大気圏突入、そして(第1話)
ここに章を記載していきます。
序章 滅びゆく四つの世界①
一人目の主人公 戦うメカニック アルバート=ダグラス 男 72歳
其の世界は、種族間の闘争によって滅びを迎えようとしていた。
事の始まりは、科学によって発展し、広大な銀河へと進出した人類にとって初となる異星生物との接触時の失敗であった。
人類が初めて遭遇した異なる星の生物は非常に高度な知的生命体であったものの、それは人の姿をしていなかった。
故に、他者との意思疎通の手段も異なり、接触を試みた者はそれにとって意思疎通の手段となる侵食を受け、死亡。
その光景を見ていた同行者が逆上し、それに攻撃を加えた結果、逃走されてしまう。
後日、それは仲間と思われる無数の個体を率いて母星を襲撃。
人類はこれに応戦するも、当時の兵器群はそれらの侵食を受けて取り込まれてしまう。
のみならず、それらは大地をも蝕み、地表の八割を瞬く間に占拠し、生き残った人類は宇宙へと追いやられた。
人類史が起こり、奇しくも3000年を迎えたその日から、人類と星系外来生物――異星物達との長きに渡る闘争の日々が始まった。
長きに渡る戦いは五年、十年と続いていく中で新たに介入してきた異星人によってもたらされた技術により、人類は『異星物』を退ける兵器を得る。
異星物への対抗手段を得たことで争いは激化して行き、ついに人類はわずかながらも奪われた大地を取り戻すことに成功する。
しかし、人類に技術を与えた異星人の目的はさらなる闘争であった。
異星人が人類に与えた技術は星系外に存在する知的生命体の連合によって禁忌とされていた技術であり、異星物達にとっては忌まわしき技術でもあった。
手痛い反撃を受けた異星物の一部は人類の星から逃れ、近隣の連合種族を頼る。
これにより、人類の星に禁忌とされる技術が蔓延しつつあることが連合に知れ渡り、危険な星であるとして制圧することが決定してしまう。
徐々に大地を取り戻し始めた人類だが、星の生物を取り込んでいた異星物はその情報をもとに身を変異させることにより、人類側に対抗。
変異した異星物にはこれまで通用していた兵器の効果が乏しく、人類は再び窮地に陥る。
しかし、異星物は変異したことにより驚異的な生命力や侵食能力を失い、通常兵器が通用するようになったことが判明する。
俄かに勢い付く人類達であったが、その頃、被害の少なかった宇宙側には新たな異星物が飛来し、当時最大の居住地を襲撃し、多くの民間人が命を落とした。
常駐戦力にて辛うじて異星物を追い返す事に成功する人類側だったが、製造中の新兵器が破壊されてしまう。
新たな異星物対策として異星人によって更なる技術が提供されるが、それは搭乗者を廃人にしかねない兵器に関する物であった。
そうして新たな兵器の力によって多くの犠牲を出しながらも異星物に対抗し続ける人類に対し、異星物は未知なる恐怖を抱き始め、異星人もまた畏怖の念を覚えていた。
母なる星を、故郷を取り戻したいだけの人類の行動を異なる処から来た双方には理解できていなかった。
熾烈な争いが続く最中、最初に人類と接触した異星物は人類に対する理解を深めるために新たな変異個体を生み出す。
人類と同じ姿と機能を持ったそれを星へと降ろし、人類に保護させることで、それの目を通して人類を理解しようとし始めたのである。
一方で異星人は一部の人類が持つ不可思議な力に目を付けると共に、自らの星に連絡を付けて人類を手中に収めようと動き出す。
身を顧みず戦い続ける人類は、かの異星人にとってこれ以上にない実験対象であると捉えていた。
人類もまた、異星物と争う内に異星人から得た技術を基に新たな兵器を生み出すなどして独自の発展を遂げて行く。
しかしながら、そうして得た強大な力は一部の人を狂わせるには十分過ぎるものであった。
様々な思惑が交錯し、一つの星から始まった争いの戦火はやがて銀河の外までも飛び火して行く。
