106 : 私の記憶
「え………?」
フルスさんと敵対すると思っていたら前に出会ったことのあるブラックさんが現れた。そして、フルスさんとブラックさんがふたりで消えて、わたしと湊斗の2人に戻ってしまった。
「茉莉奈…俺は…」
湊斗の言葉が届いてくる前に魔物の気配を感じる。
「湊斗…!」
わたしと同じように湊斗も気配を感じたみたいだった。
湊斗の視線は気配がした方向へ向いていた。地面が揺れ、気配がした方向から大きな音が聞こえる。
「魔物…?」
魔物の気配を感じたが、感じた気配に違和感があった。
今までで感じた事のある魔物の気配とは違い、かなり気配が弱く、感覚が強くなった今でようやく感じ取れる気配だった。
「この魔物は…?」
再び大きく地面が揺れ、大きな音が聞こえてくる。
そして、その先からはアリスちゃんの魔力を強く感じる。
「茉莉奈!行くぞ!」
湊斗に引っ張られるようにして音のした方向へと向かう。
更に大きな音と揺れを感じる。
音の先はこの曲がり角を越えた先…
「アース・ウォール」
わたしよりも2歩くらい前に進んでいた湊斗が魔法を使う。魔物のいると思われる場所を見ると、アリスちゃんが居た。
アリスちゃんへと大きな岩が飛んでいくが、湊斗の魔法によって、地面から大きな土と岩の壁が出てきて、飛んできた岩の塊と衝突する。
大きな音を立てながら岩の塊は砕け、粉々の破片となって壁の前に落ちていく。
「もうふたりきてしまったかぁ…」
湊斗の魔法が消えると人型の魔物が居る。
細い男。前に見た事のあるレオンさんのような獰猛さは感じられず、タリオさんのような落ち着いたような雰囲気の男。
「男…?」
そこにいるはずなのに気配をほとんど感じない。でも、人の気配も感じない。
そして、そこにいる男と目が合う。
その瞬間に理解する。
身体から一気に血の気が引き、鳥肌が立つ。
ダメ………あれは戦ってはいけない存在。
わたし達では歯が立たない……………
「マリナちゃん!」「茉莉奈!」
ぐっと手を引かれ、湊斗の後ろへと引っ張られる。
目の前に尖った岩の破片が飛んできて空を切る。
危な…かった。
意識をしっかりと向けないと………死ぬ。
「アース・ランス」
湊斗の魔法が男を貫くが、男は変わらずにそこに居る。
男をしっかりと貫いているけど効いてない…?
「……………スーパーノヴァ」
わたしの魔法で男を爆発させ、煙によって視界が遮られる。そして、煙が晴れると男は平然とそこにいる。
「………効いていない…?」
湊斗の魔法は以前よりも格段と強くなっている。湊斗とわたしの魔法を喰らっても平気であるとは到底思えない。
「ん〜?なるほどぉ?」
動かずにわたし達の攻撃を受けきった男はわたしと湊斗に視線を向ける。
「おまえたちは強いなぁ」
男と目が合う。
「だけど、経験が足らないなぁ」
「茉莉_____」
意識が暗転する。わたしの中を何かが通り抜けていく。
「心はどうかなぁ」
わたしでは無い私の記憶が。
「お前の記憶…見せてもらう」
___________
鉄と土の匂い。そして、大量の血の匂い。
わたしの両手は赤い血で濡れている。
「__ナ…私は……」
「サフィ…もう喋らないで」
回復魔法でも限界はある。私の両手の中で横になっているサフィはもう助からない。何でも魔法を使える私も失った臓器を創造することは出来ない。
魔法を使う手に力が入り、サフィの手が覆いかぶさってくる。
「必ず…この戦いを………」
「サフィ…?サフィ……………?」
サフィの手が私の手から落ち、地面へと当たる。
サフィの身体を治そうと私の手に魔力が集中していくが、魔力を消費しなくなってしまった。
「…………ぅっ……う……ぅ……」
魔力を消費しなくなる。それは治そうとしている相手がこの世から居なくなったということ。それを認めたくなくて私はそのままサフィの身体を治そうと魔力を込めていく。
私の瞳から暖かな雫が落ち、手に当たる。
「うわぁぁぁぁぁ」
冷たくなった身体を抱きしめて泣きじゃくる。
戦争が始まった時にこうなる覚悟はしていたはずだった。
戦争は終わったはずだったのに、最後の最後で私が油断してしまったから…
_意識がさらに切り替わる。
見たことの無い街、そして、目の前には大勢の人。
ああ、ここは私が生まれ育った街だった…
これは私が私であった最後の記憶_
「ここにいる罪人は敵への情報を流したスパイだ!こいつのせいで国民が大量に犠牲となった!」
周りの人からは怒号が聞こえ、身体には大きな石が何度もわ投げつけられる。
痛みはもうほとんど感じていない。微かに残る意識と、悔しさ。
そして、私を捕まえたこいつへの憎しみが残っている。
男を見ると私の視線に気付いた男から少し笑い声が漏れるがすぐに平静に戻る。
「…よってこの元聖女を処刑する!」
血で濡れた首筋に冷たい刃が当たる。
「来世では神に助けてもらいな、聖女様」
男の声は私にだけ聞こえるほどの大きさだった。
そして刃は下ろされて私は死んだ。




