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異空間からの脱出(第4話)

序章 滅びゆく四つの世界④

四人目の主人公 元魔法少女 藤堂春香 女 71歳

以上、しばらくは四名の視点で四話切り替えを基本に時々主人公達以外の視点を挟んで送って行く予定の作品となります(次の四話は別視点です)

一部の終わりあたりで合流予定

全体の構成は四部構成の各六章、全540話程度で終了予定(減らす予定無し。増える可能性有り)

主人公が全員老年ですが人外(元人間)と人外(龍王)は精神的に若いので勘弁してください

 其の世界は、人々の負の感情によって滅びを迎えようとしていた。



 古来より、人々を未知なる脅威から陰ながらに守る者達が居た。


 未知なる脅威とは、人知の及ばぬ超常の力を持つ異形の存在である。


 彼らの呼び名は様々で、妖怪や魔物と言ったように時代に合わせて変化してきた。


 そんな異形の存在から人々を守るのは同じく超常なる力を持つ異形の存在であり、彼らと契約を交わした者達だ。


 彼らが契約を交わす者の多くは年若い女性であり、彼女らは契約者と呼ばれ、超常の力を揮うことが可能となる。


 契約者となった彼女達の呼び名もまた時と共に移り変わり、現代においては魔法少女と呼ばれるようになっていた。


 彼女達をまとめ上げるのは最初期の契約者の一人が建ち上げた機関で、全ての魔法少女は機関への所属を義務付けられていた。


 一方で、機関に未所属の者達は、その奔放さ故に魔女と称された。


 魔女達は機関と明確に敵対はしていなかったものの、利害関係次第では敵対することがあった。


 ある時、魔女の一人が魔法少女と敵対した末に死亡してしまう。


 この件は事故として処理されたものの、不可解な点があったことから、機関と魔女達の敵対関係が明確化してしまう。


 以降、魔女達は機関に対抗して組織を立ち上げることとなり、関係はさらに悪化。


 時が経つほどに機関と組織の争いは泥沼化していくこととなる。



 かつて、黄金の世代と呼ばれた魔法少女達が居た。


 それぞれが名に四季の一つを冠し、多くの異形を退治し、組織の魔女達を退けてきた。


 彼女達の活躍により、異形による被害は大きく減ることとなった。


 また、組織の主力が欠けたことにより、膠着状態となり、長期に渡る冷戦状態になるかと思われた。


 ある時、組織が大掛かりな作戦を進行しているという情報を機関が掴み、魔法少女達を派遣する。


 ところがその作戦は罠であり、多くの魔法少女達が組織に囚われてしまう。


 機関は囚われた魔法少女達を取り戻そうとするも、組織の足取りを掴めずにいた。


 捜索が難航する中、機関の元に一人の魔女が投降してくる。


 彼女は自身の機関への収監を求め、それと引き換えに組織の情報を提供した。


 組織は以前より捕らえてきた魔法少女達の契約を強制解除し、組織に属する異形と再契約をさせていた。


 そうして組織の異形と再契約をさせられた者達は、その繋がりを通して機関の情報を奪われていた。


 これにより、これまで機関の情報が筒抜けとなっていたのだ。


 このことから、機関は組織に対応する為に現役を引退した魔法少女達へ現場復帰を呼びかけることとなった。


 そうして復帰したのは数々の功績をあげてきた魔法少女達であり、その中には黄金の世代の者達の姿もあった。



 機関と組織の抗争は復帰した魔法少女達の力によってあっさりと決着がついた。


 組織の裏で糸を引いていた異形達は残らず討滅され、敗れた魔女達の大半は力を失って投降した。


 囚われた魔法少女達は救出され、投降した魔女達は機関の元で管理されることとなった。


 一部の魔女達は逃げ遂せたが、機関は脅威ではないと判断を下し、見逃されることとなった。


 復帰した魔法少女達は再びそれぞれの日常へと戻っていき、現役の魔法少女達は目標を新たにし、訓練の日々を送って行く。


 それからしばらくは平穏な日々が続き、異形による被害の減少と共に精力的に活動する魔法少女も減っていった。


 これにより、機関の保有する戦力の低下を招くこととなり、それを憂いた黄金の世代の一人が苦言を呈すも、無碍にされてしまう。


 これをきっかけとして引退した魔法少女達と機関の間に不和が生まれ、更なる戦力の低下を招いた。