その果てに待つものが世界の破滅であるとは露程も知らず、争いは最終局面へと向けて突き進んでいく。
人類史上初の星系外来生物との接触から47年。
同日より始まった異生物共の戦争は遂に終わりを迎えようとしていた。
長年かけて開発してきた兵器の導入により、地上の化け物共を宇宙へ追いやり、宇宙居住地の化け物も始末することに成功した。
ところが奴らは最後の悪足搔きとばかりに集結し始め、しつこく侵攻してきていた方の異星人共の母艦を乗っ取るとそのまま同化を始めた。
異星人共にとってはとんだ災難だっただろうが、こちらにとっては敵がひとまとめになるってんで大助かりだった。
しかも、その母艦ってのが衛星かってくらいにでかいもんだから奴らが同化しきる前に仕留めるべきだとこちらに協力的な方の異星人が進言。
お偉いさん方も静観すべきではないと判断し、全ての動ける戦隊に出動命令が下った。要は総力戦だな。
俺としても嫌な予感がしていたから大賛成だった。
とはいえ、相手のでかさは衛星級ともなれば主力だけでは当然足りず、旧式艦や機体まで引っ張り出しての大作戦になった。
元現役とはいえ、歳を食った今では整備と実験機の試験運用を担当する俺にまでお鉢が回ってきたんだから相当だ。
まあ、息子や孫共まで出張ってる状況で俺だけが後方でじっとしてるってのも癪だ。
あの化け物共には借りがあることだし、因縁の相手とも決着をつけねぇとな。
ってなわけで昔の愛機を引っ張り出してきて、どうにか使えるように改造を施してから出撃することになった。
さすがに最前線で戦うわけでもない奴に最新気鋭の機体が渡るわけもないし、そもそも数が足りねぇからな。
今や動く骨董品と呼ばれているほどの相棒だって持って行かれそうなところをどうにかもぎ取ったくらいだしな。
「しっかし、壮観だねぇ」
旧式の戦艦に搭載された愛機と共に大気圏を脱し、いざ出撃してみると、数千は優に超える新旧入り混じった戦闘機体と数百の艦隊が見渡す限りに広がっている。
数だけどうにか揃えたような状況とはいえ、人類の全戦力が集結した結果だ。後にも先にも見ることが叶わないであろう光景だった。
そして、こちらに呼応するかの如く、遥か前方に見える異星人共の母艦から、無数の――確実に化け物の侵食を受けているであろう機体が飛び出してくる。
同時に、旗艦からの全体通信が入る。
『全機に告ぐ! これより人類の存亡をかけた戦いとなる! 我らの後には守るべき者達が居る! 奴らを一匹たりとも後ろへ通すなぁっ!』
外は間違いなく真空だが、各自の応じる声が聞こえた気がした。
無理もない。何せ、ここで俺達が負けたら後がない。
まさに負けられない戦いってわけだ。
もっとも――
「負ける気はねぇけどな!」
いい加減、決着をつけなきゃならねぇ相手も居る。
宇宙に来てから奴に奪われたはずの四肢が妙に疼く。間違いなく戦場のどこかに居るな。
ま、雑魚共を散らしながら探すとするか。
相棒は骨董品だが、武器の方はそこそこ良いのをもらえたからな。
与えられたのは光熱充電式の電磁加速砲。フル充電で弾も充分。
こんな物がそこそこ良い性能の物だってんだから時代も変わったもんだ。
技術を与えてきた異星人はクソ野郎だったが、それがあったからこそ戦えている事実がある。
だからこそ、あのクソ野郎は今も監禁程度で済んでいる。
正直、殺してやりたい程度には憎いが、それは奴との決着後だな。
さぁて、元狙撃手の腕前を若ぇ奴らに魅せてやるかね。
そうして試しに撃った一発目の弾丸は友軍機を掠め、化け物を数匹まとめて撃ち抜いた。
「――あっぶねぇ。威力も貫通力も高過ぎだろおい」
初撃こそは危うかったが、その後は少しずつ修正を入れながら射撃を続けてきた――が、敵が一向に減る気がしない。
いや、それでも戦闘が始まった直後の乱戦ほどではねぇな。少しずつは減っているってことか?
