第五十四弾 黄泉の国から2025秋 ② 半角魔人
第2話 半角魔人
夜の底から、カタ……カタ……と小さな音が響いていた。
黄泉の空には月がなく、灰の光がふんわり漂う。
その灯りの下で、ひとりの青年がスマホと向き合っていた。
見習い小説家――エリック。
エリック
「よし……今日は文頭一文字空け、完璧にするぞ……!」
静かな決意。だがその瞬間――
(カタ…カタ…カタァッ!)
エリック
「……おい、出てこい」
画面端から、丸っこい黒い魔人がぬるっと出る。
手には『半』と書かれた旗。
半角魔人
「ヒャッホー☆ 半角魔人参上〜! 全角とか、重いっしょ? 軽さは正義っしょ?」
エリック
「お前、また来たのか……」
半角魔人
「おっと今のまた、に半角混ぜときますね〜(チョイッ)」
エリック
「やめろぉ!」
(パチパチパチ)
拍手しながら、スペースを勝手に入れていく半角魔人。
半角魔人
「全角? 半角? わかんね? じゃあ混ぜよ〜☆ YO〜!」
エリック
「違う、YOじゃない! 文学の尊厳を守れ!」
半角魔人
「尊厳は軽さで決まるッ! 半角ィ〜ス!(ポイッ)」
エリック
「わぁぁぁ!? 入れるな入れるな!!」
半角魔人
「見た目同じで中身が違う……恋ってやつだね☆」
エリック
「例えがおかしいだろ!!」
エリックは額を押さえ、すでに精神がすり減り始めていた。
応援(?)席
五朗
「殴れば解決しそうじゃが、デジタル生命体は厄介だな」
ホタル
「にぃ、その魔人シュババって動いてて可愛い……倒しちゃヤダ」
ぽん吉
「放っといたら繁殖するタイプやで! そのうち踊るで!!」
半角魔人
「踊る? ミュージカルいく? カ〜ンカン♪ ハ〜ンカン♪☆」
エリック
「うるさいッ!!」
後日
修正無限ループに負け、エリックはやつれていた。
エリック
「……修正……また半角……メモ……ヒィ……」
(ペタッ)
背中に半角ステッカーが貼られる。
半角魔人
「キミ、今日からチーム半角♪」
エリック
「誰が入団するか!!」
ホタル
「にぃ……ステッカーかわいい……」
エリック
「乗るなホタル!!」
半角魔人
「お? エリック誰か来たみたいだゼ~」
エリック
「うるさい話しかけるな!」
――《エリックよ、なにか忘れてはおらぬか?》
修正作業中のスマホが突然光り、ぬるりと現れた老人がひとり。
「儂は――トイレの神様じゃ」
「えっ……なぜ……トイレ……?」
「トイレは家の要じゃろうが」
「……はい?」
「便器と床の隙間を、最後にコーキングしたのはいつじゃ?」
「……あっ」
「あっ! が出た時点でアウトじゃ! 隙間に汚れがたまっておるぞ? このままじゃ病気になるやも知れぬな~」
(柔らかい音楽)
エリック
「くっ! それはやだ……」
トイレの神様
「ならば行け! ホームセンターは夜20時までじゃ」
エリックは急ぎ、黄泉のホームセンターへ向かった。コーキング剤を買い、封印を剥がし、磨き、塗り直す。
古びたトイレが光を取り戻し、家の中に清浄な風が流れた。
――小さな達成感。
そしてエリックは、その夜の修正作業を忘れ、明くる日ふと思った。
エリック
「修正に集中すると、現実がおろそかになる。バランス良く両方と戦わねばならないのか……」
次の日の夜。
トイレが清められ、エリックがやる気に満ち溢れる。
半角魔人
「くっ……なんと言う清々しい光! 魔力が吸いとられていく……半角はいらない子なのか……闇が……闇が私を包んでゆく……」
エリック
「勝った……! 今日こそ勝った!」
(ピロリン♪)
《ハンカク ニュウリョク カンリョウ》
エリック
「帰ってきたーーー!?」
半角魔人セカンド
「ハァイ☆ ただいま正気ギリギリのエリック♪」
エリック
「も、もう出てけええええ!」
次回予告
エリックの心に、まだ半角の影が潜んでいた。だがその先に――エリックを待つのは、新たな師との出会いである。
「第3話 文法を守る鬼・デュラハン登場」
――エリック、本格的な文法修行へ。
半角魔人
「次、師匠? 固そう。絶対、全角派だ」
デュラハン
「茶番劇は終わりだ――貴様を正す」
半角魔人
「古文苦手なんスけど!?」
提供
――本日の提供――
『全角を信じる会』
〜スペースは心の余白、崩すな尊厳〜
トイレの神様・協力:黄泉ホームセンター
「コーキング一つで守れる命がある」
特別協賛
半角魔人ファンクラブ(会員1名)
「軽く生きようぜ☆」