 以降、機関は守護者としての魔法少女から偶像としての魔法少女を管理、育成する機関へと変貌していく。



 平和な時代は長く続いた。


 否、続き過ぎた。


 魔法少女達から戦う力は失われ、異形達の脅威も取るに足らぬものとなった。


 雌伏の時は終わり、至福の時が訪れる。


 偶像を崇拝する時代は終わり、暴力が支配する時代が始まる。


 それを示すかのように、ある日突然、機関は壊滅的な被害を受けた。


 襲撃者は、たった一人の魔女であった。


 魔女達は以前、異形と手を組んだ際に彼らの力の源を探り、永い時をかけてそれを自らの物とした。


 その力は強大であり、力を得た魔女の大半が強すぎる力に振り回され、暴走していた。


 機関の魔法少女達に魔女と戦えるだけの力はなく、世界の各地が魔女によって蹂躙されていった。


 来るべき脅威に備えていた魔法少女達は、ほんの一握り。


 若き魔法少女達が奮戦する中、静かに立ち上がる者達が居た。


 脅威に備えていたのは、なにも若い者達だけではない。


 強大な力が衰えぬように、力を研ぎ澄ませてきた古き魔法少女達が、最後の戦いに挑むべく動き出した。




「じゃあ、行ってくるわね」


「うん、気を付けてね、おばあちゃん」


 人気のない早朝、まだ幼い曾孫に見送られて、私は家を出た。


 私達が住んでいる街にはまだ魔女の手は及んではいない。


 けれど、じっとしていても、この町が戦渦に巻き込まれるのは時間の問題。


 だったら、こちらから出向いた方が、ずっと良い。


 魔女達の狙いは、もうわかっている。


「強い魔力の持ち主を狙っているみたいね」


 となれば、話は早い。


 引退してから随分と経ったけれど、日々の研鑽は怠っていない。


「久しぶりだけど……こほん、変身」


 軽く咳払いをした後、呟くように言うと、瞬く間に身体が魔力によって作り替えられる、懐かしい感覚が来た。


 そして、体中に満ち溢れる魔力と全能感は心身共に若返った気持ちになる。


 とはいえ、今の身体は実際に若返っているし、この変身と言う術の仕組みが術者の全盛期の心身を写し取る物なので、気持ち的にも若返っていることに違いはない。


 ただし、記憶や経験はそのままである為、いい年した老婆がフリフリの魔法少女服を身にまとった気分になってしまうのは否めない。


「……まずは人気のないところへ行かないと」


 気恥ずかしさはあるけれど、それよりも周囲への被害が少ないところへ向かうことにする。


 地を蹴って飛び立ち、意識を鎮めて集中すると、変身した知覚によってこちらへ猛然と向かってくる魔女の気配を感じた。


 魔女を誘導するように人気のない方へと飛び、そのまま人の手が入っていない山奥へと向かう。


「そう、こっちよ」


 追ってくる魔女は一人。


 近づいてくるにつれて、懐かしい魔力の波動を感じた。


 かつて出会った時と同様に、力強くも悲しい魔力だった。


 ただ、その魔力の大きさはかつてないほどに膨れ上がり、今にも爆ぜてしまいそう。


 それでいて、目の前までやってきた彼女の気配は、恐ろしいほどに凪いでいた。


「……見つけたわ。やっぱり、貴女だったのね」


「ごきげんよう。お久しぶり、でいいのかしら?」


 昔見た時から、姿が変わらない。


 それは変身の術がある魔法少女である自分も同じなのだけれど、魔女達は変身の術を持たない。


 それに、彼女からは常人にはない、なにか異質なものを感じる。


 それも私達にとって、とても馴染みのある者達の気配が、彼女から感じられる。


「……そう。でも、私にとってはつい先日の出来事のように感じるわ」


「まさか、貴女……」


「ええ、私……いいえ、私達は人であることを辞めたの。本物の魔女になったのよ! あなた達に復讐するために!」


 そう言って、彼女は襲い掛かってきた。


 彼女がこうなってしまったのは、私のせいだ。


 あの時、彼女の姉が私を庇ってさえいなければ、きっと死ぬこともなかった。


 あの時、私があの場に居なければ、組織が不祥事を隠すような事態にはならなかった。


 でも、だからと言って――


「だからと言って、貴女に、あの時の彼女の行動を否定するようなことはさせられないの!」


 彼女は――未来視の魔女は、全てを承知の上で私を助けてくれたのだから!




