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第三項 仇敵との再会(第97話)

第一部 新世界の産声編 第六章 英雄達の邂逅 第一節 災害発生


 枯渇した材料を求めて買出しに来たら、異星物が目当てにしていた都市を襲撃していた。


 とりあえずできる限りの応戦をしつつ要救助者の捜索をしていたが、クレアが言っていた現地の者が動いていたのか、救助が必要な者はまったく見当たらなかった。


 それにしても、あの異星物は何だってんだ? 武装をしていたからには明らかにどこかの大馬鹿野郎が絡んでいるのは間違いない。


 とりあえず目についたやつ等は徹底的に叩き潰したから復活してくるようなことも無いと思うが……こいつら、俺の知っている異星物とは再生力やしつこさが違う。奴らの方がずっとしぶとかった。


「粗方始末できた、のか……?」


『周辺に謎の生物――推定異星物の反応はありません』


 俺の呟きを拾い取ったマリアに対して、ついでとばかりに聞いてみた。


「街の被害状況は?」


 周りを見た限りでは思ったよりも被害が少なく見える。


 そして、マリアの返答の前に、誰かと連絡を取っていたらしいクレアが先に答えた。


「見た目よりは軽微だそうだ。この街には地下シェルターがあるからな。重要な施設も地下にあって、街の住民が一年以上暮らしていけるだけの備蓄もあるぞ?」


 そうだったのか。まあ、それくらいは用意しているか。


『そのようですね。各所の火災もすでに鎮火しており、既に復興を始めているようです』


「随分とたくましいな。まあ、この辺りの住人ならそんなもんか」


 異星物共が地上にいた頃は、ここも襲撃に遭っていたからな。


「汝の世界だと、この街はどのような街であったのだ?」


「確か、ここは海上都市に並ぶ貿易港だったな。異星物が星に居ついてからは俺の居た都市と並んで襲撃の対象になっていたから詳細までは分からねぇが、相応に堅牢な都市だったぞ。海が無くなった後も宇宙への便が出ていたから、貿易の要でもあったしな」


「なぬっ!? 宇宙へ行けるのか!?」


「あー、今は通航制限がされているから、一般人は行き来ができないけどな。まあ、落ち着いてきたら行けるとは思うぞ? そんなに楽しい所でもねぇけどな」


 食い物が不味けりゃ水も不味いからな。おまけに空気も不味いと来た。


 この手の技術は宇宙での永住を見据えて合理性を追求した結果、生き物として捨てたらいけない部分を捨てている感があるな。


「何を言うのだ! 宇宙には無限の可能性があるではないか! 汝の世界であれば居住可能な程度には技術が進んでいるのであろう!?」


「そりゃあな。もともとは特権階級の奴らが宇宙で暮らす為に金と時間を掛けて用意させただけあって、永住可能な宙間都市が幾つも建造されたぞ」


「汝の世界の特権階級とやらの事は知らぬが、宇宙に目を向けた先見性はなかなかであるな」


「その理由が星の資源を粗方取り尽くした後でもか?」


 燃料、貴金属、作物を育てるための良質な土壌まで……天然の資源はほとんど枯渇していたのが半年前までの星の有様だった。


「……よもや汝の世界がそのような方面でも追い詰められていたとは思わなんだ」


『私も初耳で驚きました。まさか、大地の恵みが人の手で取り尽されるとは……』


『人類は愚か。しかし、それもまた人であるが故のこと……』


 クレアとマリアが驚きと呆れを含んだ様子を見せる中、アイリーンの言動がなにかおかしかった。


 ……何かの影響を受けてんな? 現在の世界のネットワークは統制されていた以前と違って笑えるくらいに開けているから、おかしな情報を拾ったのかもしれないな。


「アイリーンは何の影響を受けてんだ……? まあ、人が愚かなのは今に始まったことじゃねぇけどよ。ま、そう言ったのは主導した奴らが悪いのは確かだが、それを止められなかった奴らも悪いってもんだ。でもって、そのツケを払う事になるのがだいたい後世の人ってのがまた救えねぇがな」


