109 : ダンタリオンとの出会い
今まで生きてきた中で、わたしはマリナとして生きてきた記憶しかなかった。
でも、その記憶にはずっと違和感があった。
わたしの記憶には小さかった時の記憶はなく、小学生であった記憶からしかなかった。その時の写真すら1枚も無く、小さい時の記憶は親すらも残って居ないようだった。
それはおかしいということすら気付けなかった。
マリナは存在しない。作られた存在だと今になって理解する。
___________
ダンタリオンによって思い出させられた記憶は、私の最後であり、わたしの最初の記憶。私がわたしとなった記憶。私は過去に例が無い程の魔力、魔法、そして今までなかった治癒魔法が使える少女として産まれた。私の記憶は既に国に引き取られた後だったから親の顔も声も何も覚えていない。
幼い時から国を守るために尽くしてきたが裏切られた。
私の力が強すぎたから排除された。私を排除した国は世界を支配した。全てを力で支配する世界。
私はその恨みから生まれた存在。
私は力の限り全てを飲み込み世界を無に返した。
そして、私は旅を始めた。
旅を始めて少しして、私とほぼ同じ世界を見つけることができた。
人が戦い、平和とはほぼ遠い世界。戦いは終盤を迎え、後は強い国が弱い国を蹂躙するだけだったはずだった。その時に劣勢だったはずの国から勇者が現れた。
劣勢だった国は一気に勢い付き、そのままの勢いで逆転し、戦いに勝利した。
勇者だった男は涙を流した。
『こんなはずではなかった』…と
勇者だった男が現れて一気に戦場が変わった。戦いから殺し合いに、劣勢だった国は今までの鬱憤を晴らすように多くの人を虐殺し、多くの人数が犠牲となった。
もし、勇者が現れなければ戦いはすぐに終息し、多くの人は犠牲にならなかったかもしれない。
「無様…ね。まるで私みたいに」
思い返される記憶。頑張れば頑張るほどに追い詰められた過去の記憶。頑張ればそれ以上の絶望がやってくる。
私は勇者だった男へと声をかけた。
「あなたは今幸せ?」
「……………お前は誰だ?」
男が返事をする。私という異質を見て興味を湧かせている。
私の名前…ね…名前…。
「私は魔女。世界を旅しているの。私の存在は間違ってなかったのかを…知るために…ね」
私はただの魔女。名前なんて無い。
男の魔法の感覚がある。この感覚は闇魔法。私の記憶を覗いてくるのがわかる。見たければ見ればいい。
「………お前は間違えていない。間違えてるのはお前ではなく…お前の世界が間違えている。俺の国のようにな」
男の魔法が消える。男は私の記憶を読み取り、私という存在を肯定してくれる。
「お前は………俺と同じ…なんだな」
男と私は似ていないようで似ている立場だった。
私は聖女として国を支え、強すぎる力によって殺された。
男は勇者として国を引っ張り、強すぎる力によって周りを狂わせてしまった。
表と裏の違い。私達は強すぎる力によって世界を壊した者同士だった。
「もう一度聞くわね?…あなたは、今、幸せ?」
「……………幸せなわけはない」
「なら、どうやったら幸せになれると思う?」
私の問いに男は黙る。
男は私の記憶からどうすれば良いか分かっているはずだった。それでも口にはしなかった。
私が力を使った快感、そして開放感。自分が正義として幸せになる方法はわかっていたはずだった。
「それでも………」
「分かるでしょ?1度力で抑えたものは力でしか抑えられないの」
力に溺れた者は言葉なんて聞かない。力で虐げられた者も言葉なんて信じない。
「無かったことにすれば良いの」
自分がおかしくさせてしまったものは自分で消し、歪みを正す。
世界を正すための力を正常に行使して世界を導く。悪に染まったものは消して悪を正せば良い。
「あなたは悪くない。壊れたら…また作り変えれば良いの」
この時の私は力に溺れていたんだろう。自分の力を使うことが正しいと思っていた。だけど、その自信と圧倒的な力が男には届いたんだと今になって思う。
私の言葉を聞いて男の瞳には決意が宿る。
男は力を使い、自分の国を破壊した。そうすると力によって支配されていた国はお互いに争いあった。
その国々も男は滅ぼし、世界を浄化した。
争いが起こらない世界。人は全て死に、全ては無となった。
これが力を持つ者の宿命。
私は新たな世界として作り替えるために男の救った世界を記録する。私が世界を救う為の礎となる。
これが私とダンタリオンの出会い。




