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008 行動パターンがどこか似通っている

 解散し、宿屋を出たユキだが、別行動するはずのカナタと二人、並んで歩いていた。

「もしかして、行き先は一緒か?」

「まあ、今んところはな」

 向かう先は首都の裏路地だが、表通りから少し外れただけの場所だ。狭い街路に埋め尽くされんばかりの人々。その先に、目的の店があった。

「……あれま、店舗代わってもうてるわ」

「代わった?」

 ユキの目当ては、二階建ての店舗の一階にあるパイ屋だった。安価でうまいミートパイを食べさせてくれると冒険者ギルド内で噂になっていたので、少し食べてみようと普段は来ない区域にまで足を運んだのだ。しかしカナタはこの場所を知っていたのか、どうしたものかと首を(かし)げている。

「カナタ、お前この辺りによく来るのか?」

「というより、あそこに元()った店に用があってん」

 パイ屋だった場所には、元々別の店舗があった。そして住居だったはずの二階は、理髪店となっている。

 開店セールか何かで安いのか、もしくは腕のいい理髪師が営んでいるのか。二階に上がる階段には数人、並んでいるのが見える。

 どちらも新しく経営を始めたばかりなのか、作りたての看板が風に揺られていた。

「前は美容室やってんけどな。ちょいと毛先揃えて貰おうか思うててんけど、やめてもうたんならしゃあないわ」

 目的の店がないと見るや、カナタは(きびす)を返して店舗に背を向けた。

「あそこの理髪店、試してみないのか?」

「チェーン店やから、別の店舗の方行くわ。ポイントカードも()めたいし」

「……その経営者、絶対俺達と同じ異世界人だろ」

 ポイントカードなんて概念を持ち込んだであろう経営者はともかく、腕のいい美容師も揃えていたのだろう。カナタはユキに手を振ってから、その別店舗へと迷わず歩いて行った。

「ま、仕方ないか……」

 元々の予定通り、ユキだけがその店に向かっていく。しかし物珍しさか、はたまた安価なミートパイが目当てなのか、目的のパイ屋内での食事は難しそうだ。仕方がないので、持ち帰りの列へと並び、そこでいくつか購入して帰ることにした。

「せっかくだし、手土産に持って帰るか」

 カナタはもちろんのこと、ブッチやシャルロットにも買っていこう。できれば他に何件か回りたいところだが、この行列ではそれも難しそうだ。

「流行りものに弱いのは、どの世界でも一緒だな……」

 半ば(あき)れつつも、それに従う自分もまたしょうもない存在に思えてくるので、その思考はすぐに断ち切ることに。

「ん……気のせいか?」

 その時ふと、何か(にお)った気がしたのだが、気のせいかと意識から飛ばした。




「なんや、客減ったから閉めたんかいな」

「そうなのよ。ほらあそこ、裏通りでしょう。人もなかなか来なくて、仕方ないから店舗ごと売っちゃったのよ」

 顔馴染みの美容師に髪を整えて貰いながら、カナタは目的の店舗が無くなったことについて雑談をしていた。普段は自分で毛先を揃える程度はしているものの、『オルケ』には美容室どころか髪切り(どころ)の類がない。ユキなんてそれが理由で、髪を伸ばしたままにしている程だ。半端に短くしてしまうと、髪を(まと)められないからだ。

「そしてうちが撤退してから、数日位前に買い手がついたのよ。前は一階が美容室で二階が居住スペースだったじゃない。今はあそこ、一階がパイ屋さんで二階が理髪店になっちゃって。腕もいい、ミートパイが安く食べられる、であの辺りもすっかり人手で埋め尽くされちゃったのよ」

「そら(すご)いな~うちも食べてみたいわ」

 あの混みようだと、どうせ(ユキ)も店内での食事を諦めて、持ち帰りで買ってくるだろう。そのお土産を期待できるかもしれない。

 じゅるり、とカナタの口内に(つば)()まりかける。

「う~ん、私はオススメしないかな……」

 しかし美容師の女性は、カナタに対してそう(つぶや)いた。

「次の店舗では失敗しないように、新規の話題性以外で参考になりそうなところがないか見に行ったんだけどね。ちょっと嫌な(にお)いがしたのよ。客層も駆け出し冒険者や低所得者が多そうだったから、不潔な人が多かったのかとも思ったんだけど……どうも、パイを焼いて出た煙の方がちょっと、嫌な感じがしたのよ」