「まったくであるな」


『そのようなことに……こちらの世界では、資源の枯渇など考えられませんでした』


 マリアが感慨深そうに言うが、枯渇しない資源ってのもまたすげぇな。


「それは錬金術のおかげか?」


『それもありますが、こちらの世界ではあらゆる資源が短期間で自然生成されるものでしたので』


「あらゆる資源が短期間で……?」


『はい、こちらの世界には魔物という存在が居ると言う話はしましたね?』


「ああ、前に聞いたな。それが資源と、どう関係があるんだ?」


『私の言う資源とは魔物です。凡その上質な資源は魔物を討伐することで確保できます』


「おおっ、なるほど! まるでゲームであるな!」


 ゲームか。確か、クレアの世界の娯楽の一つだったな。


『言ってしまえば、私の居た世界では形を成して人を襲う資源が魔物と呼ばれているようなところがありますので』


「その魔物というのは、魔素と何か関係があるのか? そちらの世界の魔法の発展具合と良い。さぞかし魔素が豊富な世界だったのであろう? それこそ今の世界のように」


『はい、ただ、魔素が濃いのは――上空より正体不明の反応! 回避を!』


『はいっ!』


 こちらの反応より早くアイリーンが動き、機体が回避行動をとった直後、飛来してきた何かが勢いよく着地し、土煙があがった。


「来るぞっ! アイリーン、位置は分かるな?」


『はいっ!』


「ふむ、念のため魔力障壁を用意しておくか」


『マスター、仕掛けてきた場合は迎撃しても構いませんね?』


 女性陣が頼もしいな。生身の人間は一人だけだが。


 それにしても、今の襲撃方法には身に覚えがあり過ぎた。


「ああ、遠慮なくやれ。しかし、この感覚は、まさか――」


『きま――したぁ!? 機体反応速度が此方より速いですっ! しかも、敵機から友軍反応!?』


 土煙が引いて行くと共に露になる敵影は、異星人の技術が導入されて以降の機動兵器に共通したすらりとした形状の人型機体で――肩の部分には世界防衛軍の紋章が刻まれていた。


「汝! どういうことだ!?」


「……どういう経緯か分からねぇが、仕留めたはずの奴が生きていたらしい」


 おまけに今、奴が乗っ取っているのは、俺の記憶が正しければ実戦投入に間に合わなかった最新鋭の機体だ。


 旧式の機体であるアイリーンには荷が重いが――それはあくまで以前のままであればの話だ。


「クレア、魔力回路を戦闘用で起動してくれ」


「うむ、大盤振る舞いでいくぞ! 戦闘モード、起動っ!」


 クレアの魔力が大量に供給されるのと同時に、戦闘モードが起ちあがる。


 この状態は簡単に言ってしまえば魔力でアイリーンの機体及び機能を強化し、機動兵器の性能限界を容易く突破することが可能だ。


 更には、この状態でのみ使用可能な機能や武装が追加されている。


『ん? マスター、登録外の武装が生えてきましたが?』


「戦闘用の魔力回路を起動すると使えるようになる武装だからな。登録してないのはいつでも使えるわけじゃないからだ。火器管制はこっちでやるから任せておけ。代わりにアイリーンの動作補助を頼む」


『……ご自分でお試しになりたいのですね。了解いたしました。アイリーン、無様な姿は見せないでくださいね?』


『ぎゃんばりますっ!』


 アイリーンが噛んだ。噛む身体がないはずなんだがな。


 それにしても、マリアはよくこっちの考えを見透かしてくるな。それとも、顔に出てたんだろうか?


 ……まあ、図星なんだがな。


 魔力回路を用いた武装に関しては設計段階から俺が考えていたものだからな。


 やはり最初は自分で使ってみたい。


 散々試用はしたが、実戦はまた違うってのはよくある話だからな。決して新しい兵器を自分の手でぶっ放したいわけじゃない。


 内心で言い訳をしていると、微妙な顔をしたクレアがこちらへと振り返った。


「……汝よ。あれも異星物という存在なのだな?」


「ああ、わかるのか?」


「なにやら気味の悪い魔力を持っておる。アレの中にいる何かはおおよそまともな生き物とは思えぬぞ」


「……さっきの奴とは違うのか?」


「あちらはまだ覚えのある物であったが、目の前のこ奴は明らかに異質であるな」


「……そうか、やっぱりこいつは特殊な個体だったのか」


 しぶとさが他とは違い過ぎる。なにより、異星物が大本となる存在を倒されて生きているってのがありえない。


 有機生命体と融合していた個体はともかく、無機物と融合していた大半の異星物は、あの戦いの後に死滅したはずだ。


 機動兵器を好んで寄生するこいつが、こうして生きているってのが異常なんだ。


「むっ、来るぞ!」


「わかってる。アイリーン、白兵戦用の武器を出すぞ。上手く使って距離を取れ」


 その間にこっちは奴を仕留める為の武器の用意だ。


 万が一を考えて作っておいてよかった。俺の勘も捨てたもんじゃねぇな。


『えっ、ぬああっ! 腕からなんか伸びたぁ!』


「高密度の魔力により対物効果を持った刃を形成! その刃であれば理論上は万物を切り裂くぞ! その名もマギ・カッターである!」


『ほら、アイリーン。私が補助をしているのですよ。マスターの要望に応えるのです』


『あいっ! おらぁっ! 化け物めっ! 私が相手だぁ! かかってこいやぁ!』


 口が悪いな。いったい誰の影響を受けたんだ?


