取り戻したと判断したのだけど」


「ああ、その通りだ」


 神崎さんの推理に僕は頷く。


「確かに僕は魔力を取り戻し、魔法を使った」


「へえ、それは良かったじゃない」


 神崎さんは嬉しそうに微笑むけど、僕としては素直に喜べない。


 何故なら、自分の力の源が何であるかを知ってしまったから。


 これが神崎さんの悪に対する怒りのように前向きな感情ならどれだけ嬉しかっただろう。


 が、現実は違う。


 むしろ正反対の衝動が僕の全て。


「僕の根源は無への誘い。種を問わず何かの繋がりを断ち切る衝動が僕に力を与える」


 白川先輩は僕の言葉の意味を正確に理解したのだろう。


 口に手を当てて固まる。


 そしてまだピンと来ていない神崎さんのために僕はさらに言葉を重ねて。


「どうやら僕は壊すことが大好きみたいだ」


 安定を忌み嫌う。


 人を孤独と不信へ陥れ。


 繋がりを断ち切らせることが僕の存在意義。


「ごめん、やはり僕は退学しかないようだ」


 魔王。


 それが将来僕の立ち位置になるのなら、今ここで道を諦めるべきだろうな。

何だかんだ言っても御神楽はまだ17歳の人が恋しい年頃です。

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