悪の組織、壊滅する(第3話)
序章 滅びゆく四つの世界③
三人目の主人公 悪鬼 百鬼燈牙 男 58歳
其の世界は、世界を手中に収めようとした者の足掻きによって滅びを迎えようとしていた。
ある所に、一人の男が居た。
男は極めて善良な人間で、人の本質は善であると信じていた。
男の手には富と権力と地位が揃っており、それらの全てを人助けの為に使用していた。
男の元には多くの人々が救いを求めて集い、男は全ての人々に手を差し伸べた。
ある時、男に助けられた者達は考えた。
男を始末して、男の富と権力と地位を自分達の物にしてしまおうと。
しかし、男を直接狙うのは困難であった為、男の家族が狙われることとなった。
男は妻子を救う為に全てを手放したが、男の元に戻ってきたのは、男の妻子であった物だった。
簒奪者達は嘆き悲しむ男の命すらも奪おうとしたが、男を取り逃がしてしまう。
その日より、男は復讐者となって全てを憎み、奪い、破壊する為に行動を開始する。
ある日を境に、とある秘密結社の噂が裏社会に流れ始めた。
また、同時期に多くの裏社会の組織が立て続けに壊滅し、不可思議な事件として処理されていった。
その動きは表社会にまで波及し、裏社会と繋がりのある権力者達が不可解な死に方をしているのが相次いで発見され
た。
この事態に警察が動くも、手掛かりは掴めないまま、次々と被害者が出てしまう。
事態が進むにつれて、関係のない民間人にまで被害が出たところで、実行犯による犯行声明が発せられた。
秘密結社の総帥を名乗る人物が全世界へと向けた声明によって、各国の政治経済に蔓延る腐敗が判明し、世界規模の暴動が発生してしまう。
勃発した暴動に乗じて秘密結社による民間人の誘拐が多発するも、それすらも国の責任だと糾弾されてしまう。
そうして連れ去られた民間人は秘密結社の研究者による人体実験を施され、身も心も異形の怪人へと変えられていた。
秘密結社はこれらの怪人を主力として表舞台へと姿を現し、力と恐怖による世界征服を大々的に宣言するのだった。
世界征服に乗り出す秘密結社であったが、世界各地に点在する研究所の一つがある日、突如壊滅する。
各地の研究所では強靭な怪人を生み出す為にありとあらゆる非道な実験が繰り返されてきたが、そのうちの一体が引き起こした事故だった。
その後、いくつかの研究所が襲撃を受け、数体の怪人が逃げ出すこととなり、これが後に大きな波乱をもたらすこととなる。
研究所を襲撃していたのは最初に研究所を壊滅させた怪人の実験体で、自意識を取り戻していた彼は家族を失った怒りから秘密結社と敵対していた。
しかし、秘密結社はその程度は些末事と判断し、世界征服を優先すべく、各国の主要機関の襲撃と破戒を目論む。
秘密結社にとって高々一人の怪人による損害程度は毛ほどの痛痒を感じさせることもなかったのだ。
それでも怒りに突き動かされるままに秘密結社の施設破壊を繰り返す彼の元へ、協力者を名乗る者が現れる。
協力者を名乗る者もまた秘密結社によって大切な者を失っており、復讐に協力すると申し出てきたのだ。
協力者から与えられた情報は秘密結社の襲撃予定の場所や時間を正確に当て、現場に駆けつけることができた彼は秘密結社の行動を妨害することに成功する。
これにより、秘密結社に対抗し得る存在として、彼は人々の期待と秘密結社の憎悪を一身に受けることとなっていく。
秘密結社の野望を挫くことを復讐の糧とする彼はその見た目と戦いぶりから悪鬼と呼ばれるようになり、敵味方を問わず恐れさせた。
また、秘密結社の支配下から逃れたのは悪鬼だけではなく、彼と同じように自意識を取り戻した怪人達も居た。
しかし、悪鬼のように立ち上がれる者は少なく、彼らの多くは自責の念に駆られるか、自らの状況を受け入れられずに自ら命を絶って行った。
中には怪人化したことを受け入れ、暴虐の限りを尽くす者も現れ始め、秘密結社の思惑とは反する者も出始めた。