 果たして、アイリーンの挑発に乗ったのか、奴が仕掛けて来た。


 近接戦闘が好きなのは変わらないらしいな。


 両手に光学兵器の爪を出すなり、獣がじゃれつくように飛び掛かってきた。


 ……なんか、動きが妙だな? 先ほどの襲撃のような鋭さがない。


『……あのっ、なんかっ、遊ばれてませんかねぇっ!?』


 遊ばれている当人がそう感じるのならそうなんだろうが……まさか、別の個体か?


 いや、この感じは間違いなく奴に違いない。


 なんにせよ異星物が危険な存在であることには変わらないから、ここで仕留めた方が良いだろう。


『そのようですね。マスター、どうしますか?』


「遊んでんならちょうどいい。ここで仕留めるぞ」


「汝、容赦がなさすぎではないか? 余としてはあの機体、できることなら鹵獲したいのであるが……」


 確かにあれは良い機体だが――


「異星物付きだぞ? あと、奴らに寄生された機体はだいたい中身が虫食いになってるから、おすすめは出来ないな」


 その間どういった原理で動いてるのかって話になったことはあるが、異星物の分析を専門にしていた研究者達が言うには、異星物の身体が都合よく機能を補完しているらしい。


 そんな異星物を素材に使った機動兵器を作ろうとした奴が居たが……そういやどうなったんだ?


 計画自体は異星物との戦いが本格化して頓挫したはずだから、おそらく問題はないとは思うが。


 ま、それは俺が気にするような事でもねぇか。


 しかし、クレアも物好きだな。


 得体の知れない化け物に侵食されちまった機体が欲しいとはな。


「ああ、汝から買い取った物は骨組みしか残っていなかったからな。アレはアレで良い技術的資料となったが」


 アレは浸食が進み過ぎて使い物にならなかったとはいえ、元は軍事機密となっていた機体だからな。


 ……技術的にはもう型遅れだが。まあ、クレアの世界の人間にとっては未知の技術だからいいのか。


「あれでも昔は最新鋭の機体だったからな。目の前の機体と同様に奴に強奪される形で使われていたわけだが」


「ふむ……アレは新型を好むのか?」


 その発想は無かったな。


「奴が最初に取り付いたのは量産型の機体だったが……確かに、言われてみると二体目以降は新型ばかり狙っていたな」


 全てが最新ってわけじゃなかったが、比較的新しい物ばかりだ。


 そういや開発局にいた友人から妙な行動をする異星物に新型を狙われているという話を聞かされたが、あの話はこいつの事だったのか。


 その話に出ていた機体は無事に軍に受領されていったようだが、同型の試作機の方が奪われていたな。


 何体目かは覚えていないが、あの戦争で戦った機体の二つほど前だったはずだ。


「二体目も普通の機体だったのか?」


 二体目は覚えている。俺も開発に関わっていた機体だからな。


 同型機で系統が異なる三体の内、一体が持って行かれたんだったな。


 量産機の改良型という事もあって、真新しいとは言えないが比較的新しい機体と言えるだろう。


「まあまあ新しい機体だったな。その時に機体性能の違いと新型機の方が性能が高い事に気付いたのか……」


 異星物がそんなことを気にするだなんていう情報は無かったし、奴以外の異星物にそのような知的な行動は見られなかった。


 あいつらにとっての機動兵器は寄生さえしてしまえばどんな機体であろうと高水準の物に置き換わるようなもんだから、選り好みする理由がないってのにな。わざわざ新型機を狙うこいつがおかしいんだ。


「……特殊にしたって限度ってもんがあるだろ」


 そんなおかしな行動を取る奴は、今もアイリーンをもてあそぶように翻弄している。


 俺に対して襲いかかってくる時とは大違いだ。


 まあ、だからこそ今が狙い目なんだがな。


「いいぞぉ、そのまま遊んでろよ……」


 新兵器は威力が高いかわりに射程が短い。おまけに弾速もいまいちだから、十分に引き付けてからぶち込まないと躱される恐れがあるのが困りものだ。


 奴の反応速度は誰よりも知っているという自負があるが、今回の機体だとどれほどの反応速度を出してくるかわかったもんじゃねぇってのが不安要素だな。至近距離で外そうもんなら強烈な反撃を喰らって、こっちがやられちまう。


