94 : リースの全力
ナタリアから放たれた光は全てを消し去り、無を産み出す。光に当たったら何も残らないだろう。
そのような魔法に対してリースは冷静であった。
呼吸を整えながら魔法を使う。
本気の魔法。今持てる力を全てを使った魔法。
「千紫万紅」
風魔法で掌に空気中に漂っている魔力の残滓を集め、集約させる。
戦いに使われた魔法は魔力の残滓となって空中に漂っていた。
リースの爆発魔法、ネモの風魔法、リタの闇魔法、そしてナタリアの龍魔法。魔力の残滓は集約され、多属性の魔法へと変化する。
集まった魔力と、ナタリアからのビームが衝突し、大きな衝撃が発生した。空気は爆発するように歪み、地面は揺れ、地面に亀裂が入る。
衝撃を地面に受け流しながらリースは力を入れる。
リースを飲み込もうとしていた光は、龍魔法で弱められ、弱まった力は闇魔法が包み込まれていく。
「お返し」
風魔法が闇魔法ごと光を押し返していき、さらに爆発魔法で加速していく。
放たれたビームよりも強い威力。様々な魔力を纏った光がナタリアに迫るがナタリアは間一髪でそれを避けた。
「今のは危なかったけど、満身創痍みたいね」
リースは今にも倒れそうな程に疲弊し、膝をついている。強力な衝撃による体力の消耗と集約する際に魔法を増幅させていた為に大量の魔力を使っていたからだ。
もう、リースには倒せるほどの魔力は残っていない。ナタリアはそのように判断できた。実際にリースの魔力は殆ど残って居ない。
目に見える情報だけでナタリアは自身の勝利を確信してしまった。
少しの油断。油断したことで周囲の警戒が遅れてしまった。
ナタリアの周りには花びらが舞い落ちる。色々な魔力が混ざっており、色が変化して行く。
自分の魔力も含んでいたためにナタリアは花びらの存在に気づくのが遅れてしまった。
ナタリアがリースの魔法の真意に気づいた時には遅かった。
花が光り、集約された魔力が連鎖し、龍を飲み込む。
荒れ狂う風魔法。
押さえつける闇魔法。
鱗を削り取る龍魔法。
ナタリアは為す術なく魔法に蹂躙される。
「奥義・神山幽谷ノ高嶺桜」
風が吹くと花びらが舞い上がり、ナタリアを空へと吹き飛ばしていく。上空へと飛ばされたナタリアは白と赤の光を放ちながら爆炎に包まれ、轟音を立てる。
爆炎は空へと膨らみ、結界を貫通し、雲も何もかもを消し飛ばしていく。
何も無い真っ青な空に、炎の花が咲いた。近くのものを焼き払い、遠く離れているアリスにも熱が届いていた。
しばらく咲いた花は赤く光りながら散るように地面へと落ちていった。
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散った花から黒い塊が落ちてくる。
「……………まだ息があるんだ」
黒い塊となったナタリアは地面に倒れている。背中には赤い炎が残っており、更に身体を焼いていく。
「また………あたしは……」
ナタリアはまだ意識が残っていたが、時間の問題だろう。
「あなたは終わり。あなた達の思いもこれまでよ」
リースが虫の息となっているナタリアに近づく。
「未来の為に………殺さないと………」
「残念。あなたには殺させないから安心して」
リースは更に、ナタリアに近づく。ナタリアへ触れられる距離に近付く。ナタリアは完全に焼け焦げ、目も耳も黒い炭となっている。リースがどこにいるかも分からず、リースが言ったことすら聞こえているか分からない状態だ。
「あたしは負けない……………妖精に…………世界は…………渡さない………」
ナタリアが最後の言葉を発して崩れ落ちる。燃え尽きた塊は煤となり舞い上がる。
そこには誰もいなかったかのように、黒い煤は風に乗って空へと消えていく。
「…………もう遅いの。あなたもウチもね」
リースはナタリアだった煤を掬う。掬った煤は直ぐに風に飛ばされていった。リースの手を黒く汚し、手のひらの上は何も残らなかった。




