第五十五弾 黄泉の国から2025秋 ③ 文法を守る鬼・デュラハン登場
第3話 文法を守る鬼・デュラハン登場
エリックの戦いは、まだ終わっていなかった。
半角スペースを駆逐し、全角を守る――その決意は固まったものの、現実は厳しい。
洗濯、買い物、食事、餓鬼たちの野球の誘い――半角魔人の邪魔と、日常の雑事は修正作業を阻害してくる。
そんなある夜、静まり返ったエリックの部屋に、突如まばゆい光が差し込んだ。
闇の中から、甲冑をまとった巨躯が現れる。
首を抱えたまま立つ、その異形の鬼が雷鳴のごとき声で告げた。
「エリック! 貴様の戦いは間違っておる!」
「な、何者ですか……!?」
エリックはベッドの端で身をすくめた。
「我は文法を守る鬼――デュラハン!」
その声に合わせ、首の口がぱっくり開き、光が漏れる。
半角魔人
「ヒィッ、まぶしっ! 節電しろや!」
※ベッドの下から半角魔人の声
エリック
「お前いたのか!?」
半角魔人
「居座ってた。てへぺろ」
エリック
「出ていけ!」
デュラハンの視線は部屋を駆け巡り、やがてスマホ画面を指差した。
デュラハン
「……そこだ! 半角スペースが紛れておる!」
半角魔人
「お、見つかった」
エリック
「誇らしげに言うな!」
一瞬で半角を見抜くその眼光に、エリックは冷や汗を流した。
エリック
「げっ……! そんな所まで……!」
デュラハン
「エリックよ、現実とも戦え、修正とも戦え。だが忘れるな――文法なくして小説は立たぬ!」
半角魔人
「いやいや、文法ってそんなに大事?」
エリック
「お前は黙れ」
デュラハンが軽く踏みつけ、半角魔人はぺしゃんと潰れた。(平面の存在なので無害)
デュラハンは大剣を振りかざす。
その刃は読点を正し、句点を整え、乱れた文頭に秩序をもたらす光の剣。
デュラハン
「まずは――文頭の一文字空けを徹底せよ。ここから全てが始まる」
半角魔人
「あ、あの……半角一個ならサービス精神……」
エリック
「サービスの方向を誤るな」
半角魔人はまた潰された。ベチャッ
叱責でありながらも、そこには導きがあった。
エリックは小さく頷き、震える手でペンを握り直す。
デュラハンの教え
デュラハン
「――エリック、聞け」
低く響く声とともに、腰に提げた大剣に月明かりが反射する。
デュラハン
「文頭を一文字空ける理由は、ただ慣習だからではない。
一つ、読者が段落の区切りを視覚的に把握しやすくするためだ。改行だけでは曖昧だが一文字空ければ、ここから新しい意味のかたまりだと伝わる」
エリック
「なるほど! 改行だけじゃちょっと心許ないですもんね!」
デュラハン
「二つ目――なぜ全角で空けるか。これは縦書き文化に根ざす。古来より日本語は全角幅で統一されてきた。段落頭を半角で空ければ、視覚的にアンバランスになり、統一感を損ねるのだ」
エリック
「……そうか、縦書きでも横書きでも、段落の頭は全角でそろえるから、読みやすくなるんですね!」
デュラハン
「その通りだ。文字をそろえるとは、文に秩序を与えること。半角で済ませれば読者の無意識に違和感が残る。全角で空けるのは――文章にリズムと呼吸を与える儀式なのだ」
半角魔人
「……半角だと、息が浅い……ヒッ……」
潰れてぺらんこの状態で小声の半角魔人
エリック
「息するな」
踏まれる ベチャン
デュラハンは大剣を地に突き立て、厳かに言葉を結ぶ。
デュラハン
「――文頭の一文字は、ただの空白ではない。読み手に寄り添う余白なのだ」
エリックは感極まり、拳を握った。
エリック
「すごい……! たかが一文字、されど一文字! その空白に、作者の誠意と美学が宿っているんですね!」
半角魔人
「……半角にも…ちょっと…夢は……」
エリック
「寝言だ」
デュラハンは黙って頷き、やがて霧のように姿を消していった。
エリックの胸の奥には、確かに残った。
――一文字の空白が、文章を生かすという真実が。
見守る者たち
五朗
「文法を守る鬼……さすがだな。小説の土台は段落から、か。なるほど深い。空白一つで読者のリズムを整える――まるで職人の間だな」
ホタル
「こ、怖かったけど……にぃが学べてよかった。空白って、優しさなんだね……。読者の目にも、心にも優しいって、素敵だよ」
ぽん吉
「おーい! つまりやな、半角はイタズラもん、全角は王道っちゅうこっちゃ!
エリック、逃げんと精進やで!」
半角魔人(小声)
「イタズラもんって、ちょっとは……認めて……」
全員
「まだおったんか!」
次回予告
第4話 句読点の裁きを受ける
句読点の乱れが、地獄の審判を招く、
エリックは――テンとマルの業を背負い、文章の流れを正せるのか!?
提供
《文頭を愛する会》〜空白にも魂を〜
《全角信仰連盟》〜半角の乱れは心の乱れ〜
《YOMI文芸修行所》〜句点一つに真心を〜
《ぽん吉文房具店》〜ペン先から文化を支える〜
《半角魔人更生プログラム》〜まずは空気を読むところから〜
――そして、あなたの文にも、一文字分の余白を。
特別協賛
半角魔人ファンクラブ(会員 1名 → 2名)
ホタル(小声)
「……ちょっとだけ、半角魔人がかわいい……」
エリック
「ホタル!? まさか入ったの!?」
(遠くで半角魔人の指パッチン)
半角魔人
「Welcome… half world☆」
ぽん吉
「会員増えとるーー!!」




