第一項 見知らぬ樹海(第21話)
第一部 新世界の産声編 一章 交差する世界 第四節 密林での生活
春香視点
基本はお婆ちゃんですが、魔法少女化によって精神年齢に多少の影響が出ます
破滅の魔女に協力を取り付けることができて、異空間から脱出できたのはいいのだけれど――
「あらあら、困ったわ」
出てきた先がどこかの森の中だとは思わなかった。
一緒に脱出したはずの彼女の姿も見当たらない。
異空間を経由したから座標がずれたのかしら? 無事だといいのだけど。
「それにしても、ここはどこかしら?」
随分と蒸し暑い。
それに、ただの森と言うわけではないみたいね。
辺りに生えている植物も見たことがない物ばかり。
「どこかの密林のようだけど……」
この暑さが場所による物なら、熱帯地域かしら? 或いは火山帯?
生憎と生い茂った木々によって視界が悪いから、火山帯かどうかはわからない。
ひと先ずは視界の開けた所へ出るのが先決かしらね。
そうと決まれば変身を――と言いたいところなのだけど。
「力を使い過ぎてしまったのよね」
異空間から脱出する為に、力の出し惜しみはできなかった。
結果、魔力切れで今は変身すらできない。
魔力は時間経過などで自然回復はするけれど、歳を取るとどうしても回復効率は落ちてしまう。
次に変身できるのは、おそらく一週間後かしら。
「となると、それまで休める環境が必要ね」
必要なのは、お水に食べ物、雨風を凌げる場所。これが最低限。
後は欲を言うなら睡眠をとりやすいように寝床を作りたいところね。
蔓草がたくさんあるようだし、ハンモックでも編んでみようかしら?
「最優先事項は留まる場所ね」
何かをするにも、安心して留まれる場所を見つけないと。
「ちょうどいいところがあって良かったわ」
過ごしやすい場所を求めて少しだけ移動すると綺麗な水場が見つかって、さらにその付近には人が余裕では入れるほどの大きな洞の空いた巨木があった。
水場の周囲や洞の中の様子から判断するに、定期的に人の手が入っている場所のようね。
近くに人の住む場所があることは分かったけれど、果たして運が良いのか悪いのか。
ここは言ってしまえば未開の地なのだし、そこに住まう人達に言葉が通じのるかが少し不安ね。
昔の仕事柄、世界主要圏の言語はいくつか習得しているけれど、通じなかったら翻訳魔法が必要かしら。
「これで大丈夫かしら?」
休めそうな場所が見つかったので、さっそく蔓草でハンモックを編んでみたのだけれど、悪くはない出来ね。
後はこれを洞の中に取り付け――られなかった。
ハンモックを吊るすには支柱とかが必要だったのをすっかり失念していたわ。
「……外に吊るしておきましょう」
そもそも、洞の中にハンモックは無理があった。
私ったら、少し浮かれているのかしら?
魔法少女化した後はしばらくの間、精神的にも若返ってしまうから困りものね。
そもそも、洞の中は寝転ぶことができる程度には広い空間が確保されているから、ハンモックは必要なかった。
しばらくの間はここを拠点として身体を休めつつ魔力の回復に努めないと。
できる事なら誰か――いえ、何かと遭遇する前に自衛できる程度の魔力を確保しないとならない。
「……それにしても、こんな環境なのに、ここには虫の一匹も見当たらないのね」
小動物の姿ならちらりと見かけはしたけれど、虫が居ないのは意外だ。
この辺りに人の手が入っているのが関係しているのかしら?
洞の内壁も何かを塗ってあるのか、独特な香りがする。
おそらくこの辺りに自生している草花の物なのだろうけれど、虫よけの効果でもあるのかしら?
毒性のある香りではなさそうだから大丈夫だとは思うけれど、念の為、解毒魔法の準備はしておいた方がいいかもしれないわね。
食べ物も探さないといけないし、どちらにせよ解毒魔法の準備は必要ね。
「アウトドアはともかく、サバイバル経験がないから大変ね……」
昔、機関に所属していた時の野外演習もテントや食材などは事前に準備して行っていたし、なんなら宿泊施設も用意されていた。
無事に戻ることが出来たら教導官をやっている娘に魔力欠乏状態で行うサバイバル訓練の提案でもしてみようかしら?
機関は軍と違うとはいっても、こうして実例があるのだし、やって損はないはずだわ。
組織との戦いもあって、機関も現在の活動方針に大幅な見直しが入るでしょうし、上手く組み込めそうね。
新しい時代のアイドルとしての魔法少女も素晴らしいと思うけど、古き時代の人助けをする魔法少女もやっぱり必要だと思うのよね。
「いっそのこと新しい部門を建ち上げさせるというのもありかしら?」
まあ、その辺りを考えるのは戻ってからにしましょう。
「なんにせよ、今は魔力の回復を待つしかないわね」
そろそろ怪しかった気がする
がんばれ過去の自分




