第1話 謎の異世界で穴掘り作業
神は偉大。
神は絶対の存在。
神に不可能など存在しない。
そんな神々たちの中で王と呼ばれる神界の王『ルーン』。
5歳くらいの見た目をした少年であるが紛れもない神である。
神界で絶対的な権限を持つルーンは、それゆえに性格に問題が生じていた。
ルーンは自己中心的な性格で、神界の神々たちをいつも困らせている。
しかし、その権限もさることながら実力は相当なもの。
その実力は、『絶対神』にも一目置かれるほどで誰もルーンに逆らうことは出来なかった。
そして現在、そのルーンの性格により新たな事件が起きる。
ルーン「最近、天界神ティアがボクの悪口を言ってるんだって?」
神「悪口というよりルーン様には王としての振る舞いをしていただきたいと申していただけなんですが・・・」
ルーン「それ自体が問題なんだよっ!!ボクは神界の王だよ?神たちが集う神界の王なんだよっ!!」
神「は、はい・・・」
この世界では、『絶対神』と呼ばれる神が頂点に君臨しておりすべてを管理してきたが、長きにわたって多くの世界を生み出したことで管理が大変になり、それぞれの世界に神を一人ずつ置き、権限と力を与えた。
絶対神は神界の王のみ選び、それ以外の天界、冥界、魔界、特殊な異世界などの世界の神は神界の王に選ばせた。
ルーン「アイツが天界の神でいるのも、ボクのお陰なんだぞっ!!そのボクに対して王としての振る舞いだと・・・これは許されることじゃないっ!!」
神「そうですね、ルーン様の言う通りでございます」
周りにいた神たちもルーンの言葉に同調する。
しかし、その顔には表情がなかった。
正確に言えば表情がないというより出せないと言った方が正しい。
ルーンは心を読むことができ、下手な演技は命取りとなる。
だから神たちは心を無心にして感情を押し殺しているのだ。
ルーンは自分の意見に賛同する神に気分をよくしながら玉座に座る。
ルーン「よし、決めたぞ。ティアには天界の神の座を降りてもらう。そして牢獄送りだ」
この決定には、神たちも驚きの表情を浮かべた。
神「ろ、牢獄送りまでする必要あるんですか?」
ルーン「ボクの行動に不満があるヤツなんか、この神界に戻ることすら許されないよ。当然でしょ?」
神「そ、そうですね」
明らかに理不尽な理由で牢獄送りが確定してしまったティア。
神界にいる神々たちは、ルーンの命令でティアを牢獄へと連行する。
その姿をルーンは高笑いしながら見ていた。
その時だった。
ルーンは忽然と姿を消した。
そして・・・
ルーン「こ、ここはどこだ?」
ルーンは気が付くと、どこかの小屋の中にいた。
いきなりのことでルーンは、今の置かれている状況に困惑していた。
一体何が起きている?
いつここに連れて来られた?
誰が何の目的でこんなことを?
考えてもさっぱり分からない。
神が分からないとは滑稽な話ではある。
ルーン「くそっ!!誰の仕業か知らないけど、ボクはティアが牢獄に入るさまを見に行かなきゃいけないんだっ!!こんなところ早く脱出しないと」
ルーンは魔法陣を展開してテレポートで脱出を試みた。
ところが・・・
ルーン「あれ?」
景色は一向に変わらず、小屋の中のままだった。
ルーンは、こめかみに青筋を立てながら笑みを浮かべた。
ルーン「面白いね、誰の仕業か知らないけど神界の王であるボクに喧嘩を売るなんて」
ルーンは掌から光り輝く鎌を出す。
ルーン「この鎌は、ただの鎌じゃない。これは神界の王にのみ扱うことが許された特殊な鎌だ。そして神以外のヤツが触ろうものなら手が切り落とされてしまう代物。そして、この鎌には切れない物は存在しない。あらゆるものを切るんだ。たとえ空間といえどもね」
誰かに説明するように丁寧に鎌の性質を話した後、空間に向かって鎌を振り下ろすルーン。
しかし、鎌は弾かれルーンは吹き飛ばされてしまう。
先程まで、どこか余裕を見せていたルーンにも徐々に焦りが見え始めた。
ルーン「お、驚いたね。で、でも今度はそうはいかないよ」
続いてルーンは、全宇宙を一撃で破壊できるとされる槍を取り出す。
しかし、先程と同様に弾き飛ばされ、ルーンは完全に動揺していた。
ルーン「なんだよ・・・なんだっていうんだよっ!!なんなんだよ、この世界はっ!!」
必死になって、この世界から脱出しようとあらゆる能力を駆使するルーン。
だがいずれも効果はなかった。
絶望的になったルーンの目には涙が溢れ出し、泣き出してしまった。
ルーン「な、なんで・・・なんで戻れないんだよぉぉぉっ!!なんで思い通りにならないんだよぉぉぉっ!!」
足をバタつかせながらゴロゴロと転がる姿は、駄々をこねた子供だ。
??「泣いても無駄だ。オレたちはもう二度と戻ることはできない」
ルーン「え?」
ルーンは泣くのを辞めて声がした方へと視線を向ける。
すると部屋の隅で、18歳くらいの容姿をした青年が生気の失った目でルーンを見ていた。
ルーン「お、お前は一体誰だ?」
??「オレはアビドス・・・冥界神アビドスだ」
