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第一項 不穏な空気(第95話)

第一部 新世界の産声編 第六章 英雄達の邂逅 第一節 災害発生

アルバート編

 クレアの手伝いもあって、アイリーンの新しい身体は無事に改修が終わった。


 襲来してきたクレアはいつの間にか嫁と仲良くなっており、我が家の一室にすっかり居ついていた。


「おかわり!」


 元気よくおかわりを催促するクレアに対して、マリアが恭しく対応している。


『ただいまお持ちします』


 現時刻は朝というには微妙な時間で、我が家の他の面々は既に食事を終えて各々の時間を過ごしている。


 この光景もすっかり見慣れちまったな。


 そう思えるくらいにクレアが居ついてしまっているため、食事なんかも普通に我が家で食う事になるんだが、相変わらずよく食べるな。こいつ。


 食事代はしっかり貰っていると嫁が言っていたが……帰らなくて大丈夫なのか?


「クレア、魔力回路を教えてくれるのはありがてぇんだがな。お前、帰らなくて大丈夫なのか?」


「んむ? むぐ……大丈夫であるが? やるべきことは済ませて休暇に入っていたからな。しばらくは暇なのだ」


 マリアが持ってきたおかわり分の食事に手を付けているクレアに尋ねるも、どうやら休暇中とのことらしい。


 休暇か……俺も遭難している間は、ある意味休暇みてぇなもんだったな。今後は忙しくなりそうだが。


 ただ、今朝の情報誌に近くの都市で不穏な空気を感じると言う記事があったんだよな。


 鵜呑みにするわけじゃないんだが、件の都市から来た奴らの話だと、本当にきな臭い事になって来ていると言う話をちらほらと耳にしている。


 ……まあ、クレアなら大丈夫か。


「ならいいけどよ。マリアとの異世界魔法交流はどんな調子だ?」


「なかなか有意義であるな。あちらの魔法は洗練されておるから、色々と参考になるのだ」


 クレアはしたり顔でそう言うが、魔力が見えていない俺には何がどう洗練されてんのかわかんねぇんだよな。


「そういうもんなのか……俺は魔力回路の方が性に合ってるけどな」


 魔力回路なら可視化されているからわかりやすい。


 あと、機械的な構造に通じる部分があるってのも大きいな。


「そう言う汝は、錬金術とやらに手を出しているようだが、進捗はどうなのだ?」


「進捗も何も、黄金や賢者の石を作ろうってわけじゃねぇからな。本を見ながら適当にボチボチやってる」


 本当はまとめてがっつりとやりたいところなんだが、錬金術は金を食うからな。


「何か面白い素材は出来たのか?」


「今のところはありきたりなもんしかねぇな。なんせ知らねぇ素材が多すぎる」


「別の世界の技術に素材か……余の所でもかき集めてみるとするか」


「ついでに俺の分も集めてくれ。金は払う」


「素材あ妻は了承したが、金よりも余の専用機を作る際に手伝わせて欲しいのだ。魔力回路は自分で刻みたい」


「それは構わねぇが……何か企んでねぇか?」


「ふふん、気付いたか。異世界の魔法に触発されてな。新しい魔力回路を思いついたのだ」


「新しい魔力回路か。もう実装段階まで出来てんのか?」


「もう少し突き詰めたいところであるな。試作してみた物は問題なく起動したが、やはり機動兵器に刻まねばわからん」


「それなら、機動兵器じゃないが、なにか小さい機体で試作品でも作ってみるか?」


「小さい機体? そんな物ができるのか!?」


「物によるけどな。うちで製造可能な小型機は工業用の作業機体が大半だが、今回は一番小さな強化骨格の躯体に刻んでみるか」


「強化骨格とは何なのだ?」


「あとで見せるが、装着者の動作補助機ってとこだな」


「動作補助機……ふむ、魔装具のような物か。それに魔力回路を刻むのだな?」


