第一項 ひとまずビバーク(第17話)
第一部 新世界の産声編 一章 交差する世界 三節 雪が降る山脈
燈牙視点
この節がR指定に引っかかる恐れが……
直接描写はないので大丈夫なはず
総帥との死闘を制し、奴の最後の足掻きで開いた次元の穴をどうにか塞いだ所までは覚えている。
「……寒い。雪も降っている」
そうして気が付いた時には、雪が降る所で倒れ伏していた。
奴らの本部ではないことは間違いない。
それどころか、ここはどこかの山の中であるらしい。
怪人化によって鋭敏となった体内器官が、それなりの標高を感じ取っている。
それにしても寒いな。
そう思って身体を見下ろすと、身体の変異が解けているようだった。
「変異が解けている……力を使い過ぎたか」
肉体が怪人化しているとはいえ、変異していない状態だと多少動ける人間でしかない。
つまり、寒さや暑さへの耐性は人並みという事だ。
「……このまま凍死するのも、悪くはない、か」
結社は壊滅し、総帥も倒した。
妻と子の仇は取った。
もはや思い残すことはない。
これでようやく逝ける――
「――いや、一つだけあったか」
思い残すことはないが、借りが一つ残っていたな。
俺と同じ怪人であり、ただ強者との戦いだけを求め続けた漢が居た。
結社との戦いの際には奴に助けられた。
この借りは戦って返せ、的なことを言っていたはずだ。
「まだ、死ぬわけにはいかないな」
どちらにせよ、怪人化の影響で俺の寿命も残り少ない。
奴との戦いに間に合うかはわからないが、最後まで生き足掻いてみるか。
奴が死んでいる可能性も無いではないが、あれがそう簡単に死ぬタマではないのは、不本意ながら俺が誰よりも理解している。
こちらが探すまでもなく、惹かれ合うように、いずれ出逢うことになるだろう。
「ひとまずはビバークか。洞窟でもあるといいんだが」
「ふう、どうにかなったか」
あれから半刻ばかり雪の降る山間を彷徨い歩き、岩壁に洞穴を見つけて事なきを得た。
洞穴は程よく深く、以前に誰かが利用していたのか薪になりそうな薪や枝が隅に積んであった。
すぐさま火を起こし、暖を取る事にする。
復讐を決めてからはほとんどが野宿生活だったが、おかげで火起こしもすっかり慣れたものだ。
雪で濡れてしまった衣服も脱いで乾かさないとな。
服と言えば、通常は怪人化した者が変異すると衣服が破れたりするものだが、俺の場合は元となった存在が特異なのもあってか、衣服ごと変異する。
そして、変異が解けてしまえば衣服も元通りとなる。
個人的には助かっているが、これがあの総帥と同じ力による物だったと思うと怖気が走る。
「む、この服は……」
服を脱ぐまで忘れていたが、今まで着ていたのは服と言うよりは装備の類いと言うべき物だった。
結社に攻め込むにあたって人民軍と連携を取ったのだが、その際に貸与された戦闘服がこれだ。
戦闘服と言うだけあって動きやすく、破れにくい素材でできているという事だったが、総帥との戦闘の余波で所々破れてしまったらしい。
これが奴との戦闘で役に立ったのかは定かではないが、普通に着る分には高性能な衣服として役立つだろう。
ただ、破れてしまっているので何とも言えないところだ。
一応は貸与品なのだし、いずれ返却をした方がいいんだろうか?
そもそも、返却できるまでに俺は生きていられるのだろうか?
そのような益体のないことを考えつつも暖を取っていると、ようやく洞穴の中が温まってきた。
「温かい……」
ぼんやりと、揺らめく薪の火を見つめていると、次々と考えが浮かんでくる。
結社への復讐を考えている間は、寒いだの温かいだのと言ったことは考えもしなかったな。
あの頃は――それこそつい最近だが――激しい憎しみと怒りだけが俺を生かしていた。
そんな俺に対しても優しく接し、手を差し伸べてくれた者達が居たが、それらを振り払って、今の俺はここに居る。
一方で、俺と同じように怪人化しながらも、正義の為に結社と戦った者達も居た。
あの激戦の中で、彼らはどうなったのだろう。
総帥以外にも、結社には厄介な奴らが居たはずだが、残らず倒すことができただろうか?
総帥を倒した以上、結社は間違いなく壊滅したのだろうが、あのマッドサイエンティストを獲り逃がしたのは痛手だったな。
まあ、両腕は奪ってやったから、仮に生き延びたとしてもそう簡単に復帰することはないだろう。
あの様では飯を食うのも苦労するだろう。
いや、そもそも両腕をもぎ取られて生きていられるわけもないか。
ああいう奴は意外としぶとそうに見えて、意外とあっけなく死んだりするから、本部の崩壊に巻き込まれて死んでいるかもな。
それにしても、疲れた。それに、眠い、あと――
「……腹、減ったな……」
妻の手料理を、もう一度食べたかったな……。
文字数が増えてきてる
だんだん増えていったのは覚えてる




