1 : 妖精との契約
(やっちゃったな……)
住宅街の中、ローブを着た女の子が倒れている。
女の子の名前はマリナ。
ランクEの馬型の魔物の一撃を食らって吹き飛ばされ、地面に叩きつけられている。
マリナの頭からは血が流れて死を感じながらも思ったことは両親への謝罪だった。
(お父さん、お母さん死んじゃってごめんなさい。)
そしてマリナは魔物の足に踏み潰されてそのまま意識は無くなった。
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「ここは…?」
マリナは真っ黒な世界の中で目を覚ますと起き上がり周りを見渡す。
真っ黒な世界は何も無く、どこまで続いているのか分からない闇に包まれている。
「あはは………親不孝者は地獄に落ちるしかないんだね…」
マリナは力無く笑いながら現状を思い出す。
両親からは戦うのは辞めて欲しいと言われながらも自分の責務だと思い上がり続けていた。
その結果は、力が足りずに死んだ。
ランクEですら手こずり、水の魔法しか使えない。
まだ14歳と若く、これから成長する見込みもあったが低ランクの魔物にすら負けてしまった。
「君は弱いね」
マリナが独りで呆然としていると突然闇から白い光が出てきて声をかけてくる。
真っ白な姿の妖精が光の中から現れる。
「弱いよ。戦える力なんてなかったもん」
マリナも自分に力がないことは分かっていた。
分かってはいたが誰もが憧れた正義の味方になってみたかった。
魔法を使って悪と戦いたかった。
「力を貸してあげようか?その代わりお願いを聞いてもらうけど」
マリナはその言葉を聞いて戸惑う。明らかな罠としか思えない。
「まあ、ボクが力を貸さないとこのまま死んじゃうけど。死んでも良ければ断ってもいいよ?」
生きるか死ぬか。
二択だが実質は一択の選択。
後悔もあったし力も欲しい。
マリナは答えを決めた。
「……力を貸してほしい。生きたいの」
マリナの言葉を聞いて妖精は口の端を小さく上げる。
「契約は成立だね。ボクの願いは終焉の魔女の討伐。魔物を産み出す親玉だね」
妖精はそう言うとマリナに指を向ける。
指先からは光が放たれてマリナの胸に突き刺さる。
そしてマリナの全身が光り輝く。
「ボクの能力は、全属性、全魔法が使えるようになるのと、魔法の強化。魔力は強化されないけど、元々素質あったみたいだから良かったね」
マリナは水魔法は使えたが、他の属性はほぼ発動すら出来なかった。
唯一仕えていた水魔法もどちらかと言うと弱かった。
妖精の言うことが本当であれば、今よりも強くなるのは明らかだ。
「デメリットとしては筋力と耐久力、持久力の半減かな」
妖精はそう言うが、マリナはあまり気にしていない。
マリナは接近戦をしないからだ。
そして、光はマリナの中に溶け込み、辺りは暗くなる。
「ライト」
マリナが声に出すと今まで使えなかった光魔法が発動する。
目の前で光の球体が出現し周りを明るく照らす。
「無事に成功したようだね」
妖精は光の球体を回り、マリナの左肩に座る。
「わたしはマリナ。あなたは?」
「……ボクはエル」
マリナが尋ねると少し間が開くが妖精はエルと名前を答える。
「エル…ね?よろしくね」
「よろしくねマリナ」
エルはそう言うとマリナの体の中に溶け込んでいく。