112 : 聖女と勇者
「ぐォォォォッ」
巨大な岩が空から落ちてくる。一つ一つが強大で簡単には止められないような岩の塊。
「………任せて」
アリスちゃんの魔力が流れると、空間魔法で岩と岩をぶつけあわせ、岩が砕け散る。
砕け散った岩は一つ一つが人の大きさほどあるが、アリスちゃんが更に転移させダンタリオンに送り返す。
アリスちゃんが送り返した岩は不自然な起動を辿り、ダンタリオンから離れた位置に落ちていく。
「俺にはァ…当たらないゾオォォォ」
ダンタリオンの周りの空間は空間魔法で歪ませ、更に闇魔法で流れを隠蔽されている。更に空間魔法を循環させることで歪みが不安定となっており魔力の道筋が予測できなくなっている。直接的な攻撃を当てることは不可能と言っていい。
全ての魔法が見えているはずのわたしでも流れを完全に見切ることは難しい。
「…フェニックス、聖なる炎」
アリスちゃんの召喚獣が放つ白炎はダンタリオンに一直線へと伸びる。そのまま着弾しそうになるが、ダンタリオンの空間魔法により軌道が一気に変わり、空へと打ち上がっていく。
アリスちゃんの魔法を受けきったダンタリオンの足に力が入り、地面が揺れる。ダンタリオンの足元が盛り上がり、何かが出てきそうだった。
「………ッ!アース・サンクチュアリ」
ダンタリオンの魔法に対し、湊斗が剣を地面に突き刺して魔法を使う。
湊斗の魔法によって地面が薄く輝きながら揺れが収まっていく。地面に光の筋伸び、ダンタリオンへと迫るがダンタリオンの魔法によって地面が割れ、筋はダンタリオンまで届かなかった。
「こしゃくなァァァっ」
この状態のダンタリオンに攻撃を当てるにはダンタリオンの居る空間ごと空間魔法をかけるか、空間魔法を壊し切る圧倒的な魔力が必要となる。
ダンタリオンは強い。
勇者であるダンダリオンは魔女だった時のわたしと同じくらいの強さだ。今のわたしは生きていた時に持っていた聖女の力しか持っていない。3人が力を合わせて…そして、湊斗の力を使わないと勝てない。
「湊斗!手を貸してっ」
有無を言わさずに湊斗の手を握る。暖かく安心のできる手だ。
「…はぁ!?」
湊斗は顔を赤くしながらわたしを見てくる。湊斗の気持ちも手から伝わってくるけどそれは今は考えないようにする。
わたしは魔力を湊斗へと送りながら湊斗の魔力と繋げる。
「…っ」
湊斗からも魔力が流れてきてわたし達の魔力がさらに繋がっていく。深く繋がり、混ざり合う。
わたしの聖女の魔力と、湊斗の勇者の魔力が。
「セイクリッド・グロウ」
わたしの手に白い光が集まり収縮する。熱を持ち、周りの空気が熱くなる。
周りに立ち込めた魔力が白い光に焼かれ、ダンタリオンの空間魔法に小さな歪みが発生する。
魔力の流れを見切るための小さな歪み。歪みを戻す力を辿り、ダンタリオンへの道筋を見つける。
「な"ッ!? 」
湊斗の勇者としての魔力はわたしの聖女の力を増幅させる。
「セイクリッド・アース・サンクチュアリ」
湊斗とわたしの魔力による魔法で地面が光り輝く。光り輝く地面からは聖剣が複数本現れて空間魔法ごとダンタリオンを次々に貫いていく。
「バカなァァァ」
貫いた場所は大きく穴が開き、黒い魔力が流れ出ていく。深い傷を与えることはできた。致命傷とはならない。それでも多くの魔力を消費させることが出来た。自己治癒が出来ないように、わたしは魔力を流し込みながら聖剣を維持する。
ダンタリオンは聖剣を壊していくが、今のわたしができることはこれだけ。
「アリスちゃん!」
わたしの声にアリスちゃんは頷く。第3覚醒となったアリスちゃんは巨大な魔法陣を出現させる。
「サモン・セーレ」
魔法陣が輝き、ダンタリオンに似た雰囲気の男が1人現れる。
「ダンタリオンか………堕ちぶれたものだな」
「貴方八………」
魔法陣から現れた男が魔力を使うとダンタリオンから流れ出た黒い魔力が複数の十字架へと変化していく。
「暗黒領域」
十字架がダンタリオンへと突き刺さる。ダンタリオンは突き刺さった十字架から魔力を奪われ、乱される。
「ガァァァッ」
ダンタリオンが魔力を込めるのが分かるが、込められた魔力は一瞬で消える。
「…抑え込んだ」
アリスちゃんは膝をつき、呼吸が乱れている。今も大量の魔力が召喚した男へと流れ込んでいっている。
「湊斗!あなたがきめて!」
手を繋いだ時にわたしが渡した魔力は湊斗に残っている。聖女の魔力も勇者の魔力を増幅させることができる。
「………ああ」
湊斗が地面を蹴る。両手には何も持っていない。
「神装顕現」
湊斗の右手に白銀の剣、左手には白銀の盾、身体には白銀の鎧が現れる。
「イノセンス」
湊斗が目の前から消える。
ダンタリオンの遥か先で右手に持っていた剣を振り下ろした湊斗が立っている。
ダンタリオンは縦に真っ二つにされ、その切られた先に湊斗が居る。
「ェ…?」
ダンタリオンが左右へと倒れていく。ダンタリオンも斬られた事に気づけていなかった。
湊斗の攻撃は一瞬で、何も感じなかった。
風も魔力も気配すら感じない無の攻撃。意識していたはずなのに気づけなかった意識外からの攻撃だった。
これが湊斗の………
勇者の力。
「聖女と勇者………よ…よく…勝った」
斬られたダンタリオンから声が聞こえる。
ダンタリオンに目を向けるとダンタリオンは縦に半身となった状態で倒れていた。もう片方の半身はボロボロに崩れ去り、魔力は空へと帰って行っている。
「ダンタリオン………?」
「…お前達なら…終焉の魔女を………倒すことができる……だろう」
ダンタリオンの切断面からは黒い魔力が大量に流れでている。さらさらと断面が崩れていき、魔力が空へと帰っていく。
ダンタリオンに触れて魔法を使おうとするが、身体が動かなかった。
「待って……………」
早く回復魔法をかけないとダンタリオンが死んでしまう。
手を伸ばそうとするけど身体は自分の身体ではないかのように動かない。
「……………ナ………あの時……俺は…お前に…救われた…………満足してる…さ」
ダンタリオンか崩れていく
呼吸が乱れる
黒い魔力が空へと流れていく
唇すらまともに動かない
「……………っ」
崩れ落ちた魔力は空へと帰る。そこには何も残らない。
わたしはまた助けられなかった。
思ったよりも戦いが短くなりました