そんな怪人達と、ある時には協力し、ある時には反目しあいながらも、悪鬼は秘密結社と戦い続けた。
本格的に彼を脅威と捉えた秘密結社は総帥が待ち構える本部の情報を敢えて流し、精鋭をもって悪鬼を迎え撃つことを決定する。
秘密結社本部の情報を得ると同時に単身、その場へと向かう悪鬼と、その後を追うように、あるいは惹かれるように集う者達が居た。
悪鬼に仲間と呼べる者はいなかったが、共に戦う者は居たのだ。
本部へ攻め込むと同時に総帥の元を目指して突き進む悪鬼の前に秘密結社の精鋭怪人達が立ちはだかる。
すぐに戦闘が始まるが、これまで怪人達を打ち倒してきた悪鬼の力は精鋭怪人達を上回る物だった。
更には悪鬼を追ってきた者達の横槍によって悪鬼を取り逃がしてしまう。
もはや悪鬼を止められる者はおらず、ついに総帥の元へと辿り着く。
そうして悪鬼の眼前に姿を現した総帥の姿は、悪鬼と同様の怪人の姿であった。
「よくぞここまでたどり着いたな。悪鬼よ。貴様にはさんざん煮え湯を飲まされてきたぞ」
初めて目にするはずの秘密結社の総帥に、既視感を覚える。
しかし、そんなことよりも、ようやくここまで来ることができた。
奴を引きずり出すために戦い続けて来た日々が報われた瞬間だった。
「お前が総帥か……俺の家族の仇は取らせてもらうぞ!」
あの日、目の前で惨殺された妻と子の泣き叫ぶ様は、あの時に感じた怒りは一度たりとも忘れたことはない。
「君の家族には悪い事をしたが、それもまた必要な犠牲だったのだよ」
「戯言をっ! お前だけはこの手で始末する!」
「それは不可能と言う物だ。どれ、冥途の土産に教えてやろう」
「何……?」
「この姿を見てもわからないかね? どこか、君に似ていると思わないか?」
既視感の正体、それは――
「……まさか」
「そうだ! 君のその姿は私の怪人因子を植え付けた物なのだよ! そして!」
「ぐわぁっ!」
「この私こそが、結社の最高戦力であり、最強の怪人なのだ!」
寄りによって、俺に植え付けられた怪人因子は、何よりも憎い総帥と同じものだった。
しかし、それがこの戦いの決め手になるとは、総帥も予想だにしていなかったのだろう。
総帥との戦闘は一方的な実力差で始まったが、同種とされる奴の力を受け続けた影響か、俺の力は急激に覚醒していった。
戦闘が長引くと共に奴との実力差は徐々に埋まり始め、ついには圧倒するまでに至り、ついに決着がついた。
「ま、まさか、この私が敗北するとは、な……」
「はぁっ、はぁっ……これ、で、終わり、だぁっ!」
「ぐふっ……こ、ここで、終われる、わけが……あるものかっ!」
「なにっ!?」
「フフ、ハハハ、ハハハハハハハハハ! これですべて終わりだ!」
「総帥! 貴様! 何をした!」
「もう、何をしても……遅い。次元の断層が、全てを……のみ、こ……む……」
「なっ! 力を暴走させたのかっ!」
息絶えた総帥の身体に走る亀裂が徐々に広がり、この空間を――いや、世界を揺るがすほどの力が漏れ出していた。
奴が持つ異次元と繋がり力を引き出す事ができる能力を最大限に暴走させた結果、その力はこの世界をも飲み込もうとしている。
それを止められる可能性があるのは、ただ一人しかいない。
「俺の家族に飽き足らず、この世界まで……貴様の思い通りにはさせんぞ!」
奴と同等の異次元と繋がる力を使って、奴が開いた穴を閉じれば良いだけの事だ。
幸いにも、力の使い方は奴のと戦いで完全に掌握した。
奴の様子を見る限り、あの出力を抑え込むには命を懸ける必要があるだろうが、構うことはない。
奴への復讐を終えた今、妻子の居ない世界に未練などない。
この力のせいで、多くの人達にも迷惑をかけてしまった。
ならばこそ、せめて最後に世界を救って恩返しをしよう。
俺は、自身の能力を全力以上に引き出し、崩壊を続ける次元の穴へと向かった。
「――、――。俺は天国に行けそうにないが、そこで見守っていてくれ!」
これも再編予定




