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魔道具店夢乃屋  作者: 青崎衣里
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第15話 言霊の壺・後編①

ここは魔道具専門店――――

魔道具店夢乃屋の店主となった雫川琴音が、言葉が話せる不思議な黒猫と共に、

さまざまな世界からのお客様をお迎えいたします。


しかし時折、ごく普通の現代社会から何も知らずにこの店を訪れてしまう人も。

「魔」に魅せられ品物を奪った客から、商品を取り戻すことはできるのでしょうか。



「あ、目が覚めた? 気分はどう?」

 ソファの上でゆっくりと身を起こした少女に、向かいの席から私は声をかけた。


「…………」

 彼女はまだ半分夢の中にいるみたいで、ぼんやりと部屋の壁や天井を眺めている。二階は私の住居スペースだから、いきなり見ず知らずの他人の家で目覚めたら、そりゃ不思議な気分だよね。


「ちょうど今、お茶を淹れ直しているところなの。よかったら一緒にどうぞ。クッキーもあるよ」


「あ、あの……?」

「それから、これは返してもらうね」


 戸惑う彼女に、私はテーブルの上を指し示した。紅茶のポットとお揃いの花柄のティーカップ、シュガーポット、ミルクピッチャー。そしてアーモンドクッキーが載ったお皿が並んでいる横に、ちょこんと座らされているドールを。


「……ぁ」

 途端に夢から醒めたようで、一瞬で青ざめ、表情を強張らせたあと、彼女はぎくしゃくとソファから立ち上がって頭を下げた。

「す、すみません……でした」


 万引をして止められたことを思い出せば、当然そのあとの出来事も脳裏に甦ってくる。たちまち全身を縮ませて周囲を警戒しだした彼女に、私はなるべく自然を装った軽い調子で言葉を紡いだ。


「もともと警察を呼ぶつもりはなかったから店を出る前に声をかけたんだけど、一人だけ取り残されて相当ショックだったんだね。突然店内で倒れちゃったから心配したわ」

「……え!?」


「覚えてない?」

「は、はい……だって、あの…………」


 突然ドアが勝手に閉じたり開いたりした挙句、その向こうにバケモノが出てきたんで気を失いましたとは主張しづらいよねぇ。


「そのあと何か悪い夢でも見てるみたいにうなされてたから、よっぽど心身に疲労が溜まってるのかなって思ったんだけど」


「…………夢?」

「うん」

「……………………あれは、夢?」


 そう、夢です。あなたは悪い夢を見たのです。

 そういうことにしておきましょう。


「…………はぁ」

 たぶん頭では納得いっていないんだろうけど、なんとなく自分のためにもここは吞み込んでおいた方がいいと察したようで、曖昧に頷いている。


 ちょうどそこにタイミングよく、クロが淹れたての紅茶を運んできた。

「はい、どうぞ。召し上がれ」


 リボンタイの白シャツに黒のパンツとベスト。まるで少女漫画に出てくるキャラのような出で立ちでお茶を給仕をしてくれる少年(いや、青年?)が、まさか猫だとは思うまい。


「あ、ありがとう……ございます」

 まだ相当緊張している様子だけど、それでも彼女はクロを見てわずかに頬を染め、ペコリと頭を下げた。よしよし、イケメン効果は絶大だね。


 ちなみにクロは彼女を二階に運んだあと、また猫に戻ろうとしたんだけど、彼女の前で話せなくなるから、もうしばらく人の姿のままでいてくれと私が頼んだのだ。


「今日はカモミールティーにしてみたの。嫌いじゃないといいんだけど」

 ハーブのやさしい香りがテーブルの周りを包んでいる。


「あ、砂糖とミルクはご自由にどうぞ」

 そう勧めながらも私自身はストレートティーのまま口をつけると、彼女も倣うようにカップを手にして、おずおずと飲み始めた。


「……おいしい、です」

「よかった」


 なんと、うちの猫は紅茶まで美味しく淹れられるのです。凄いね。

(ありがたや)


 温かいお茶で喉を潤しながら、ほくほくとクッキーの皿にも手を伸ばす。

「ん~っ、やっぱりこのアーモンドクッキー美味しい!」


 すると、すかさずクロから横やりが入った。

「ちょっと食べ過ぎじゃない、琴音」

「そんなことないよ。まだ三枚目だし」

「嘘ばっかり。もう五枚ぐらい食べてるでしょ」

「バレたか。だってこれホントに美味しいんだもん。仕方ないよね」

「まぁ、ボクも好きだけど」


 この店に来るまでは普通の猫を装っていたくせに、ここに来てからというものクロは普段からチョコレートもアーモンドも平気で食べている。というより猫用カリカリなど目もくれず、人間の私とまったく同じものをいつも食べているのだ。もしかすると、この世界にいるための姿形が猫というだけなのかもしれない。クロの出身がどこの世界か知らないけど。


 そんなクロと私のいつものくだらない会話に少し気が緩んだのか、はたまた美味しい紅茶のおかげか、目の前の女子高生もようやく緊張が解けたようで、落ち着いた様子で改めて頭を下げた。


「本当にすみませんでした。ご迷惑をおかけしました」

「うん、いいよ」

 頭を上げて、と促す。

 分かってるから、と。


「盗ってこいって言われたんでしょ、仲間に」

「……はい」


 彼女は高瀬結たかせゆいと名乗った。高台にある、そこそこ有名な進学校の二年生らしい。一緒に店に入ってきた四人全員が同じクラスで、だいたいいつも一緒にいるメンツだそうだ。


「リーダー格は最初に話しかけてきたレナって子かな?」

 はい、と小さな声で答えたあと、結ちゃんは意を決した様子で再び口を開いた。


「そ、それで玲菜……彼女、その人形だけじゃなくて……」

「うん。壺を持って行っちゃったみたいだね」

「…………」

 あ、それも分かってるんだ、と顔に書いてある。

 素直な子だな。


「最初は玲菜に言われて、二つとも私が棚から取ったんですけど」

 猫を追い払ったあと、壺だけつかんで玲菜が出入り口の方に向かったので慌てて追いかけたら、扉の手前で急に振り向いた彼女に思いきり肩を突き飛ばされて、思わずその場で立ち止まってしまったのだという。


「なんでって思ってる間にみんなは外に出ちゃうし、急にドアが閉まっちゃって……」

「なるほど。それでショックを受けてたのね」

 寝起きの嘘と上手く繋がっちゃったな。


「ねぇ結ちゃん、答えにくいだろうけど……いじめられてるよね」

「…………」

 無言のまま唇を噛んで俯く彼女の髪が、さらりと肩から流れ落ちた。




読んでくださってありがとうございます。

後編も④までありますが、

何卒よろしくお願いいたします。

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