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魔道具店夢乃屋  作者: 青崎衣里
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第14話 言霊の壺・前編④


「あらま」

 極度の緊張が緩んで、意識が飛んだのだろう。


 その様子を見て、クロが近づいてくる。

「死んじゃった?」

「こらこら、縁起でもないこと言うの止めなさい」


 意識を失くした人間の身体はすごく重たい。

 床に倒れそうな女子高生の身体を支えながら、さて、どうしたものかと思案しつつ目を泳がせていると、床に転がっている彼女の鞄からはみ出しているドールに気づいた。


「あー、やっぱり……」

 高額だと知って、ネットで転売でもするつもりだったんだろう。ギリギリで阻止できたのは僥倖だと安堵しかけたのに、残念ながらこれで事態が終わったわけではなかった。


 鞄に小さな頭を突っ込んでゴソゴソと探っていた黒猫が、一つ足りないね、とつぶやいたのだ。


「言霊の壺も棚から盗ってたんだ。二つともこの子が持ってると思ったんだけど、おそらく壺だけはあのレナって子が持ち去ったんだと思う」


「えっ!? 嘘、盗られちゃったの?」

 自動防犯システム完備だと思ってたのに。


「じゃあなんでこの子だけ……?」

「おそらく一番魔力が高かったからだよ」

 ん? どゆこと???


「入ってきたメンツの中で明らかに魔力が高かったのはこの子と、あのレナって子の二人。でもレナの方が魔力を欲する気配が濃厚だった。そのせいで、あの壺を見た瞬間に魅入られてしまったんだろうね。この店が普通じゃないって認識はなかったと思うけど、彼女の中の何かが察知したんじゃないかな。警戒心が働いたというか。だからボクを蹴散らしたあと、壺だけ持って逃げたんだ。自分よりも魔力の高いこの子をわざと置き去りにして」


「わざと?」

「おそらく。店の扉は魔力に反応するからね」


「えー、そんな方法有りなの?」

「初めてのケースかな。この世界の人間で魔力の高い人物が同時に入ってくることなんて滅多にないから、うっかり突破されちゃったのかも」


「そんな……」

 うっかりなんて言ってる場合じゃない。これは一大事だ。

 何しろこの店の商品はこの世に出回ってはいけない代物なのだから。


「…………どうしよう」

 とにもかくにも万引犯を取り逃がしたのは事実だし。

 私は店主失格かもしれない。


「初日に言われて、充分注意してたつもりだったのに」

 一瞬で地の底までずどーんと落ち込んだ私を、まぁまぁとクロが宥めてくれた。


「まずはその子を二階に運ぼう。対策を考えるのはそれからだよ」

「そ、そうだね」

 冷静にならなくちゃ。

 このまま床に寝かせておくわけにもいかないし。


 とはいえ、たとえ相手が痩せてる女子高生でも、二階まで運ぶのはかなりの重労働になりそうだ。


「おんぶすれば……いけるかな?」

 よし、と覚悟を決めて背負う体勢を取ろうとしたところで、天の助けが入った。


「いいよ、ボクが運ぶから」

 横から伸びてきた腕が女子高生の身体をスッと抱き起し、軽々と持ち上げる。


(おお、ありがたい!)

 これが世に言うお姫様抱っこか。

 私は内心でパチパチと拍手を送った。

 男の子がいると、こういうとき助かるよねぇ。


(――――猫だけど)


 ええ、ここですぐ我に返りましたよ。

 私の他にこの店にいるのは猫。人語を話すけど、猫のはず。

 なのに。


 困惑しつつ見上げると、すらっとした見目麗しい十代後半の青年が、気を失っている万引き少女を両腕で抱えて立っていた。


「…………誰!?」

 思わず平たい目になっちゃったよ。


 たぶん顔中に「怪訝」って書いてある、今。


「やだな、分かんないの?」

 いや、分かるよ。他に誰もいないから分かるけどね。


 心外そうに答えた声は猫のときとほとんど変わっていないから、ますます混乱するわ。


「人間になれるなんて聞いてない」

「うん、これまでは必要なかったから」


「なれるなら、いつもその姿でいればいいのに」

「嫌だよ、面倒臭いし疲れる」

「さいですか」


 まぁ人語を話せるんだから、姿が人間になったところでさほど驚くことでもないか。


「じゃあ一旦休憩しよう。紅茶を淹れるよ」

「クッキーもつけて」

「了解」



 私たちは二階へ上がった。

 他のお客さんが来るまで、お茶で喉を潤しつつ作戦会議である。




読んでくださってありがとうございます。

次は後編になります。


果たして琴音たちはトラブルを解決できるのか。

続きも何卒よろしくお願いいたします。


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