冥界神と聞いて声を荒げるルーン。
ルーン「何をバカなことを言ってるんだっ!!ボクは、お前のようなヤツを冥界の神に任命した覚えはないぞっ!!」
興奮するルーンに対してアビドスは冷静な態度で説明をする。
アビドス「いいか、お前には信じられないかもしれないがオレは別の世界の冥界の神だ」
それを聞いてルーンは怒りの表情から呆れた表情に変わった。
ルーン「嘘ならもっと面白い嘘を言って欲しいもんだよ。絶対神は冥界を1つしか作ってないんだぞ」
アビドス「お前の言っていることも分かる。オレだって最初はそう思ってたからな」
アビドスは立ち上がりルーンのところまでやってくる。
アビドス「今からオレが神である証拠を見せてやる。お前がさっき出していた鎌をオレに貸してくれ」
ルーン「な、なんだってっ!?」
アビドス「その鎌は、神以外触れることができない鎌。そう言ったよな?」
ルーン「ま、まぁ・・・」
アビドス「つまり、これに触れることができればオレは神ってことになるよな?」
ルーン「・・・・・・」
ルーンは渋々頷いた。
アビドスはルーンの出した鎌に触れてみる。
鎌はアビドスの手を切り落とすことなく受け入れた。
ルーン「こんなの嘘だっ!!何かの間違いに決まっているっ!!きっと鎌が故障してるんだっ!!そうに決まってるっ!!それにお前が神だからといって冥界の神である証拠にはならないぞっ!!」
必死に言いがかりをつけ冥界の神であることを否定し始めるルーン。
とても神界の王とは思えない振る舞いにアビドスは唖然とした。
ルーンとしてはこの事実を受け入れたくないというのが本音だった。
だがアビドスは容赦なく現実を突きつける。
アビドス「たとえお前がどう言おうと別の冥界は存在する。それとオレの世界じゃ神界の王なんて神は存在しなかったぞ」
ルーン「な、なんだってっ!?」
アビドス「オレの世界での神界は絶対神がすべて支配している。冥界、天界、魔界といったそれぞれの世界の神も絶対神が選ぶんだ」
自分たちとは違う神の世界があるこという事実が発覚した上にその世界では自分の地位が存在しないことに衝撃を受けるルーン。
そのルーンに、さらに追い打ちをかける事実をアビドスは話す。
アビドス「ショックを受けているところ悪いが、ここからが本題だ。この世界はハッキリ言って神のオレたちでもまったく理解できない異質な世界だ」
アビドスの言ってる意味が分からず、ルーンは首をかしげる。
アビドス「ここでは神の常識は一切通用しない。消されたくなかったらここで懸命に働かなきゃいけないんだ」
ルーン「は、働くだって?この神界の王であるボクがか?」
ルーンの顔が怒りで真っ赤になる。
ルーン「冗談じゃないよっ!!なんでボクが働かなきゃいけないんだっ!!ボクは神が集う神界の王なんだぞっ!!」
怒り狂うルーンを哀れな目で見ながらアビドスは言った。
アビドス「そうやって怒っていられるのも今の内だ。現場監督さんが来たら嫌でも働くかされることになる」
ルーン「現場監督?」
その時、ギィとドアが開いた。
開かれたドアに向かって、アビドスはピンと姿勢を正す。
アビドス「お、おはようございますっ!!なにをボケッとしてるんだっ!!現場監督さんがいらしたんだぞっ!!」
先程まで冷静で落ち着いた雰囲気をしていたアビドスの変わりように驚くルーン。
アビドスも冥界の神。
その神がここまでの態度を変える現場監督とは一体・・・
ルーンは少し怯えながらドアの方を見た。
するとそこにいたのは制服を着たごく一般の女子高生だった。
ただ無表情で感情が分かりにくいところが普通とは異なる点だ。
思わずルーンは笑いだしてしまう。
ルーン「こんなのが現場監督だっていうのか?こんなヤツ、ボクの洗脳術で一気に下僕にしてあげるよ」
現場監督に向かって洗脳術を仕掛けるルーン。
現場監督「それでは今回も消滅者が出ないように頑張って働いてください」
ルーン「な、なにぃっ!?」
まったく洗脳術が効いておらず驚愕するルーン。
現場監督は、そんなルーンを無視して話を続けた。
現場監督「新しく入ってきた方もいらっしゃるようですので自己紹介をしておきます。私は、ここのブロックの現場監督をしております『美紅』と申します」
一礼して自己紹介をする美紅にルーンは困惑した。
美紅「それではさっそく仕事に入りましょう」
ルーン「し、仕事って?」
美紅「仕事は穴を掘る。ただそれだけの作業です」
ルーン「へ?」
あまりに単純で簡単な仕事内容にルーンはポカンと口を開ける。
美紅「それから、作業着とヘルメットもご用意しておりますので、ご自由にお使いください。ただし、くれぐれもヘルメットの着用だけはしっかり守ってください。あなた方の身を守る大切なアイテムです」
ルーン「ヘ、ヘルメットをしないと、どうなるっていうんだ?」
美紅「すぐに分かります。それでは、ヘルメットを被って外へ移動してください」
ルーンとアビドスは作業用ヘルメットを被って外に出た。