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魔道具店夢乃屋  作者: 青崎衣里
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第27話 合わせ鏡⑤


 その日の夜――――

「そういえばさ、もともと合わせ鏡って不吉なものだと思ってる人も結構いるみたいだね」

 客の引いた時間を狙って二階に上がり、作り置きのカレーを温めたわたしは、食べながらクロに話しかけた。


 大学のとき、持っていた友人に不吉だから使うのを止めなよと忠告していた子がいたことをふと思い出したのだ。当時のわたしはそういったことにあまり関心がなかったので、ずいぶん信心深いんだなぁと驚いた記憶がある。


「長く映っていると運気を吸い取られるとか、気の流れを歪ませるとか、そういうオカルト的なイメージがあるって言ってた子がいたんだよね、学生の頃」

 平安時代じゃあるまいしって、正直少し呆れていた。


「海外だと、悪魔との通信手段だって信じてる人もいるんだって。ホラー映画のネタにしてもちょっと古いと思うんだけど」

「確かに映画のネタとしてはどうかと思うね。実際そういう魔道具もあるけど」

「あるんかい」


 さらっと流されたクロのセリフに全力で突っ込んだけど、そういえばここはそういう品を扱う店だったわ。


「意外? 今は在庫にないけど売ったことあるよ。強い呪物だって店に置いてるでしょ」

「……ですね」


 なにせ、お得意様に魔王軍の将軍がいるぐらいだもん。そりゃ悪魔と繋がる通信機器を売っててもおかしくないか。カレーライスを食べる猫も目の前にいることだし。


 しかし、ということは、だ。

「やっぱり合わせ鏡って不吉なの?」


「古くから呪術に用いられてきた道具だからね。それなりに効果はあるよ。でもまぁ、ただの鏡ならさほど気に病む必要はないでしょ。普通は、ね」

 例外はどこにでもあるってことか。


「ハサミも鏡も道具は道具。結局は使う人と、その使い方次第じゃない?」

「だよねぇ」


 理想と現実の乖離を認め、己を受容するというのは言葉にすると至極簡単そうだけれど、意外と上手くできない人間も多い。


 実を言うと、昔わたしはコーデリアという名のあの姉にもっと近いタイプの人間だった。

 何かにつけて行動を起こすときには「やりたい」よりも「やらなきゃ」が中心にくるタチで、基本的に白黒きちんとしていないと気が済まなかったりしたから、完璧主義だねなんてよく言われた。


 いろいろあって人生そんなに杓子定規にはいかないものだと学んだり、寛容さも必要だと知る機会を得たり。少しずつ少しずつ変わってきて、今がある。


(まぁ今だって人生を謳歌しているとは言い難いし。無趣味で彼氏なしの、ほぼ引きこもり状態だし。こんな自分でいいのかって考えて落ち込むことだってあるけど……こういう人生も悪くないかもって思えるようになったんだから、それで充分かな)


 だから彼女もこれからちょっとずつでも右側の、ありのままの自分を受け入れることができるようになるといいなぁと思うのだ。理想とは程遠くても。

 そうすればきっと、少しは呼吸するのも楽になるはずだから。




「あの鏡、もう一度店に出してもいいの」

「構わないよ」

「売れると思う?」

「さぁ、どうかな」

「相性いい人に買ってもらえるといいねぇ」

 わたしの言葉にクロが小さく頷いた。




 あの姉妹は今頃どう過ごしているだろう。

 妹はほっと安堵しているだろうか。

 姉は不安に駆られて泣いていないだろうか。

(きっと元気になるにはしばらくかかるよね)


 それでも、いずれまた二人で店に来てくれるといいなと密かに願いながら、わたしはカレー皿を片付けるために立ち上がった。





読んでくださってありがとうございます。

次のお話もぜひまたよろしくお願いいたします。

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