「ふぅん。嫌な(にお)い、なぁ……」

 少し気になるところだが、それは食べて見れば分かることだ。

「はい、美人に磨きがかかったわよ」

「おおきに~……と言いたいとこやけど、その子供相手にするような言い回し、なんとかならへんの?」

「私にとっては、あなたはまだまだ子供よ」

(これでも前世分、長く生きとるねんけどな……)

 付き合いが長くなるというのも考えものだと、カナタは内心げんなりした。

 首都へ来る時位しか会わない相手とはいえ、ここまで気安くなると何を言っても無意味だと感じるし、何を言われてもそんなものかと流せてしまう。

「別に止めはしないけど、お兄さんはその気あるの?」

「その気にさせようとするのが面白いんやんか」

 特に相手(ユキ)の頭の固さは前世からよく知っている。物心付くまで前世の記憶が戻らない期間があったものの、付き合いはもう完全に四半世紀(銀婚式)級だ。前世の幼少時を足せば、それ以上になる。

 だが、肝心の相手(ユキ)は双子であることを気にしてか、手を出そうとしてこない。それでも手を出してくるということは、それだけ相手のことを想ってくれている。たとえ前世では禁断の近親相姦となろうとも、かつては恋人同士だった自分達だ。

 再び男女として共に生きる。兄妹ではなく、恋人同士として。

「いやぁ、実に楽しい人生やわ」

「そんな歪んだ愛情持っているのはあなただけよ」

 カナタに巻いていた髪避けのマント(クロス)を外して毛を払いながら、顔馴染みの美容師は(あき)れて息を()いた。

「子供じゃないんだし、好きな子に意地悪するような真似はもう控えなさいな」

「そう簡単にやめられへん、って」

 鏡に映る自分の出来栄えを確認しながら、カナタは楽し気に口を歪めた。

昔からやから(・・・・・・)、もう完全に癖になってもうとるしな……」

 この生き方ばかりは変わることはないだろう。しかしそれを楽しんでしまう自分がいるのだから、そのどうしようもなさに、内心(あき)れてしまっていた。




「はあ……ようやく買えた」

 すでに日が暮れ始めている。夕食前までには帰ろうとしたのだが、予想以上に混んでいたことと、追加で焼く時間も待たされていた為、人数分を購入するのにここまで掛かってしまった。

 これ以上待たせるわけにはいかない。いや下手したら、自分を置いて晩飯にありついているかもしれないと思うと、自然と足が速くなる。

「お、(にぃ)

「……おう」

 背中に掛けられた(カナタ)の楽し気な声に一度振り返るユキ。その後二人並んで、宿屋への道を歩いて行く。

「どやどや、美人になったやろ?」

「はいはい、元から美人だよ」

 いや同じ顔だろうが、というツッコミを入れたくなるのをユキはどうにかこらえた。この妹にいちいちツッコんでいてもきりがないことは、長い付き合いから分かり切っている。

「それで、評判のミートパイは買えたん?」

「ああ、土産に全員分買ってきたから、晩飯前に食おうぜ」

 どうせ夕食の予定は決めていないのだ。ミートパイを食べてから足りない分をどうするか考えればいい。

 パイを入れた袋を片手に歩いていると、空いている方の手を掴まれてしまった。

「お前な……」

「ええやん、兄妹なんやし」

「……まったく」

 (あき)れつつも、ユキはカナタの手を(ほど)くことはなかった。

「とりあえず、宿に戻ったら茶を淹れるか」

「しかしミートパイ、どんな味なんやろうな」

「安価だとは聞いているから、あまり味は期待できないだろうけどな」




 しかしその中身は最悪過ぎて誰も、ほんの一口でも食べようとはしなかった。

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