 流石に、数十年ぶりの戦闘は骨が折れるわね。


 とはいえ、どうにかこの場を制することはできた。


 力を使い果たして倒れた彼女の元へ歩み寄る。


「もう、やめましょう。あなただって、本当は分かっているのでしょう?」


 未来視の魔女の妹である彼女ならば、姉の異能を知らぬはずはない。


 彼女の死が、決して無意味なものではないと、誰よりも分かっているはずなのだ。


「……私には、姉さんが全てだった。姉さんの居ない世界に、意味なんてないのよ……」


「そんなことはないわ。お姉さんは、最後まで貴女の事を……」


「もういい。もう、全部、どうでもいい……」


 倒れていた彼女の雰囲気が変わった。


 同時に、周囲に黒く、禍々しい魔力が滲み出るように溢れ出てきた。


 かつて、機関の異形に教えてもらったことがある、人々は感情を発露する際に力を放出すると。


 それは異形にとって生きる源であり、特に負の感情に偏る程に上質な力を発することが多いのだと言っていた。


 彼らはその力を魔力に変え、吸収するのだという。


 そうして変じた魔力が黒く、禍々しいほどに美味な味がするのだと。 


「これは……駄目よ! そんなことをしたら!」


「みんな、みんな……無くなっちゃえばいい」


 彼女――破滅の魔女の魔力が急激に増加している。


 このままでは、辺り一帯だけでは済まない。


 彼女の異能を考慮すると、最悪、世界が滅びかねない。


「これも、貴女の想定内だったのかしら……」


 あの時、未来視の魔女から託されたものを取り出す。


 それは、空間の魔女と呼ばれた子が作り出した魔道具。


 効果は、使用者と対象者を異空間に隔離すると言う物だ。


 昔は、魔女が魔法少女と戦うためによくこれを使っていた。


 そして、私が使おうとしているこれは、おそらく世界に一つしか存在しない特注品。


「それは……なんで、どうして貴女がそれをっ!」


「一人にはしないわ。一緒に行きましょうね」


 未来視の魔女がよく好んで使っていた妖精猫の紋章が描かれたそれを起動した。


 瞬く間に周囲の景色が切り替わり、私達は異空間へと閉じ込められた。


 同時に、あちらの世界と切り離されたことにより、先ほどまで周囲に満ちていた禍々しい魔力も霧散していった。


 もしかしたら残された魔力があちら側で何らかの影響をもたらすかもしれないけれど、そこはあちらに残った者達にどうにかしてもらうしかない。


「そんな……姉さん、どうして……」


 破滅の魔女は、完全に戦意を失った様子で立ち尽くしていた。


 これで一安心、といったところかしら?


 ところで、この空間から出る方法を私は知らない。


 何しろ魔女達によって秘匿されてきた技術の一つだし、託された以上は機関に提出するわけにもいかなかった。


 使い方は昔戦った魔女のやり方を真似て魔力を流し込んで見たら起動したので、間違いはないはず。


 問題は、どうやって解除するかがわからない、ということなのよね。


 昔使われた物は時間経過か力ずくで破ることができたけれど、これはどうにも強固な物らしい。


 そして、私の記憶が確かなら、これを解除する方法は外部からの干渉だけだったはず。


 詰み、とまでは言わないけれど、それなりに厄介な状況ではある。


 ひと先ずは、目の前でうなだれている彼女の説得からかしらね。



「さて、あちらのみんなが無事だといいのだけれど……」

再編予定。とりあえずここまでの四本は近いうちに直したい。

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