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【短編】あくる日の朝

作者: 山菜おこわ
掲載日:2026/02/28

耳障りなアラーム音で、僕は目を覚ます。


さっきまで見ていた夢は何だったのか、もう覚えていない。

いつものルーティンのごとくスマホを手にすれば、時刻は八時五分。

学校に向かうにはもう一時間早く出ないと間に合わない。

スマホの上画面には友人のメッセージが何十通も送られてきていた。


「はぁ⋯⋯もう、いいや」


僕は現実から逃げるようにスマホを投げ出した。

リンゴン、リンゴンと、その間にもスマホはメッセージを受け取り続けて通知する。


「うるさいなぁ⋯⋯」


僕はスマホの通知を落として再び眠りにつこうとする。

しかし数秒考えて、別に遅れたからってなんだと開き直って、だるい身体を布団から起こした。


「⋯⋯何なんだよ」


起きれば、外からの騒がしい音に苛立ちを隠せない。

僕は勢いよくドレープカーテンを閉めきった。


「朝っぱらからやめてくれよ⋯⋯」


僕は深いため息をこぼして、まだハッキリとしない意識で階段を下る。


リビングには、既に仕事に出ていったのか両親は居らず、テーブルには僕の朝食が用意されていた。

どうせ遅れて行くんだからと、僕はテーブルについて朝食に手を付ける。


「この時間だと何やっているんだろ」


僕はひとりでにそう呟き、テレビを付けた。


テレビは何処かの事故現場を映していた。

爆発があったのか、黒い煙が絶え間なく溢れ、それをリポーターがヘリの中から必死に声を張り上げて実況している。

僕は興味が無いので、すぐに違うボタンを押す。


ところが、ボタンを変えても同じ番組が映る。

確か二つくらいは放送する内容が被る時あるか。

そうして違うボタンを押すも、どの番組も同じ事故現場を映して、変わり映えしない。


「ちぇっ、なんなんだよ」


食事の時には何かのBGMが欲しいものだ。更に外が騒がしい。

それをかき消したい為、仕方なくその番組を付けておく事にした。


「朝食、冷めちゃってるな⋯⋯」


そう思いながらもそのまま食べ進めるのは、単に動くのがめんどくさいからである。


まだ頭が働かないぼんやりとした状態のまま、朝食をもしゃもしゃと食べ進め、仕方なく目の前のテレビへと視線を向けていた。


そのテレビの隅にはLIVEの文字が書かれていた。


「もしかして今起こってるの?」


何処なんだよと徐ろに画面右上を見やれば、「えっ?」と思わず声が漏れてしまった。


「ここ⋯⋯⋯⋯僕の街だ」


えっ?どゆこと?と、僕はようやくそこで目が覚めた。


現場を目まぐるしい速度で旋回するヘリの操縦士は、リポーターに「これ以上危険だ!」と怒鳴り、その場から遠ざかる。

すると、自ずと現場の全容が明らかとなっていく。


「やっぱり⋯⋯○○公園近くの✕✕施設だ」


上がる黒煙の中から、揺らいで少し見えたものに見覚えがあった。

そこは屋上にテーマパークがある施設で、幼い頃にはよく両親に連れて行ってもらった場所。


家からは少し離れたところにあるのだが、なんせ複合施設であり、商品売り場や飲食店、はたまた物産店や服屋などが一通り揃う場所だったので、当時からこぞって皆が集まっていた。

