95 : 最後の魔法
爆風で吹き飛ばされたアリスは離れた場所からリースとナタリアの戦いを見ていた。
人智を超えた戦い。災害としか思えないような規模の戦いにアリスは恐怖を感じていた。
離れた場所であるにも関わらず、音も、衝撃も、炎の熱も伝わってきており、自分が参加できない規模の戦いである事が分かった。
「お姉様………」
アリスは祈る。
リースが戦いに勝つことを。そして、無事に戻ってくることを。
「終わったみたいよ」
祈りを続けているとリタの声が聞こえ、アリスは顔を上げる。
「いかなくちゃ」
勝利している事を確信し、アリスはリースの元へと駆けていく。先程までは熱いくらいの熱であったが、爆発の熱は急激に冷えていき、歩いて行ける程の熱さとなっていた。
「……………」
リタはアリスに何かを言いたそうな顔をしながら空を見上げる。青かった空は急激に雲が発生し、空を黒く染め始めた。
駆けていくと周りは地面の原型を留めていなかった。
溶岩でも流れたかのように地面は溶け、冷えて固まっており黒く変形していた。
焦げた匂いもしており、鼻を覆いたくなるような匂いもしているが、風が匂いを吹き飛ばしていく。
黒く変色した世界の中で人間を見つける。この場にいる人間で考えられるのは1人だけ。
「勝った?」
アリスがリースを見つけ、抱きついた。リース以外には誰も居ない。リースが勝った事は見てわかった。
「アリスさん………」
抱きついたアリスをリースが撫でようとするが、手が止まり、リースがアリスを抱き締めた。
「お姉様………?」
アリスはリースがいつもと違う事に気付く。いつもはあまりスキンシップを取りたがらないリースが自分から外でこういうことするとは思えなかった。
アリスは顔を上げて、リースを見る。
いつもと同じような…………?
「アリスさん…ごめんね………」
アリスは気付く。リースはいつもと違う。
リースは覚醒したまま。いつもであれば覚醒は戻っていたはず。
「ウチはここまでだから、あとはよろしくね………」
「何言ってるの………まだお姉様は………」
アリスにはリースの言うことが理解できない。いや、理解したくない。
「もう、遅いの……。アリスさん、このままだとウチはみんなを殺しちゃうの。だからね…」
(アリス、リースはもう……………)
アリスの中に居るリタからも諦めの言葉が聞こえてくる。
「……………」
アリスは何も言えず、瞳に涙をうかべる。
リースはアリスのことをじっと見つめ、優しく頭を撫でる。
「う"ッ!」
「お姉様!?」
頭を撫でていたリースが突如アリス突き飛ばした。
アリスが手を伸ばそうとするが、リタがそれを留めさせた。
(もう………時間………)
リースの身体にヒビが入る。
ヒビからは赤い光が漏れだして来ている。光が強くなりながらヒビが更に広がってくる。
「アリスさん………逃げて」
一瞬にして炎が辺りを包み込んだ。
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(リース、わたくしの声は聞こえますか?)
聞こえるよ。
(あなたが人間で居られる時間はほとんどありません)
わかってる。
(あなたの手で終わらせてください)
うん。
(では、また後で会いましょう)
またね。
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風でアリスさんを吹き飛ばして、龍の炎から守る。敵はナタリアさんの意志を持った魔力の塊。意志を持った魔力を倒すにはそれ以上の魔力で覆い、一気に潰しきる必要がある。
「ナタリアさん、あなたには護るものある?」
ほとんど残っていない魔力を使い、ナタリアさんの意志を持った魔力を押し返していく。
身体が割れていくが、痛みは感じない。
「あなたには死んでも負けない」
身体の中から残っていた魔力を絞り出しながら魔法を使う。
「天壌無窮ノ白百合」
炎は風となり、風は空へと帰っていく。ナタリアさんの魔力を押し潰して風となり、空へと消えていく。
今度こそ完全に終わり。
風が空を割り、光が刺してくる。
眩しいほどの光が刺しているのが分かるが、瞳には何も写らない。
身体の感覚もない。立っているのかすらも分からない。
だけど、もう時間が無い。
「ごめんね……………今までありがとう」
誰も聞いていなくても良い。残っているみんなに思いを伝える。
「モネ、ウチは頑張れたかな………?人間になれたかな………?なれてたら良いな………」
何も聞こえないはずなのに、モネが肯定する声が聞こえてくる。
見えない瞳にモネの姿も見えてくる。
「最後の魔法………使わないとね」
もしもの時のため、モネに仕組まれた魔法。自分の魔力は必要ない。空気中に残った微細な魔力から発動できる。
「桃花」
全ての母と言われる雄大な海で命を終える。
最後くらいは………




