決戦前夜~それぞれが戦う理由~
テストもかねて、初投稿です。
むしゃくしゃしてやった。
後悔は後からするかもしれません。
気分が悪くなるような展開がありますので、ご理解の上、ご一読いただけますと幸いですmm
「いよいよ明日だな」
暖炉で静かに揺らめく炎に向かって、剣士のアークは言った。
部屋にはアークを含めて4人の人物がいた。
言葉は特定の誰かに向けられた言葉ではなかったが、その中の一人が言葉を拾った。
「そうね。これで戦いも終わりよ。しっかり、頑張らなきゃね」
暖炉から離れた場所にある椅子に腰かけていた女性は手に目を落とし、だれが見てもないであろうにどこか寂しそうな笑みを浮かべて呟いた。
拳で戦ってきたのだろう。
傷だらけの手甲は今はテーブルの上に置かれているが、よく見れば彼女の手も傷だらけだ。
「完全に終わりではないがな、ファンレイ。我々がぶつかって大将同士の雌雄が決すれば、後は人と魔の軍同士の戦いになる。そして殲滅戦となるだろう」
ドアの横から話しかけた人物はローブのフードを深くかぶっており、姿がよく見えない。
声は中性的で声色から男女を判断することもできないが、手に持つ大杖や身にまとったアクセサリーはいかにも呪術的なもので、一見した者は魔法を操る相手であると判断するだろう。
「まぁまぁ、そんなみんな暗い声で話しちゃって。いつも通りだろ。さっさと終わらせて、うまい酒を飲む!前に勝った時も前日に酒を飲んでた。酒を飲むイコール勝利ってわけだ。少し飲もうぜ。ほら、デビーもそんな用心棒みたいに突っ立ってないで。こっちこいよ」
テーブルに置かれた酒を煽っていた男が、ローブ姿の人物に弾んだ声で話かけた。
「私をデビーと呼ぶな。はぁ、明日は決戦だというのにそんなに飲んで。バレたら知らんぞルイ。私は飲まないぞ」
デビーと呼ばれた人物は表情こそ見えないが、明らかにあきれた調子でルイという男に話かける。ルイの獲物は斧と大盾であろう。性格を表すように、それが雑に酒瓶と一緒に転がっている。
「大丈夫、あいつはもう寝てるよ。全く、みんなビビりすぎだって。こういうのはちょいと肩の力を抜いたほうがいいんだよ。にしても本当に明日が最後の戦いになるかもって時に、すやすや寝られんのは豪胆というか無神経というか…」
「口が過ぎるぞ。まぁ、思うところがないわけじゃないけどな。一杯だけ付き合うか」
そういうとアークは立ち上がり、離れたルイの向かいに腰かけた。
「はぁ、ふたりとも明日二日酔いで後悔しても知らんぞ。私は飲まないからな」
「おいデビーお前は硬すぎる。だから飲め」
ルイはすっかりできあがっているのか、器用に酒をアークに次ぎつつコップをデビーに向ける。
「デビーを困らせないの。でも、私も一杯だけ飲んじゃおうかな。どうも、そわそわしちゃって。早く終わらせたいような、明日がきてほしくないような。変な気持ちよ。魔王もこんな気持ちなのかしら…」
すこし物憂げなファンレイは美しい長髪をかきあげながら立ち上がり、二人のところに歩いてきた。そんな彼女の様子を見てか、場をにぎやかしたいだけか、軽い調子でルイが喋った。
「そんな訳ないだろ。ぶっ殺してやるーとか、単純にしか考えてないんじゃねーの」
「ひとつ、飲みながら明日の抱負でも話さないか。みんなで力を合わせれば絶対に勝つが、勢いをつけようぜ」
並々に酒が注がれたコップに手を伸ばしつつ、苦笑しながらアークが言った。
「なんか青臭いなぁ。でも悪くないな。じゃあ言い出しっぺから話してくれよ」
「OK。そうだな。みんなも知っての通り俺は大陸の端っこアクリ村の出身で、いつか勇者になる事を夢見てひとり剣を振っていた。まぁ今じゃあ考えられんが、神託が下るまで疑ってもなかった。武者修行で王都まで行ったが、俺にかなうヤツもいなかったしな」
「そこから話すのか。それにいつの間にかみんな話することになっているが、私も話さないといけないのか」
いつの間にかドア前から移動していたデビーがテーブルの上のブドウをつまみながら言う。
