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魔道具店夢乃屋  作者: 青崎衣里
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第32話 新世界より⑤


 そして翌日。

 約束通り、村人A氏(ハンスさんという名前らしい)が櫛の搬入にやってきた。


「シオンさんに言われて持ってきたのですが、本当によろしいのでしょうか?」

「ええ。その代わり、いつ、どのくらい売れるかは保証できませんよ。お客様次第ですから」

「もちろん構いません。また近いうちにようすを見に伺いますので」

「そうしてください。それから……これを一度試してみてくださいませんか?」


 わたしは今朝出来上がったばかりの試作品を取り出し、ハンスさんに手渡した。

 ちょうど手のひらに収まる球状の物体を。


「……ボールですか?」

 はい、まさに硬式野球のボールくらいのサイズですが。

「魔道具です。昨夜思いついて、急遽作製してみました」


「はぁ。いったいどういう使い道が……?」

「例の電気ネズミに向かって投げてください。当たらなくても、近くまで届いていれば相手が発する魔力に引かれて的のところまで飛んでいきます。そして的に当たると、このボールが割れて、中から網状の罠が飛び出す仕掛けになっています。猪サイズなら一瞬で覆って捕獲できます」


「いや、しかし、電撃が」

「大丈夫。網はもちろん、ボール自体も電撃魔法の影響を受けません。耐電撃魔法に特化した商品です。網の中に捕らえてしまえば、魔物は電撃を外に放つことはできません」


「お、おおおおっ!」

 ハンスさんの表情がパッと輝いた。


「素晴らしい! これで村が……いえ、国中の農民が助かります!」

「一度実際に試していただいて効果が確認できましたら、またお越しください。必要な数だけご注文を承ります」

「はい、そうさせていただきます。本当にありがとう!」


 ハンスさんは大喜びで村に戻っていった。

 わたし特性の電撃モンスターボールを持って。





「しかし、よく思いついたね、あんなの」

 クロに感心されて、わたしはわずかに胸を反らした。

「昨日シオンがわたしにつかみかかったでしょ。そのとき口にした名前は子供のころ見たアニメに出てきたやつなの。だからそれを参考にしたのよ」


 店主として、せめて彼らの役に立ちたい。

「わたしができるのは、それぐらいだから…………ん? あれ!?」


 今、唐突に思いついたけど。

「あのさ、例えばシオンさんが店内にいるときでも、わたしが店のドアを開けたらこっちの世界につながるのかな?」

「……そうだね」


「じゃあ、そのタイミングでわたしと一緒にシオンさんが外に出たら?」

「出られるかもね」

 ってことは一時的にでも戻れるじゃん、元の世界に!と思ったんだけど。

「まぁ、どんな代償を求められるか分からないけど」

「あー……やっぱ、そうなるのか」


「試した奴はいないからボクもはっきりとは断言できない。でも世界を跨いで移動するのはそんなに簡単なことじゃないんだ。魂にかかる負荷も莫大なものだし。特別な修業を積んだ最高位の神官でもない限り、耐えられない技だよ」


(ん? 最高位の神官? それ、どこかで聞いたことがあるような)

「あ、あの笛を買っていった人みたいな?」

 頷きが返ってきて納得した。

 以前この店を訪れ、人や魔物を自在に操る不思議な笛を購入していった神官のお客さんは、朝から店のドアの前に立って開店を待っていた。あのときは特に疑問に思わなかったけれど、きっと何か特別な技でこちらの世界へと渡ってきて、いち早く笛を手に入れようとしていたのだろう。他の誰かに、例えば元の持ち主などに買われてしまう前に。

(未来を見通せる眼があるって言ってたしなぁ)


 でもシオンにはできないんだ。たとえ勇者でも。


「じゃあやっぱり彼にしてあげられることは何もないね」

「この捕獲ボールと櫛の委託販売だけでも充分だと思うけど」

「そうかな?」

「そうだよ」


 それにね、とクロが付け足した。

「今後、彼が魔王を完全に討伐したとしても、それまでにあのお守りを手放していたら。元の世界への執着を完全に捨てて、今の世界だけで満たされていたとしたら――――そのまま残れるかもしれないよ。保証はないけど」

 それはちょっと希望に満ちた未来予想図だ。

「本当に、そうなるといいね」



 勇者の呼び名にふさわしい彼の努力と勇気に満ちた日々が、いつか正しく報われますように。そう祈りつつ、わたしは在庫の整理を始めた。




読んでくださってありがとうございます。

次のお話もぜひまたよろしくお願いいたします。

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