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第二項 残された時間(第18話)

第一部 新世界の産声編 一章 交差する世界 三節 雪が降る山脈

なんでR指定掛かるかもってのは燈牙だけ境遇がえぐいので中和剤としていれたんだっけ

あと変身ヒーロー=HERO=H EROって感じで天啓を得たのもある

「う、ぐっ……はっ!? はぁっ、はぁっ……?」


 悪夢で目が覚めた。


 結社によって怪人化させられ、妻と子を目の前で殺された時の記憶だった。


 怪人化によって正気を失っていた俺は、目の前で他の怪人に嬲り殺される妻子をただ見ているだけだった。


 助けを求める妻と子の声が、まだ頭の中で響いていた。


「……久しぶりに見たな」


 あの時、もう少し早く正気を取り戻していたのなら妻子を救えていたのかもしれない。


 あと少し、俺の心が強かったのなら、と。


 どれほど渇望したところで、あの時、あの場所には戻ることなどできはしない。


 もはや過ぎたことだと、納得できなかったからこそ、俺は復讐に走ったのだ。


「……ん?」


 ふと、視界の隅に何かがよぎった気がして洞穴の入り口の方を見ると、何かが置かれていた。


「これは何だ……?」


 近付いてみると、そこには一抱え程の物体が鎮座していた。


 初雪のような純白の布地に何かが包まれていた。


 洞穴から身を乗り出して辺りを見回すが、雪が吹雪いているため、特に何かが見えることはなかった。


「さて、どうしたらいいんだろうな?」


 改めて物体を見下ろす。


 明らかに人工物だし、触れてみると仄かに暖かい。


 そして、包みの中身からは香しい匂いが漂ってくる。


「まるで弁当みたいだな」


 そう呟くと同時に、腹が空腹を訴えた。


 そう言えば、最後に食事を取ったのは何時だっただろうか?


 死なない程度に食事は取ってはいたが、手料理なんかは妻の物を最後に一切口にしてこなかったな。


「……みっともなかったな」


 妻の手料理の味を忘れたくない一心での行動だったとはいえ、それで失礼なことをしてしまった人達がいる。


 感傷に浸りながら包みを開けると、中には漆塗りの白い重箱があり、蓋を開けると温かな料理が詰まっていた。


 見慣れない料理――正確には食材――だったが、匂いからはどこか懐かしさを感じる気がした。


 ご丁寧なことに箸まで包んである。


「食べても、いいんだよな……?」


 何者かは知らないが、ここまでお膳立てしてくれている以上は食べないわけにもいかない。


 人の親切を踏み躙るような真似は、もうしたくはない。


 箸を手に取り、煮物と思しき物を摘まんで口に運ぶ。


 ふわりと香る醤油のような匂い、素材の物と思われる仄かな甘みがそれを引き立てる塩味と相まって上品に仕上がっている。


 どこか懐かしさを感じる、優しい味わい。


 一口食べると、もう止まらなかった。


 夢中で掻き込むように重箱の中身を平らげていく。


「これも、これも、ああ、これもだ……」


 これはきっと夢だ。夢に違いない。


 或いは偶然か。はたまた奇跡か。


 誰かの置いて行った料理は、妻の手料理の味に、あまりにもよく似ていた。


 気が付けば料理を全て食べ終え、涙を流していた。


「ありがとう……ありがとう……」


 訳も分からず感謝の言葉が漏れる。


 どういうわけか、妻と子に、全てを許してもらえたような気がした。


 その安堵からか、或いは腹が満たされたからか、再び睡魔が襲ってくる。


 睡魔に任せて冷たい床に身を横たえると、ふわりと何かが身を包んだ。



 ――おやすみなさい。



 そうして意識が落ちる寸前、どこか懐かしい、誰かの声を聴いた気がした。




 目が覚めると、料理の入っていた重箱や包みはなくなり、代わりに毛布のようなものが身を包んでいた。


「……夢じゃ、なかったのか?」


 重箱を包んでいた布と似た色の毛布からは、自分以外の誰かの残り香がする。


 誰だかわからないが、この礼は必ずしなければならないな。


 洞穴の外に目をやると、いつの間にか吹雪はやんでいた。


「よし、行くか」


 俺に残された時間はそう長くはないだろうが、親切に報いる程度の時間はあるはずだ。


 それに、迷惑をかけてしまった者達にも謝罪をしたい。


 そう考えると奴への借りを返すのは本当に最後になってしまいそうだが、まあいいだろう。


 戦闘狂ではあるが、あれで意外と話が通じる相手だしな。


 まずはこの近辺にあると思われる誰かの住まう所を探すことから始めよう。


「……もう少しだけ、生きてみるか」

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