「当たり前じゃん。次はデビーな」
「はぁ。あまり気が乗らんな」
そんなデビーとルイのやり取りを見て、しかめ面でアークが喋る。
「おい、俺の話途中なんだが。聞く気ないならやめるぞ」
「ごめんごめんアーク!ほら二人とも、ちゃんとアークの話聞いて」
いつもこのような役回りなのだろう、ファンレイが子どもをあやすかのような調子で二人を見やりながら言った。その様子を見たアークは顔を緩めて言葉を続ける。
「それで欠かさず鍛錬をしていたが、神託が下って。勇者が選ばれて。…少し腐っていたよ。ルイみたいに飲んだくれてな。そんな時、魔王軍が攻め込んでくるって知らせが届いた。知らせが届いた時はもう30分の距離だったが、聞いて怯える俺じゃない。その辺の魔物なんて相手にならんし、俺の方が勇者にふさわしいところを見せつけてやろうと思ったよ。だが、軍を目の前にしてそんな自信は砕けちった。目の前を埋め尽くすほどの魔物に、まぁひとりで敵うもんじゃないからな」
ひと呼吸おいてアークが話を続ける。
「それからできるだけ生き延びようと、藻掻くように戦ったが、焼け石に水だ。村は蹂躙され、もう死ぬってそんな時にあいつが現れた。言わなくてもわかるだろうが、勇者だよ。戦いを見た時には呆然とした。あぁ、神託は本当だったんだって気づかされたよ。魔王が現れるまで、圧倒的だった。二人とも。なんやかんやあって今のパーティにいるが、あの戦いを見た時から最強ってのは諦めた。そして戦い続けながらも心のどこかでは腐っていたよ。俺は1番にはなれないって。そんな俺の様子に気付いてくれたのが、ファンレイだな」
「ちょ、ちょっとアーク」
急な話の展開にファンレイが慌てた様子で言葉を発した。
「いいから最後まで聞いてくれ。ファンレイは、最強にならなくてもいい。ただ私の一番でいてほしいって言った。自分が進むべき道が見えた気がしたよ。かつて夢見た最強にはなれないが、ファンレイにとってはずっと一番でいる。それが俺の目標であり、戦いにおいて絶対に負けられない理由だ。明日は、何がなんでも二人で生き抜いて、それを証明し続ける。そして、明日を乗り越えたら、言いたいことがあるファンレイ」
そう言い終えると、アークはファンレイを見つめた。
「アーク」
照れたような、困ったような顔でファンレイはアークを見るが、そんな二人の様子に割って入るかのようにルイが話した。
「ちょ、ちょっと待て。今の話だと、ファンレイとアークは付き合ってるって雰囲気だが、聞き間違いじゃないよな」
「ルイ、私からちょっと説明させて」
焦った調子でファンレイが話す。
「ファンレイはちょっと黙っててくれ。アーク、そうなのか」
「あ、ああ、そうだけど。てっきり祝福してくれるもんだと。どうしたんだルイ」
「どうしたも何も、俺はファンレイと付き合っている!この野郎、人の女とりやがったな!」
ガタンと大きな音を立てて椅子から立ち上がり、ルイがアークに向かう。
「な、なにを言ってるんだよ。出会ってすぐ付き合う事になったんだから、そんなはずは…ファンレイ?」
混乱したアークはファンレイに目を移すが、目を泳がせながら彼女は何も答えない。そして止める間もなくルイの拳がアークの左頬を打ち抜いた。
「痛っ!!おいルイ!!何しやがる!」
「ちょ、ちょっと説明させて。ちょ、デビー!二人をとめて!!」
「ふ、ふたりとも落ち着いてくれ!こんなことで仲間割れしたら明日の戦いはどうなる」
慌ててデビーとファンレイが二人の間に割って入りながら言った。
「こんな事だとこのネクラ野郎。いいか、さっきも言ったがファンレイは俺の戦う理由なんだ。ファンレイは俺のものだ」
「俺のものだと!ふざけるな!!おい、ファンレイ!この勘違い野郎に言ってやってくれ。この戦いが終わったら結婚するって、話したじゃないか」
「勘違いだと、この筋肉馬鹿め!」
今度はアークがルイに殴りかかったがその拳はルイを捕えずに間に入ったデビーの頬を打った。
「痛い!やめろって言ってるのに!!」