 魔装具? そんなもんがあんのか。あとで詳しく聞こう。


「ああ、機動兵器で効果が出てるからな。強化骨格でも同様に効果が期待できるはずだ」


「ふむ、そうであるな。本来、余の魔力回路は小型機器への導入が主であるからな。むしろその方が使える魔力回路も多いであろうな」


 そういやそうだった。


 こっちには魔力回路を使った家電なんかねぇから忘れてたぜ。


 ……ま、適当に話を合わせておくか。


「だろう? だからまずは強化骨格を使っていろいろと試してみようぜ?」


「よかろう。余も強化骨格という物が気になるしな」


「何ならちょいと着けてみるか? 力仕事も楽にこなせるようになるぞ?」


「おおっ、それは面白そうであるな! 着けてみたいぞ!」


 よし、言質は取った。ぜひとも着けて貰おうじゃないか。クレア専用の強化骨格・試作一号を。



 クレアの食事が終わった後は、俺とクレア、マリアの二名と一体で工場へ。


 実は、クレア専用の強化骨格に関しては以前に魔法少女の事を聞いてから考案していた。


 今回のはそれを形にしたものをお試しという形で紹介しつつ売り込んでいく予定だ。


 で、強化骨格を身にまとったクレアの感想がこれだ。


「強化骨格というから、もそっとごつごつした物を想像していたのだが……これは最早、スーツの類いではないか? いや、スーツというよりは身体に帯を巻いているわけなのだが、このようなファッションは斬新であるな」


 言いたいことは解る。骨格って見た目じゃねぇんだよな。


 ただ、これがややこしくて、過去に強化骨格と名付けられた物が性質はそのままに形状を変えながら現代まで発展してきた結果が今の形なんだわ。


「大昔の強化骨格なら、たぶんクレアが想像しているものと同じだな。現在のは着用型が主流で型がいくつかあるんだが、今回のは身体に帯状の薄皮を纏うような物を使ってる。最新の機動兵器の操縦服も同じ型の物になってるぞ」


 最近じゃ強化骨格とは別の呼称も定着しつつあって、強化外装とか強化装甲とか、みたまんまの強化帯なんて呼ばれ方もあったな。


「そうであるか。しかし、何と言うか……今の余の格好、エロくないか?」


 そう言って、クレアが恥ずかしそうにする。どの口で言ってんだこいつ。


『魔法少女の姿の方がエロいかと』


「あれはエロくないわ! 美しいであろう!?」


「いや、たいして変わんねぇだろ」


「全っ然違うであろうが! 魔法少女の衣装は衣服であるが、こちらはもうほとんど全裸であろう!?」


「いや、精々下着程度だろう。こっちに来た時と変わんねぇし、なんだったら寝間着姿の方がやばかったぞ」


「余の身体がやばいと申すか!?」


「お前の恥ずかしがる基準がまったくわからん……」


『稀に居ますよね。こういうお方』


「まったくだ。クレア、恥ずかしがるのは後回しにして、そのまま魔法少女になってみてくれ」


「貴様ら、主従揃って酷い言い草ではないか? まったく、魔法少女に変身すればよいのだな? どれ、変身――ぬあぁっ!? 魔力が吸われるぅぅぅ!?」


 クレアの情けない悲鳴と共に変身が終わると、魔法少女の姿になったクレアがガクリと膝をついた。


「なんっ、なのだっ、これはぁっ! 魔力をがっつり持って行かれたのだがぁっ!?」


「まあ、落ち着け。どうやら上手く行ったみたいだな」


「上手く行った? 一体何が……ん? なんだこれは? 腕輪か? それに、強化骨格が消えておるが……」


「その腕輪が強化骨格だ。僅かな魔力と思考に反応して自在に変形するようになっている」


 まあ、自在と言っても限度はあるがな。


「なんと!? ど、どうやって使うのだ!?」


「まあ、落ち着け。言ってしまえばその腕輪は更なる変身を可能とするものだと思ってくれ。開発目的としては魔法少女の服に付与されている補助機能を強化するってのが目的なんだが――」


