3 : 上司の呼び出し
マリナが、エルと話していると腕輪からの呼び出し音が聞こえてくる。
腕輪には通話機能が着いており、マリナは急いでボタンを押して呼び出しに答える。
「はい、マリナです」
『終わったのよね?大丈夫なの……?』
腕輪から女性の声が聞こえてくる。
「連絡が遅くなってすみません…怪我は無いです。大丈夫です!」
マリナはその声に頭を下げている。
通話の相手はマリナの上司であるアオイからだった。
アオイはマリナが心配で電話してきた。
『それなら良かった。…これから支部には来れそう?』
「…………はい大丈夫です……」
アオイの言葉にマリナは声を詰まらせる。
『じゃあすぐに来てね』
アオイとの通話が切れる。
(呼び出し……?わたし何もしてないよね?声優しかったし…怒られないよね……)
アオイの言葉にマリナは何もしてないがドキドキしてきた。
アオイは厳しい人であり、よく怒られているからだ。
(もしかしたら使った魔力のこと聞いてくるんじゃないかな?)
(あ!そういえば魔力の出力とかみられてたね!?)
魔物と戦う時には高ランクだと戦闘記録として自動的に戦いが録画と発信される。
低ランクの場合は録画はされないが、戦っている時に使う魔力を数値化して戦闘の状況が算出されている。
魔法使い側がどんな魔法を使ったとか、魔物がどのような攻撃をしたか、などは魔力である程度は分かるのだ。
そのため、マリナが戦っていた時の状況も伝わっている。
マリナが攻撃を受けて、魔物から追撃まで受けそうな状況が伝わっていたのだ。
そしてマリナが突然強くなり魔物を倒した所も伝わっている。
(エルの事は教えちゃいけないんだよね?)
(言わないといけない時は良いけど、まだその時では無いし黙ってて欲しいなー)
マリナは悩む。
このままだと何があって倒せたのかを説明できない。
(どうしよう……)
___________
マリナは腕輪のボタンを押して支部へ転移する。
魔法使いに配布されている腕輪は支部へと転移出来る機能もあるのだ。
緊急連絡や緊急離脱の時にも使用が出来るようになっている。
「Eランクのマリナです」
マリナは受付を済ませ、案内された会議室にノックして入ると、中には2人が座っていた。
上司のアオイと、支部長のリコが座っている。
「こちらに座りなさい」
「はい…」
マリナはアオイの目の前の椅子に座り、口を閉ざす。
「魔物の討伐時何があったの?」
「えっと…多分覚醒したんだと思います…」
マリナは転移する前にエルと相談して覚醒したことにしたのだ。
覚醒とは稀に発生する現象で、魔力の増加や特殊な魔法の習得などの普通ではありえないほどの強化が起こる。
感情が強く現れた時に起こりやすいとされている。
「死にかけちゃったので……」
実際に死にかけていた。
マリナは吹き飛ばされて身体も動かせる状態ではなく、緊急脱出も出来なかった。
覚醒してもおかしくない状態だっただろう。
「そう……。次は無いと思って気を引き締めなさい。それと……生きてて良かったわ」
アオイは瞳に涙を浮かべながらマリナに微笑む。
「はい…!」
アオイは厳しいがとても優しい。
マリナにとっては姉のような存在と思っている。
「マリナちゃん………あなたは自分の能力は把握してる?」
マリナは、聞いてきたリコの方へと顔を向けるとリコさんと目が合う。
探るような目線を感じるとマリナは咄嗟に目線を逸らした。
「わたしは基本属性4種が実用可能になったことと回復魔法が使えるようになったみたいです」
基本魔法とは炎水風土の4種類の基本的な属性で、特殊属性が他にもある。
基本属性は魔法が使える人は4種類とも使えるとされている。
使えるとはされているが実用的に使える属性は人によって違っている。
マリナは以前、炎属性を使ってみたが、小さな火が灯るくらいで実用性はなかった。
ちなみに、特殊魔法は基本魔法属性以外の事を指し、習得難易度が高いものや、習得が不明なものとなっている。
「あと威力も強くなったみたいです」
「………………なるほどね?」
「嘘でしょ!?そんな覚醒聞いた事ないわよ!?」
リコは冷静に見えるが、アオイは動揺しているように見える。
「そんな嘘ついても意味無いだろうし、気になるなら確認してみたらいいんじゃない?模擬戦してみたら?今日は確か練習部屋は使ってないはずだし」
「マリナ…良いかしら?」
「いいですよ」
練習部屋とは魔法の練習をするための部屋で、現実世界ではなく、バーチャル世界となる。
能力をコピーし、バーチャル世界で戦うことが出来る。
強力な魔法や技等の現実で行うと周りに被害が出るものはここで試したりする。
ここでマリナとアオイは模擬戦を行うということだ。