102 : Sランクの責務
目の前の空間からタリオ先輩が現れる。
その姿に、タリオ先輩に教えて貰っていた記憶が蘇ってくる。
「流石はフルス、まだ生きているのか」
「タリオ先輩は_____!」
俺が気になることを聞こうとした瞬間に目の前に大槌が現れ、俺に勢いよく加速しながら迫ってくる。
咄嗟に魔力を使いながら大槌を横から風で押し、更に反対側に身体を跳ねるようにして避けると、横を大槌が通り抜ける。
「フルス、…お前を殺す」
「そう言いながら殺せてないよね〜?」
声が聞こえるとタリオ先輩の肩に灰色の妖精が現れる。灰色の妖精が出てきた瞬間にタリオ先輩の雰囲気がピリッとしたものに変わる。
怒りと憎しみの混ざった気持ちであり、それを妖精に向けていることが分かる。
「お前の力が弱いからな。お前がもう少し力をくれていたらすぐに殺せてた」
「弱い君に力を与えたところで使いこなせないからね〜」
売り言葉に買い言葉。2人の関係は分からないが俺にとって有利となるような関係だと思う。
そして、そのやり取りを見るだけでなぜこの状態であるか察してしまう。
「しょうがないからもう少し力をあげるよ」
「これでもう少し技が使えるな」
そう言うと妖精は消え、タリオ先輩から妖精の雰囲気が濃くなる。
雰囲気を感じとっていると、身体に巻きついてくるような魔力を感じる。咄嗟に身体に薄い風魔法の膜を作る。
「ルーム」
その瞬間に身体の周りをタリオ先輩の魔力が覆い、空気が軋み、空気がブレる。
(_まずい)
「ブレイク」
「白撃・鈴音」
タリオ先輩の魔力を吹き飛ばすように多めに魔力を込めて魔法を使う。
チリン、と音が広がりタリオ先輩の魔法を壊す。
「ふむ。いい反応だな」
「おかげさまで」
タリオ先輩は追撃することもなく、俺は少し距離をとる。
(やっぱりおかしい)
接近攻撃が主な俺は距離をとる理由も無い。わざわざ弱い場面にしたはずなのにタリオ先輩は何もしない。
タリオ先輩の魔法の範囲もある可能性があるが、魔法局から離れたここまで魔法で転移ができるのであれば攻撃範囲から外れている可能性はかなり低い。
タリオ先輩は計算高く、先の更に先まで読んでいる。魔法を使えば俺を殺すことは簡単のはず。
戦い始めた時から…
いや、ブラックとして初めて出会った時からわざわざ俺が反応できるギリギリを狙って魔法を使っている。
さっきの魔法も何重にも空間魔法をかけられていたら細切れにされていただろう。
妖精の力が強くなっても俺がギリギリ避けられる範囲での魔法を使っていた。
(何かを企んでいる?)
いや、違う。そうであれば俺が疑問を持たないようにするはずだ。
疑問を持たれないように戦うことなんて先輩には造作もない。
(ということは俺に何か気付いてもらいたいと言う事か?)
行動は俺を殺さないようにしているが、言葉ではすぐに殺そうとするような言葉を選んでいる。
言葉と行動が違うということは俺達の会話が聞かれているが、俺に何かを伝えようとしているという事。
つまりは、
「妖精…ってことですか」
「ああ、これが妖精の魔法だ。そして、俺の魔法もある。今なら降参してもいいぞ?命だけは助けてやる」
「…先輩こそ今なら降参してもいいですよ」
「今のお前には無理だ」
妖精との言葉に対して『ああ』との同意の言葉を選んでいた。妖精をどうにかしたいとの意思と捉えられる。
敵は空間魔法を使う妖精。簡単に逃げられる可能性もある。
そして、タリオ先輩も本当に敵である可能性もある。
信用はし過ぎないようにする。事前に最悪の可能性も考慮しておかないと咄嗟に対応が出来ない。
「見ててくださいよ」
俺の気持ちを込めてタリオ先輩に宣言する。
「俺はSランクですから」
その言葉にタリオ先輩の表情は少し柔らかくなった気がした。