「そう言う事であったか! 魔力と余のイメージで良いのだな!? 変身!」


「あっ、話は最後まで聞けって――」


 注意するが、それ以上にクレアの行動が早く、既に変身を終えていた。


 新しい魔法少女の衣装はクレアが理想とする姿が反映されているのか、以前の物より露出が増えている。


 クレアが自慢する自身の美を引き立てる為の意匠なのだろう。


 癪なことではあるが、クレアが纏う事で一つの芸術品であるかのような美しさを誇っていた。


「――おぉぉぉ!? 見よ! これぞ余が理想とする魔法少女ふきゅぅぅぅ」


 更なる変身をしたのも束の間の事で、クレアはその場で潰れるようにべしゃりと倒れ込んだ。


 今の変身で魔力をほとんど持って行かれたようだ。


 ……まあ、これはこれで好都合か。


「人の話を聞かずに先走るからだ。マリア、先日作った魔力回復薬を」


 先日、錬金術で作ってみた魔力回復薬の効果を試してみよう。


 自分で使おうにも魔力回路を描く程度では魔力はそんなに消耗しないからな。


 効能を確認するなら、これくらい消耗していた方が解りやすいはずだ。


『はい、こちらに』


 魔力回復薬が入った小瓶をマリアから受け取り、クレアに差し出した。


「ほれ、こいつを飲め。少しは楽になるはずだ」


「か、身体が、動かん……んぼっ!?」


 身体が動かないと言うので栓を抜いて無理やり口にねじ込んだ。


 ――よし、飲んだな。


「さて、効能はどれくらいだ? 時間と効き具合の記録を――」


「いきなり何をするか!? むっ? かなり回復したぞ」


「即効性か。回復量の体感としてはどんなもんだ?」


「汝、乙女にとんでもないことをして置いてその反応は傷つくぞ……」


 乙女? 見た目はそうでも実年齢はうちの長女と同じくらいの歳だろ。


 俺には、女はいつまでたっても乙女だなんて言う様な癖は無い。


「誰が乙女だ。で、回復量は?」


「むぅ……そうであるな。体感としては六割強だが、余の魔力量は世界有数であるからして。並の魔法少女であれば魔力超過によって魔力酔いを引き起こすぞ」


 そんな症状があるのか。そう言った点に気を付けないと売りに出せねぇな。


「魔力酔いなんて症状があるのか。それなら薄める必要があるな。マリア、回復薬の希釈剤みたいなものってのはあるのか?」


『あります。簡単に作れますので、あとで製法を教えます』


「ああ、頼む。で、クレア。使ってみた感想は?」


「とんでもなく魔力を食うではないか!? 実戦では使い物にならぬぞ!?」


「一度目はともかく、二度目はクレアが原因だからな? 最初の魔力は強化骨格への魔力登録や魔力充填の為に使われているが、二度目のは思考の具現化の際に意匠以外の事も考えたんじゃないか? それもかなり」


「うむ、それがまずかったのか?」


「ああ、あくまで強化骨格の機能は内蔵魔力を使用しての形状変化とちょっとした機能強化程度だからな。思考で過分な要求をすると、その分の魔力を捻出できずに使用者から奪う事になる」


「なるほど……では、相応の魔力があれば過分な要求をした分の機能の実現は可能か?」


「内容によるな。見た目は変化しているから、消費魔力に見合った分の強化もされているはずだ」


「ふむ、では、少し試してみるか」


「試すって、何をするんだ?」


「まあ見ておれ。余のイメージ通りであれば……むんっ」


「うおっ、なんだぁっ!?」


 屋内なのに風が!? いや、この感覚は……魔力か? 魔力だけでこんな現象がおこせんのかよ!?


「……ふむ、耐えられるか。かなり強化されておるようだな」


「今のって魔力だよな? 相変わらず見えねぇが、肌に当たる感覚がそうだった」


「うむ、余のリミッターを一段階外してみた」


「リミッターってのはなんだよ?」


「制御装置のような物であるな。正確には装置ではなく封印だが」


 制御装置だぁ?


