母への秘密
タイマーのスタートボタンを押したその瞬間から、鉛筆の音が鳴り響いた教室で僕はただテスト用紙を眺めていることだけしかできなかった。
今もこうして下校している間もできるだけクラスメートと会わずひそかに帰っている。帰宅してすぐに、母が「テストどうだった? 」と聞いてきた。僕は「普通」としか答えなかった。
そんなある日、僕は「ねぇお母さん、今日は学校を休みたい」と言った、胸がドキッ! となった、なにせこんなことを言うのは初めてだった。「どうしたの? しんどいの? 熱はある? 」「ない」「いじめられた?」「そうでもない」僕は言葉を詰まらせた、なぜなら勉強嫌いで友達ができないから、学校を休むなんて認めてくれない、認めてくれるわけがない。そう思ったのだった、「やっぱなんでもない」僕がそう言った。だけど教室の中ではひとりぼっち、勉強もできないその事実が変わるわけがなかった。そんな僕の生活は日を重ねるごとに心を蝕んでいった、ある日僕は校門を目の前にして歩道の真ん中で立ち尽くした、やがて目の前が真っ白になり、倒れた。その後僕は救急車で病院に搬送されたらしい。
目が覚めて主治医の先生から話を聞く、衝撃が走った。医者から診断されたのは重度の急性ストレス障害とうつ病だった。頭が真っ白になった、普段は勉強の事なんか考えないのに受験を目の前に控えてることが不安になった。
受験は二週間後、しかし入院期間は一か月。
あまりにも突然の出来事だった。そんな時僕がおもむろに手に取ったのは「鬱ということ」という本だった。僕は鬱と生きていくことを決めたのであった。