「もやしっ子デビーはそこで寝ていろ。この野郎と肩をつける」
「デビーって言うな。もう、私も怒ったぞ。くそカス共。てめーら二人とも勘違いしてやがる。ヒヒっ。なぁファンレイ」
床に転んで頬を手で押さえながら、デビーがファンレイに向き直った。
「デビー。何を言って…」
ファンレイの顔が青ざめる。
「デビーって言うなアバズレ女!!知ってるぞ!今頃すやすや寝てる…アイツとできてんのは!!」
「う、嘘よ!!変な事いうんじゃないわよ!信じてくれるわよね二人とも」
「どういう事だデビー」
「だからそう呼ぶなっつってんだろうが。私は」
「黙りなさい!」
「黙るのはてめぇだ!!いつもおしゃぶりしてるその汚え口閉じろ!知ってんだよ。毎週金曜アイツとやってんのは!毎週金曜って海軍かよ!カレーかよ!!」
「なんだと…ふざけんなよ。俺は月曜日だ」
ルイが続く
「最悪だ。俺は水曜日だ」
アークも続いた。
「訂正する。カレーじゃなくてお徳市だな。月水金とそろって」
デビーはげらげらと笑いながら挑発するような視線を三人に送った。
三者の反応から真実なのだろうと悟ったルイが、先ほど以上に怒りをあらわにしてファンレイに詰め寄る。
「俺をだましやがって、説明してもらおうかファンレイ」
「お、俺はまだ信じている…」
アークは焦点の定まらない目をファンレイに向けながら言った。
「…ったく。こんな日の晩に余計な話はじめやがって。せっかく曜日を決めてダブらないように管理してたっていうのに。全部テメーのせいだぞヒョロ剣。黙ってろって言ったのに」
先ほどまで深窓の令嬢とも呼べる雰囲気を出していたファンレイは思い切り態度を変化させて、喋り始めた。
「な、ヒョロ剣だと!ふざけんな!俺は、信じてたんたぞ!!弄びやがってこのアバズレが」
「うるせーんだよヒョロ剣。下の剣がヒョロいんだつってんだよ。毎回毎回律儀に音立ててキスしちゃってさ。S〇itchの着装音かよっての」
「な、そんな事思ってたのか。くそが!人の心を弄びやがって!!斬ってやる」
アークが腰にかけていた剣の柄に手を置いた。
「ま、待てアーク。落ち着け。さすがに斬るのはまずい!」
ルイがアークを止めようとするが、そんな様子をせせら笑うようにファンレイは言葉を続けた。
「おめーもだ筋肉野郎。もうおしまいだから言ってやる。ブリーフは引く」
「…もういい。デビー、このアバズレを隔離してくれ。明日までもたん」
すっかり酒も引いてしまったのだろう。頭を押さえながらルイがデビーに呼びかけるが、デビーは肩をすくめながら言った。
「おいおい、何終わらせようとしてるんだ。私に謝るのが先だろうが!それにデビーって言うなって言ってんだろ!私の名前はデビール!デビール・アークマンだ!」
デビールがそう名乗り終えた瞬間、ギギギと音を立てて奥の部屋が開いた。
「なにを騒いでいる?」
「「「「魔王様」」」」
「少し飲みすぎじゃないか?明日は決戦だぞ。もう寝よ」
「「「「はい」」」」
「うむ。しかし、いよいよ明日で終わりかと思うと、早く終わらせたいような、明日がきてほしくないような、そのような気持ちになるな。と、魔王がこのようではいかんな。ゆっくり休めよ」
「「「「はい」」」」
その様子を見た魔王はゆっくり頷くと、静かに部屋を出て行った。
「明日は絶対いっしょに戦わんからな」
少しの間の後、ルイが呟いた。
「当たり前だくそ野郎ども…」
それに続けてデビールが呟く。
「勇者を殺して俺も死ぬ」
アークは呆けたように地面を見つめながら言った。
「三人コンプのトゥルーエンドが魔王エンドに…いや待てよ、勇者エンドって裏ルートがもしかしてあるのか…?」
誰にも聞こえない声でファンレイはぶつぶつ呟く。
かくして魔王軍四天王はそれぞれ別に勇者に戦いを挑むことになったのであった。
拙文、お読みいただきありがとうございましたmm
参考:以下全員の名前
アーク・ノケンシー
ルイ・ワオトコ
デビール・アークマン
ファイレン(中国語検索で悪人と打ったら出ました)