「制御って、お前、今まで手加減してたのか?」


「手加減とは少し異なるな。敢えて抑えておるのだ。そうでもしないと余の身体が持たぬ」


「魔力ってのはでかけりゃ良いってわけじゃねぇのか……」


 錬金術にも関わってくることだし、今後は魔力に関する研究が必要だな。


「それはそうであろうよ。しかし、この強化骨格と言うのは良いな! 魔力を解放しても身体に何ら支障がないぞ!」


「もともと強化骨格は身体機能補助を目的として作られているからな。魔力方面に作用するように魔力回路を組んでみたが、上手く作用しているみてぇだな」


「なぬ? そのような回路を汝が?」


「正確には俺とマリアの合作だな」


『はい、愛の共同作業でした』


「ふむ、異世界の魔法技術が合わさっているのか」


『いえ、マスターの世界の技術も合わせて三世界の技術が集約された魔力回路となっています』


「なんと!? 強化骨格に刻んであったあれが!?」


「ああ、帯状の強化骨格は構造上、魔力回路を引くのに都合が良くてな。クレアから見えていたのは表層上の物だけだが、内部にはいくつもの層に渡ってびっしりと魔力回路が刻まれてんだ」


 まあ、俺が設計したのをマリアが刻んでくれたんだけどな。流石にあの密度は俺でも無理だった。


「ふぅむ、多層式の魔力回路か……きちんと機能しておるな」


「何か問題でもあったか?」


「いや、こちらの技術では多層式の魔力回路の実現は困難だったのでな。いきなり完成形を見せられて少々戸惑っておる」


「そっちの技術だけじゃ難しいだろうな。異世界の魔法とこっちの科学があってようやく実現できたもんだからな。強化骨格に刻んだ回路の設計図、見てみるか?」


「それは気になるがあとにしよう。余の実験はまだ終わって居らぬ。ところで汝よ。これだけ機動兵器があるのだし、一つくらいは実験に使わせてもらっても良いか?」


 何をする気か分からねぇが、いやな予感しかしねぇ。


「待て待て。さっきも言っただろ。使うならまずは小さいのからだ」


「む、そう言えばそうであったな。しかし、既に汝が作った物がこうしてあるわけだが」


「それはあくまで俺が趣味で作った物だからな? これから作るのはクレアが構想した魔力回路を強化骨格に刻んだものだろう?」


 まあ、こうして作っていたものがあったからこそ強化骨格へ回路を刻むことを提案したわけだが。


「つまり、技術の競い合いであるな?」


「なんでそうなるんだよ。まあ、それでやる気が出るなら、そう言う事でもいいぞ」


「よしきた! では余も汝と同じコンセプトで強化骨格に魔力回路を刻んでみるとするか。手を入れていない強化骨格はあるのだな?」


「おう、幾らでもあるぞ。競うなら同じ条件ってことで、帯状の物で良いな?」


 使用する強化骨格の確認を取ると、クレアは頷いた。


「うむ、構わん。久しぶりの新規回路の開発であるからな。この強化骨格を使用した状態であれば、今まで理論上の物でしかなかった魔力回路を描くことができるかもしれぬのだ」


「そんな物があんのか」


 つーか、強化骨格の効果でそんなことまで可能になるのか。


 マリアの助言を受けつつも書き上げた魔力回路にそんな効果があるとは思わなかったな。


「うむ、とは言え、異世界の魔法を知ってしまった今となっては微妙なところであるがな。流石にそのまま使うことは出来ぬ。まあ、見ておれ。すぐに改良して見せよう」


「じゃあ、お手並み拝見だな」


『こちらをどうぞ』


 先ほどの会話の合間にマリアが取りに行っていた強化骨格を作業台の上に置いた。


「とくと見よ! 余が産み出す魔力回路の神髄をな!」


「……マリア、しっかり記録しとけよ」


『了解です』


 貴重なクレアの作業映像だ。しっかりと記録して、自分の糧にしねぇとな。

2024/08/04(投稿)

しばし不定期更新となります(8月中)

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