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魔道具店夢乃屋  作者: 青崎衣里
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第16話 言霊の壺・後編②


「今回みたいなことは初めて? 前にもやらされたことある?」

「…………駅前の……本屋さんとか、コンビニで」

「そう」


 捕まっていなくともおそらく目は付けられているだろうから、回数を重ねればいずれは補導されることになるだろう。強要されたと訴えても、直接手を出していない他の連中は知らぬ存ぜぬでシラを切り通して終わりだ。


「誰かに相談しても無駄だった?」

「玲菜も莉生も成績いいから」

「……あー」

 リオってのはショートボブの子かな。


 進学校だしね。成績だけでしか生徒のこと見ない先生もいるよね。そもそもいじめを訴え出た生徒にきちんと対応してくれるクラス担任って、いったいどれくらいいるんだろう。大人の社会でさえ、いまどきセクハラパワハラ厳禁ですよと口では唱えて、わざわざ研修までするくせに、実例は山ほどある。


『気にしすぎじゃない? 本人も笑ってたじゃん』

『あの程度、単なるコミュニケーションでしょ』

『自意識過剰だな。くだらないことで空気乱すなよ』


 周囲の心無い追従のせいで、いじめやセクハラ、パワハラはいつまで経ってもなくならない。苦しい思いをするのも損するのもターゲットにされた被害者だけ。


「親御さんは?」

「うち、父親しかいなくて……」

「そっか」


 仕事で忙しい働き盛りの父親が、娘からのささやかなサインに気づくのは難しいかもしれない。仮に相談したとしても、説教されて終わるパターンだってある。言いなりになって万引きするなんて情けない、恥ずかしいことをするなと叱られてしまったら、もう二度と誰にも助けを求められなくなってしまう。


(……厄介だねぇ)

 私は思わず天を仰ぎ、深々とため息をついた。


 自分の周りを囲んでいる圧力という壁がじわじわと押し迫ってきて、身動きが取れず、息苦しさが増していく日々の中で――――もしも誰かが、ちっぽけな小石ほどでいいから何か一言でも投げかけてくれたら、この状況が変わるんじゃないか。そんな淡い期待すらだんだんと削り取られていく絶望を、私は知っている。


(どこにも味方がいない。何よりそれが一番苦しい)


 まぁ、だからと言って、家族でも友人でもない一介の魔道具店主ができることなんて、たかが知れてるんですけど。


「えーと、レナちゃんって子……」

「新堂玲菜です」

「うん、その子のこと、もう少し詳しく教えてくれる?」


「……小学校の頃までは結構仲がよかったんです」

「幼馴染みなの?」

「はい。ずっと同じ学校でした」

「じゃあ今みたいな関係になったのは最近?」

「中学では同じクラスになったことなくて。久しぶりに会ったら、いつの間にか雰囲気が変わってました」

「ふーん……」

 思春期につまづくのは、ままあることだ。


「彼女のおうちはどんな感じかな。ご家族がどんなお仕事をしてるか知ってる?」

「お父さんは財務省の偉い人で、お母さんも外国の大学を出て外資系の会社に勤めてたって聞きました。だから二人とも勉強のこととか、すごく厳しいみたいで。お母さんには何度か会ったことあるけど、ちょっと怖い感じでした。お兄さんは今、京都の大学に通ってるらしいです」


「絵に描いたようなエリート一家だね」

 そりゃあストレスも半端ないか。


「じゃあ最後に、彼女の家の場所も教えてもらえないかな」

「え……でも」

「壺を返してもらえるように、私たちから直接お願いしてみる。もちろんご家族にはナイショにするよ。他の誰にも言わない。約束する」


 学校やPTAにお知らせするとチクったのなんだのと逆恨みされて、もっとひどい事態になりかねないし、親に知られるだけでもストレス爆上がりで結ちゃんへの八つ当たりはさらにエスカレートするだろう。そもそも当店の商品は世間様にあまり大々的にお披露目できる代物じゃないんだよね。


 結ちゃんが持っていたドールは対象者の髪や爪を埋め込むことで、見た目が対象者そっくりになるという、いささか気味の悪い品だ。そのせいか憎悪も愛情も執着も注ぎやすく、未熟な術者でも扱いやすいので、影響力はさほど強くないにも関わらず人気が高い一品らしい。想像しただけで、まぁまぁ気持ちが悪い。


 学校でいじめられている彼女が、もしもこれの使い方を知ってしまったら、どんな事態になるか推して知るべしだ。


 新堂玲菜とい子が持ち去った言霊の壺はさらに厄介で、文字通り注ぎ込んだ言の葉を吸い込み、願いの強さや恨みの大きさに比例して叶えてしまう品らしい。もちろんその規模には限度があるし、リスクもある。願う者の命が削られるのだという。


 だから、なんとしても早いうちに取り返さなくちゃならない。


「……本当ですか? 玲菜が素直に返すとは思えないんだけど」

 不安そうな結ちゃんにクロが力強く答えた。


「大丈夫、ちゃんとこっちで手を打つから。信用して」


 頼もしいね。

 では、お手並み拝見といきますか。



 ――――言霊の壺、奪還作戦だ。




読んでくださってありがとうございます。

続きも何卒よろしくお願いいたします。

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