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小説ω

口裂けてない女

作者: 七宝

 この町には〈口裂けてない女〉なるものが出没する。それは昼夜も天気も問わず、24時間いつでもコンビニのように現れては町の人々を困惑のどん底に突き落として去っていく、ものすごく困ったヤツなのだ。


 ヤツは主に小学生に声を掛ける。何かあっても勝てる可能性が高いからだ。ジャイアンみたいな子だったら負ける可能性はあるが、ここで完全な安全牌を選ばない理由は「保育園幼稚園だとそもそも怖がってくれないことが多い」からだという。小学生も怖がっていないと思うが⋯⋯


「ねぇ坊や」


 1人で下校中の男児に声を掛ける大きなマスクの女。白いワンピースに長い黒髪。ヤツだ。


「なぁに?」


 男児が振り向く。


「ふふふ⋯⋯私、きれい?」


「!?」


 知らない人ではあるものの、美人なお姉さんに一瞬ドキンとする男児。

 

「キ、キレイです!」


 気をつけをして、張り切ってそう答えた。


「うふふふふ⋯⋯」


 女は嬉しそうに小声で笑いながらマスクの紐に指をかけ、目をカッと開いた。


「これでもぉ!?」


 その言葉と同時にマスクが外され、醜い顔が(あら)わになった。両耳まで裂けた彼女の口は、まるで口紅をべったりと塗りたくったように真っ赤に濡れていた。


 ってこれ口裂け女じゃん! 本物出ちゃってんじゃん!!


「わぁあ!!」


 驚いた男児は飛び上がり、尻もちをついた。痔の経験者が見たら顔を顰めるに違いない。


「これでもきれいなのぉ!?」


「キレイです! キレイですーっ!」


 ぎゅっと目を瞑り、必死に叫ぶ男児。かわいそう。


「そう! ならあなたも同じ口にしてあげるわァ!」


 そう言ってポケットからドデカいハサミを取り出した。ドラえもんのポケットかよ。


「うわぁーー! やめてぇーーー!」


 立ち上がろうとするも腰が抜けてしまってどうにもならない男児。頑張れ男児!


「さぁ一緒にきれいになりましょうね〜」


 そう言って男児を抱き上げ、膝の上に乗せた瞬間だった。


「ん? なんか温かい⋯⋯わっ!」


 なんということでしょう! 男児を乗せている部分の布の色がみるみるうちに濃くなっていくではありませんか!

 口裂け女が抱いている手を離した瞬間、男児は彼女の上で暴れ回って引っ掻き傷を300箇所つけてからもう1回放尿し、往復ビンタをしたのちに逃走。現在警察が行方を追っています。


「許さん⋯⋯クソガキめ⋯⋯!」


 1人残された口裂け女。怒りのあまり両方のグーがプルプルしている。


 その時だった。


「おいおまえ!」


 後ろから口裂け女に声を掛ける大きなマスクの女。白いワンピースに長い黒髪。今度こそヤツだ! 口裂けてない女だ!


「私?」


 口裂け女が振り向く。


「おれの名をいってみろ!!」


「!?」


 女のあまりの迫力に固まる口裂け女。


「⋯⋯貞子?」


 なんの手がかりもない状態のため、1番似ているキャラを回答。


「ふっふっふっふっふ」


 嬉しそうに笑い出す女。

 ひとしきり笑ったあと、ゆっくりとマスクを外した。


「これでもぉ!?」


 中から出てきたのはお世辞にも健康そうには見えない、スーパーで半額になったけど結局最後まで売れなかった牛肉みたいな色のぐったりした唇! そう! コイツコイツ! コイツです刑事さん!


「なんなの? あなた。私のことバカにしてるの?」


 小学生にボコボコにされ、変な女に絡まれたことで怒りが爆発しそうになっていた。

 口裂け女は立ち上がり、口裂けてない女と向き合った。


「ん? なんかクセェな⋯⋯おまえ、しっこでもしたか? ⋯⋯って服びっちゃびちゃじゃん! 漏らしたの!? 漏らしたのォ!?!? や〜いや〜いおもらし女〜! おまえのかーちゃんヤリマンビッチのド淫乱〜!」


 言いたい放題の口裂けてない女。


「な、なんなんだコイツ⋯⋯ハッ! もしかして、あなたが近頃世間を賑わしている怪異、口裂けてない女!?」


「違いますよ」


 えっ?


「違うの? じゃああなたは一体⋯⋯」


「おれか? おれァ【ピーーーーーー】だ」


 何言ってんだよお前ダメに決まってんだろ全部ピーだよバカタレが。


「ヤバ⋯⋯」


 呆然とする口裂け女。


「カッケェ⋯⋯」


 どうやら心を打たれたらしい。


「あの、先輩って呼んでいいっスか?」


「かまわんよ」


「やりぃ! さっすが先輩!」


「ほんじゃそろそろ飲みに行くか」


「うす! どこまででもついて行くっス!」


「ははは」


 仲良くなった2人がおててを繋いで近所の居酒屋に入店したところ、口裂け女のみしっこのため追い返されたのであった。


 これを機に2人は別々の道を歩むことを決めた。それぞれの夢へ向かって――


-fin-

 オレ、思うんだ⋯⋯


『口裂けてない女』であることを否定出来るのって口裂け女だけだよなって。

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