まあいい、弾はまだあるし、このまま狙撃を続けていくか。こうも数が多いと目当ての相手も見つかりやしねぇ。
そう考えて狙撃に戻ろうとしたところで、個別通信が入った。
『親父! 生きてるか!』
なんだ。うちの息子じゃねぇか。
「おう、生きてんぞ。そっちは最前線だろうが。無駄話なんてしている場合か?」
『それが、こっちは静かなもんでな。そっちはどうなってる?』
「ああ? そっちは中に突入してんだろうが? 静かってのはどういうこった?」
『こっちが聞きてぇくらいだよ。おかげで敵艦の中枢まで辿り着くのも時間の問題だ』
「こっちは少しずつ敵の数が減ってきてはいるな」
『親父の事だから例の化け物を探してるもんかと思ったぞ』
「人類の未来がかかった戦闘でそんなことするかよ。まあ、見つけ次第ぶち抜いてやるがな」
『そうか。じゃ、こっちはそろそろ終点だ。死ぬなよ』
それだけ言うと、通信は切れた。
「そりゃこっちのセリフだっての」
言いたいことだけ言って切りやがって。後で文句を言ってやらねぇと。
昔っからせっかちな所が変わりやしねぇ。一体誰に似たんだか。
「ん? ようやく打ち止めか?」
息子との通信が終わった辺りから敵の動きが変わり、急速に数が減り始めた。
小型の化け物は羽虫が巣に逃げ戻るかのように母艦へと殺到し、残った中型と大型の化け物共が前線へと出てくる。
あの様子だと中の方は少々面倒なことになってそうだが……まあ、あの部隊なら大丈夫だろう。
小型の化け物が引いた事でこちら側も陣形の組みなおしだな。
深追いしすぎたのか、こちら側の突出していた機体が中型に幾らか落とされているが、大半は無事に戻れたようだ。
大型の方は――動かないな。化け物が融合していることもあり、どこか生物的な見た目がなんとも不気味だ。
一方で中型は前進してくるので、このまま迎撃に移るらしく、各艦が砲撃を開始する。
引いてきた前衛機は損耗度合いに応じて艦に収納され、それと交代で控えの機体が射出されている。
控えの大半は使わなくなった試作機や乱戦では運用の難しい特殊機体だから、この時点での投入は悪くない。
このまま何事もなく押し切れるといいんだが、奴らのしぶとさは十分過ぎるほどに知っている。
まだ確認できていない奴の事も気がかりだし、最後まで油断せずに行くか。
「さて、もうひと働き――あ?」
居た。中型に交じって、小型の化け物を一回りほど大きくしたようなあの姿は、間違いない。
こちらが視認すると同時、奴もこちらを察知したらしく、とっさに撃った弾は奴を掠めるに留まった。
「――ちっ! あの野郎。今日こそ仕留めてやるからなぁっ!」
いい加減、てめぇとの因縁は絶たせてもらうぞ!
「――ははっ、俺の勝ちだ。くそったれが……」
ついに奴との決着がついた。
最後の切り札が通用しなかったら、死んでいたのはこっちだった。
相棒は奴との戦闘に加えて切り札を使用した反動でボロボロだ。
無事に帰ることが出来たら直してやりたいところだが……
「まあ、無理だよなぁ……」
計器がさっきから大気圏に近づきすぎだと警報を鳴らしている。
そして、相棒の推進器は先ほどの戦闘でもう使い物にならない。
んでもって、たった今、大気圏に突入したらしい。
「こいつぁ、詰み、だな」
どうにか相棒を動かす事だけは可能だが、姿勢をどうこうしたところで大気圏で焼き尽くされるか、仮に抜けたとしても地面、良くて海面でも衝撃でばらばらだ。
せめて盾になる物でもあれば多少は望みがあるんだが――
「――あるじゃねぇか。ちょうど良い盾がよぉ!」
奴が取り付いていた異星人共の機体。あれは単独での大気圏突入が可能だ。
さっきの戦闘で綺麗にぶち抜いてやったから原型は残っている。
あれを盾替わりにして大気圏を抜けて、どうにか衝撃を殺すことが出来たら生き残る目はある。
あの機体は飛行に特化した形だから、上手いこと形が残れば減速もできるか……?
「ちっ、やるしかねぇかっ!」
こうなったら何が何でも生き残ってやる!
再編予定。もう少し書き込みたい。