帽子始まりの恋は
「連絡先教えてってさ〜。この色男め」
先日友達に付き添って、知らない集まりに顔を出した。そのときにいた女の子の一人が、どうやら俺のことを気に入ったらしい。
「なんでだろ。あんまり関わってなかったはずだけど」
河原でのバーベキュー。部外者は出しゃばらず、控えめにしていた。
「分からんけど、おしゃれなデニムキャップの人って言ってたから、アキだろ」
帽子が目印ね。帽子好きの俺はいつも帽子をかぶっている。シンプルなキャップはもちろん、小洒落たハットも、実用的なニット帽も、個性的なベレー帽も、帽子なら何でも好きだ。
だから俺の帽子をみそめてくれた彼女に、悪い気はしなかった。
友達づてに連絡先を交換し、メッセージのやり取りをしたのちにデートした。
トントン拍子に付き合うことになった俺たち。順風満帆だ。デートのたびに
「今日の帽子もおしゃれだね」
「今日の帽子、かわい〜い」
「今日のもこもこ〜触りた〜い」
まっさきに俺の帽子に反応する。
嬉しい。嬉しいんだけど……何だろうこのモヤモヤは。自分の帽子に嫉妬が芽生える俺がいる。
「どうしたの? 変な顔して」
「どーせ俺は変な顔ですよ。帽子負けしてるよ」
「なーに、急にすねちゃって」
「急じゃない。いつもいつも帽子ばっかり褒めてさ。俺と帽子、」
言いかけてやめた。ダサすぎる。
「好きに決まってるじゃない。どんな帽子も似合うアキくんが好きなの。アキくんだから似合うんだよ。大好き」
ぎゅっと抱きつかれた。彼女の大胆さと可愛さに、
「俺も大好き」
と返した。
帽子をかぶっていて良かった。これは照れ隠しの手段でもあるから。