 無論、やられるつもりがあるわけも無いが……つーか、いい加減にこいつとの因縁を終わらせたい。 


「これからの俺の文化的で平和な生活のために――消し飛べぇっ!」


 しっかりと照準を付けてから引き金を引くと同時、音も無く収束した魔力の砲弾が奴へと向かって打ち出され――奴の身体に吸い込まれた。


「……は?」


 消し飛ぶどころか吸われたんだが?


「吸われたぞ!? なんだあの生物は!」


 クレアが驚愕した様子で振り返って来るが、それはこっちが聞きたい。


「こっちが聞きてぇよ! なんで吸われた!?」


「知るか! 余の知る限り、あのような生物は存在しないぞ! あれは魔力を喰らうとでもいうのか!?」


『あのぉっ! 今ので動きが止まりましたぁ!』


『無力化したというわけではないようですが、目標は活動を停止したようです』


「……なんだと?」


「むぅ……摩訶不思議な生物よ。魔力を持たぬ生き物が、なぜ魔力を吸収できたのだ?」


「魔力に関してはお前の方が詳しいだろ?」


「余とて何もかも知っておるわけではないぞ。ところで、活動停止というのは生きておると言うことで良いのか?」


『はい、異星物特有の反応は途絶えておりませんので……鎮静化していると言う方が正しいかもしれませんね』


「鎮静化しているだと? 破壊と殺戮の権化みたいなやつらが?」


 騙し討ちじゃねぇだろうな?


 人類が――俺達が初めてこいつらと接触した時のように、いきなり襲い掛かってくる可能性がある。


「まったく動く気配がないが……どうするのだ?」


「魔法が効かないとなると新しい武装は全部だめだな。物理的に叩き潰すにしても近接兵器しかないが、安易に奴の間合いに入るのは避けたい。最悪、一瞬でこっちがやられる」


『うぅ……遊ばれている最中、何時でもヤれるんだぞとばかりの寸止め攻撃が何度も来て心が折れるかと思いました……』


『マスターの娘を名乗るなら、あなたもあの程度はこなせるようになりなさい』


 マリアもなかなかの無茶を言うが、自動人形は学習能力が人間の比じゃねぇからな。


『狙撃なら……狙撃できる距離なら絶対に勝てたのに!』


「文字通り頭の出来が違うとはいえ、俺の戦闘技術を粗方習得は出来てんだよなぁ」


 だからこそ主な操作をアイリーンに丸投げできるんだが、あまり頼り過ぎていると腕が鈍りそうだな。


 ……それにしても動きがないな。本当に停止しているらしい。


 あれだけ感じていた奴の意志のような感覚も希薄になっているから、死んだわけではないんだろうが、どうにも不気味だな。


「よし、ちょいと小突いてみるか」


『カッターで叩いてみますか?』


「みね打ちで頼むぞ! 傷は最小限で頼むのだ!」


 クレアはもう鹵獲する事しか考えていないな。


「いや、俺がやろう。本当に軽く小突く程度だ」


『わかりましたー』


 アイリーンから操作を返してもらうと、魔力を纏っていない状態のカッターで奴を軽く小突いてみた。


 突いた分、機体が揺れ動きはするが、完全に停止しているな。


「……動かないな」


「うむ、そのようで――むっ、妙な魔力を感じるぞ?」


「妙な魔力?」


「うむ、異形や怪人に似ているが、これは――あの機体の中からであるな」


「あの機体の中だと?」


『いえ、間違いないようです。たった今、あの機体の中から生命反応を検知しました』


「生命反応? たった今? 一体どういう――あっ」


「余が見て来るぞ! 汝は周囲の警戒を頼むぞ!」


「おい、見に行くなら念の為魔法少女に……もうなってやがる」


 勝手に操縦席の出入り口を開いて文字通り飛んで行ったクレアは沈黙した奴の機体に取り付き、手際よく外部から非常装置を作動させて操縦席を開けていた。


 そうして開いた操縦席の中には――


「……は? なんであの中に子供が?」


 どういうわけか、十歳にも満たないような見た目の子供が操縦席にぐったりともたれかかっていた。

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