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魔法学校の中の刀使い  作者: シェイフォン
1章 彷徨う者
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裏路地 後編

「何言ってんのよ! あんた達が勝手にぶつかってきたんでしょ!」


「ゆ、柚ちゃん。もう止めようよ」


 その路地裏の奥から聞こえてくる舌足らずな抗議の声とおろおろした制止の声から僕は二人の女子を思い出した。


「立花柚と仙道千華か」


 確か十月頃に神崎さんと見回りをしていた際に出会った覚えがある。


 あの時も性質の悪い連中から絡まれていたな。


「運命じみたものを感じてしまうのは気のせいかな」


 一度助けた人をまた同じシチュエーションで助ける。


 偶然かもしれないけど、何か因果めいたものを勘ぐってしまった。


「はいはい、ここまでだ」


 最後の角を曲がりながら僕はそう忠告する。


「夢宮学園の御神楽だ。ここで引き下がれば何もしないから大人しく――」


 ここで詰まったのは立花さんと仙道さんを囲んでいる者達が予想外だったから。


 僕はてっきりあの時と同じよう魔法の使えない、もしくは少ししか使えない不良だと考えていたのだけど、彼らが来ているのは紛れもなく夢宮学園の制服。


 そしてそれだけ以上に僕を驚愕させたのは、彼らのうちの一人に見知った顔があったからだった。


「……橋本」


 学園及び学外の治安を守る役目を持つ風紀委員である橋本がいた。




 すでに辞めたとはいえ、風紀委員に在籍していた身なので規則や秩序を乱す者に対して良い感想を抱いていない。


 破ったら問答無用で制裁を加える神崎さんまではいかないものの、口頭で注意はする。


 しかし、それが秩序を守るべき者であるのなら言い訳は聞かない。


「……」


「何だよ? やるのか?」


 僕が無言で刀を抜くと橋本が目を見開く。


「魔力の失ったお前に何ができるのか知りたいねえ?」


 橋本の声に調子を合わせて他の夢宮学園の生徒が同調して嗤う。


 周りの様子から察するに僕は嘲笑されているのだろう。


 まあ、夢宮学園の生徒は僕が魔力のほとんどを失ったことを知っているから当然かもしれない。


 しかし、立花さんと仙道さんは違う。


 信じられないように僕を見上げてくる。


「そうなのですか、御神楽先輩?」


 立花さんの震えながら呟く言葉に僕は頷いた。


 それは事実だ。


 隠してもどうにもならない。


「……そんな」


 仙道さんが悲しそうに首を振る。


 水鏡中学も魔法使い養成学校に指定されているので、僕と同じようにある日魔力を突然失う生徒もいる。


 そのことから二人は僕が本当に魔力を失ったと推察したのだろう。


「惨めか、御神楽?」


 取り巻きの一人が尋ねる。


「かつて自分を慕っていた後輩から同情されるのはどんな気分だ?」


 その言葉は僕を怒らせるために言い放ったのだろう。


 が、残念ながら僕の心に怒りはない。


 本来なら悔しさと情けなさで視界が真っ赤になってもおかしくないのかもしれないが、そんな感情は湧いてこない。


 全てを破壊したい衝動の代わりに湧いてくるのは無に帰す心。


 彼らが風紀委員はもちろんのこと、夢宮学園の生徒でいることは許さない。


 例え神が許そうとも僕が許さん。


「……」


 返答代わりに僕は刀を一閃させる。


 “飛翔する刃”が橋本のすぐ上を通り過ぎて髪の毛が二、三本落ちた。


「なっ……」


 橋本を始めとした夢宮学園の生徒が驚いて当然だろう。


 “飛翔する刃”どころか“終焉の斬撃”さえまともに使えない僕が高等技を放ったのだから。


 以前の僕に戻ったことを悟ったのか途端に彼らから嘲笑が消え、代わりに脅えが見え始める。


 まあ、そうだろうな。


 魔力があった頃の僕を知っている者はこれから先何が起こるのか察知できるだろう。


「立花さん、仙道さん。今すぐこの場から去れ」


 僕は暗い声音で二人に命令する。


「これから彼らに制裁を加える。見ていて気分の良いものじゃない」


 少なくとも全員の心が折れるまで。


 二度とこんな真似をしないと誓うまで止めない。


「ま、待て」


 二人がどこかへ消えた後、学園生が待ってくれとばかりに手を上げる。


「二度としないから!」


「……」


 その懇願に対して僕は刀を振り下ろすことで答えた。

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