第23話 合わせ鏡①
ここは魔道具専門店、夢乃屋。
店主となった雫川琴音が言葉が話せる不思議な黒猫と共に、
さまざまな世界からのお客様をお迎えいたします。
世に不吉と謳われる合わせ鏡。
しかし映し出すのは怪異ばかりではございません。
その日は朝からどんよりした空模様で、午後には雨予報も出ていたので洗濯ができなかった。室内干しでも一応は乾くけれど、やっぱりできればお日様で乾かしたいから。
「本当はシーツを洗いたかったんだけどなぁ」
曇天を睨んだところで仕方がない。
洗濯は明日に回そう。
「今日は特に出かける予定もないし……このあとどうしよう」
琴音は洗い終わった朝食の皿を片付けながら唸った。
すると、お気に入りのクッションでゆるりとくつろいでいたクロが「買い物は?」と訊いてきた。
「昨日行ったばっかりだもん。毎日は必要ないよ」
夢乃屋の営業時間は昼12時から夜9時まで。
物品販売店舗のわりに、やや夜型のシフトだ。
そのため平日は、夜よりも午前中の方が自由時間を確保できる。ただし正午の開店に間に合うように昼食を済ませようと思うと、11時頃には戻ってこなくちゃいけないから、あまり遠出はできない。なので普段は朝食を済ませると、軽く掃除や片付けをしてから洗濯をするか、買い物に出かけるかのどちらかだ。
それでも時間が余ったら、作り置きのおかずを用意したり、お菓子を焼いたりしているうちに昼食の時間が来てしまう。
(なんか引きこもりっぽいというか、お年寄りの生活みたい。店に出るっていっても自宅兼店舗だし。顔を合わせてる相手は『人』じゃなかったりするし)
とはいえ、この仕事は嫌いじゃない。
おっかないことも多々あるけれど、結構面白いと思っている。いろんな意味で。
(まぁ、現実とファンタジー世界を行ったり来たりしてるようなものだもんね)
ただ、それとは別に、貴重な午前中の自由時間を持て余すことなくどうやって過ごすか。それが夢乃屋の店主になってからのわたしの課題のひとつだ。
テレビや配信メディアを見ながらだらだらしていたら3時間なんて、あっという間に過ぎるだろうけど、さすがにそれはもったいなさすぎる。曲がりなりにも妙齢の女性の範疇に属するというのに、出会いどころか、生活に一片の華やぎも潤いもないのは如何なものだろうか。
もっとも、会社員時代にそれがあったかと問われれば、苦笑するしかないんだけど。
…………侘びしい話だ。
「どうしたもんですかねぇ」
せめて趣味のひとつもあれば、と思う。
結局その日は混ぜて焼くだけの簡単マドレーヌをこしらえながら、生地を寝かせたりオーブンを温める隙間時間に掃除をしただけで、他にやることもなくなってしまったので、早めにお昼を済ませて一階に降りた。
読んでくださってありがとうございます。
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