当時、僕たち小学生の中では、連れて行ってもらった事がステータスとまでなっていた。

その施設が今や炎が上って大変な事になっている。


「まぁ、僕には関係ないけど」


そう呟いてみたが、子どもの頃に連れて行ってもらった思い出の場所だからか、少しだけ寂しさが心を抉った。

僕は再び朝食に手を付ける。


事故現場からヘリが離れたからか、ようやくリポーターの声がまともに聞こえるようになる。


「⋯⋯からの実況となります!皆さ⋯⋯逃げてください!この街はもう⋯⋯」


「ん?」


ヘリの中のせいだろうか、声が聞こえづらい。

それでも何か気になるようなことを言っているような。

僕はテレビの音量を上げて、耳を集中させる。


「皆さん逃げてください!この街は終わりです!」


「⋯⋯はぁ?」


僕は思わず固まって箸を落とす。反応遅れて拾おうと足掻くが、それが逆に仇となり、机を転がって床に落ちる。

カランカランッと音を鳴らして転がるそれに、僕は心底苛立ちを隠せないでため息を漏らす。


「はぁ~⋯⋯ほんっと、最悪」


座ったまま取ろうとするも届かず。仕方なく僕は椅子から降りて、締め切ったカーテンの方まで転がっていった箸に手を伸ばす。


「え?」


箸に手を伸ばそうとしゃがみ込んだ時、ちょうどカーテンと床の隙間から何かが覗いて見えた。

なんだろう、前の道路に人影⋯⋯。それ自体なら何ら問題ない。そうじゃない。


「人影⋯⋯にしては、大きいような気が⋯⋯」


それは太陽に照らされて、その影を僕の家の中まで伸ばしてきていた。

横幅にして僕の四倍。相撲さんよりも大きな身体を持ったそれに興味を持ったが、どうしてかカーテンを引く気になれない。


先ほどから騒がしく鳴る外の騒音。

けたたましく鳴りやまないサイレン。

テレビからのLIVE放送。


⋯⋯嫌な予感がする。

ぽたりと、冷や汗が顎を伝って床に落ちる。


⋯⋯ゴトッ。


緊張からか、僕は超反応でそちらを見やる。

床にスマホが落ちていた。


「そうか。通知は切ったけど、バイブは消してなかったか」


画面には絶え間なく友人からのメッセージが更新され続けている。

いや、メッセージじゃない。通話履歴だった。


そう思っていると、スマホの画面が通話しますかの画面に切り替わる。

僕はそれを通話するにスクロールする。


「やっと出た!お前今どこだ!?」


電話に出るなり友人は叫び散らす。


「えっと、僕まだ家-」


「まじか!?さっさと出ろ!やべぇぞ!もうこっちも-」


ブツッと、いきなり通話が切れる。すぐに掛け直すも繋がらない。僕は焦りからスマホに叫ぶ。


「おい!なんなんだよ!何が起こっているんだよ!?」


だが当然、答えなんて見つからない。


「⋯⋯一体、何が起こっているんだ」


スマホで調べようとした時、テレビから激しい爆発音が耳を劈き、思わず顔を上げる。


テレビでは、ヘリの中、街を見下ろす形で映し出していた。

そこに映し出されたのは、幾つもの黒煙を上げて燃え盛る場所だった。


「施設だけじゃ、ないのか⋯⋯」


下には慌てふためく街の人達で溢れかえり、事故現場から逃げ惑う。


「⋯⋯いや、違う」


様子がおかしい。

街の人たちは事故現場から遠ざかろうとしているのかと思いきや、真逆に入っていこうとする人もいた。

事故現場じゃない。違うものから逃げているようだった。


「何から逃げているっていうんだ」


刹那、その答え合わせをするように、逃げ惑う一人の住民の背後に急接近する何かの影。


「なんだ、あれ」


そいつは真っ黒な身体をしており、八本の大きな脚を動かす様は、大きくした蜘蛛のようだった。

そいつは逃げ惑う人に有無を言わせることなく背中から切り裂いて、あっという間に息の根を止めたのが映像からでも確認できた。


僕は恐怖に「ヒィッ!」と情けない声を上げて腰を抜かす。


「⋯⋯は、はぁ?なんなんだよ今のは!?」


僕はドクンドクンッと跳ね打つ心臓が苦しくて胸を抑えて、呼吸が荒くなる。


人が死んだ-⋯⋯分かっていても、頭で上手く処理できない。


「繰り返します!もうこの街は終わりです!逃げてください!逃げ-」


次の瞬間、テレビの画面は真っ暗となって、ザーッと砂煙を映して、もう二度と変わらない。


「はっ⋯⋯はぁっ⋯⋯」


動悸が激しい。苦しい。

立ち上がろうにも力が入らない。


一体⋯⋯一体、この街で何が起こっていると言うんだ⋯⋯。


-ガシャ。


「⋯⋯⋯⋯え?」


ぐるりと首を動かすと、いつの間にか、カーテン越しに窓を覆い尽くすほどの黒い影が張り付いていた。


僕はごくりと生唾を呑み込む。

見つかっては駄目だ、と。


今動けば-死ぬ。

僕は息を殺して耐える。


その黒い影は、少しだが揺らめいて見えた。

まるで中の様子を覗こうと、必死に隙間を探しているみたいに。


怖い怖い怖い怖い。

僕は必死にバレないようにと、心臓を止める勢いで、小さく浅い呼吸を何度も繰り返してやり過ごす。

しかしいつまで経っても黒い影は離れていかない。


いつまでもここに居たら、こっちの身が持たない。

僕は少しずつ足腰に力を入れて立ち上がる。


ゆっくりと、ゆっくりと。床が軋む音すら細心の注意を払って立ち上がると、階段へと目を向ける。

一度上に逃げよう。

こいつの体積なら、上にはあがって来れないだろう。


「大丈夫。大丈夫だ⋯⋯」


僕は自分を言い聞かせるように鼓舞して、一歩一歩階段へと足を運ぶ。


もう少し、もう少し⋯⋯。


ガッ!


「アデッ!」


-しまった。

転けそうになり僕は、咄嗟にその原因たる部分に目をやる。

無情にも、机の角に足をぶつけてしまった。その大きな音は、最悪だった。


後方-後ろの窓に、再び現れる黒い影。それはガシャンと窓を突き破り、カーテンをレールごと引きちぎり侵入する。

それは大きな蜘蛛の怪物だった。


「うわぁぁあああああああああッ!」


迫る怪物に僕は転んで、更に恐怖に足が絡んで激しく床を転がっていき、壁に腰をぶつける。

意識が飛びそうな痛みに、思わず視界が飛ぶ。


「あっ、ガッ-」


ふと意識が戻った時には、怪物は既に僕の真正面に立ち尽くして、その鋭い脚を上で構えていた。


「おらああッ!」


ゴッ!と鈍い音と共に、怪物はノックダウンする。次の瞬間には手を掴まれて引っ張られる。


「行くぞッ!」


その声に見上げれば、バットを手にした友人だった。


「どうやって入ったんだよ!?」


友人は「説明はあとだ!」と叫び、僕を二階へと連れ出す。


この選択が、先の未来を大きく変えることになるなんて、思いもよらなかった。

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