77 : 魔女と○○
緑豊かな自然の中、椅子とテーブルが置いてある。風が吹き抜け、柔らかな日差しが木々から差し込む中で、女性はカップを傾けて中身の紅茶を飲む。
「そろそろ動こうと思うけど、どう思う?」
この女性は魔女。一緒に紅茶を飲んでいた相手に訊ねる。
「好きにすればいいじゃないか。ボクは何もしないからね」
フードを被った小柄な人間のような存在は答える。フードを被った存在もカップを傾け、中身の紅茶を飲む。
「あんなに色々してるのにそんなこと言えるのね」
魔女は笑う。こんなことを言いながらも、フードを被った存在はこれからも手を出すのは分かっている。
「マリナちゃん死んじゃうかもよ?」
魔女がそう言うと今度はフードを被った存在が笑う。
「何言ってるのさ。キミだって分かってるだろう?マリナは死なない。キミが最高傑作って言ってたじゃないか。だからボクも力を貸しているんだよ?」
フードを被った存在は持っていたカップを置く。
「そうね。私の___だもの。死ぬことは無いわよ。でも、もし壊れちゃったら次の機会になっちゃうわね」
魔女は残っていた紅茶を飲み干した。その瞬間に手に持っていた筈のカップは消える。
「じゃあもう少し待つかい?」
フードを被った存在はカップの中の紅茶に写る魔女を見て答える。
「それでも良いけど、そろそろあなたがバレそうじゃない?止められる前に動くのがいいと思うの」
魔女は立ち上がる。そして、差し込む光に指で触れて、光で遊ぶ。
「あ、ボクのこと心配してたんだ?ボクはまだ大丈夫と思うけど、キミがそう言うなら好きにしていいよ」
「あなたが居なくなれば私が困るのよ…」
はぁ、と魔女は大きなため息をつく。
「言ったからね?エル、あなたも注意しときなさいよ」
風が吹き、紅茶の水面が揺れる。揺れた水面からは魔女の姿が消えていた。
「ボクは………どうしたいんだろうね」
エルと呼ばれた存在も同じようにその場から消えた。
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身体を揺すられ、マリナは目を覚ました。
「マリナさん?大丈夫ですか?」
「…………………………大丈夫です」
マリナは久しぶりに中四国支部に来ていたが、いつの間にか寝ていた様だった。
寝ていたところにティリルが声をかけ、頭にモヤがかかっているような感覚ではあるが、意識を切り替える。
「無理しないでくださいね…?と言ってもみんな忙しそうですけど」
ティリルは顔を上げて周りを見ている。マリナも周りを見てみると悲惨な状況であった。
「うわぁ……」
何人もの人間が座り込んで眠っている。限界まで魔力を使い、崩れるように眠ってしまったようだ。ちなみにマリナも先程まではその人達と同じ状態であった。
「マリナさんも気をつけてくださいね?ここは安全では
ありますけど、安全では無いんですよ?何かあってからでは遅いんですから、体を大切にしてください」
マリナはティリルの言葉に頷く。ここまで荒れた魔法局だと何が起こるのか分からない。
ティリルはマリナにそう伝えると他の寝ている人の方へと歩いていった。
「後少しの…」
マリナの耳にはティリルの声が聞こえた気がしてティリルの方を向くが、ティリルは寝ていた人を起こし始めていた。
「ティリ…」
「マリナ!!」
大きな声が聞こえ、マリナが振り返るとそこには顔を汗でぬらしたミナトが居た。
「良かった…無事で…」
「ミナト…?」
ミナトはマリナを見ると泣きそうになるが腕で顔を擦り、鼻をすする。
「なんでもない!」
ミナトは顔を赤らめながらもマリナに笑顔を見せて誤魔化す。
「うーん?」
マリナはミナトの感情のことには気付かず、顔を見つめると、ミナトの顔が更に赤くなり、ミナトは顔をぷいっと背けた。
「たまにはここに来いよ…じゃあな!」
ミナトは逃げるように立ち去った。
残されたマリナはなんだろう?と思うが、その場を後にした。