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007 革命軍情報戦線(別作品の主人公も出演します)

 シャルロットは現在、古着屋の中で悩んでいた。

 今では完全に普段着と化しているカジュアルドレス以外に着替えはなく、『オルケ』に辛うじてある衣料店では古臭いデザインの割りに新品しか取り扱っていなかった。まともな品揃えなのは、消耗品でもある下着等の小物位だ。

 人がいない分服の取り扱いも少なく、買えるものは滅多(めった)に取引されない新品だけ。たとえ古着が売られていたとしても、他の者がすぐさま買い取りに来てしまう。

 実際、カナタが普段着にしている改造エプロンドレスも、昔貴族の屋敷で働いていた者が売り払っていたものだ。ちなみに辞めた理由はそこの見習い料理人(コック)と駆け落ちしたからであり、今は別の国で静かに暮らしていると聞いている。

 だから人が多い分、シャルロットは期待していた。少しはまともな衣服が安値で手に入ることを。

「どれがいいかしら……」

 スカートは短い方が可愛いが、その分中が(あら)わになりやすくなる。動きやすさを考慮するならばショートパンツ等のビキニ・スタイルを選択すればいいが、元貴族の生活が長かった為か、あまり脚部を(さら)すような格好には馴染(なじ)めそうにない。

「ロングのラップ(巻き)スカートにして、戦闘時は状況に応じて外す。中はハーフパンツ……よし、それでいきましょう」

 上はすでに決まっている。というより最近の流行だったのか、ブラウスかワンピースが品揃え(ラインナップ)の大半を占めていた。

 後は寸法(サイズ)と色、デザインを選ぶだけだ。

「さてどれに……と、ごめんなさい」

「いえいえ、こちらこそ」

 服を選ぶのに夢中になり過ぎて、人とぶつかってしまった。

 赤髪のロングが目立つ、胸の大きな女性だった。旅行(かばん)を足元に置き、旅装を買い替えに来たのが見てとれる。

「あれ? あなた……」

「……失礼」

 相手の女性が何かに気付いたようだった。面倒事を避ける為に、シャルロットは一度店を出ることにした。

 元々顔を隠して生活しているわけじゃない。その顔も似顔絵とはいえ、以前から新聞等のメディアで(さら)されていることは、ユキから聞いて分かっていた。なので、先程の赤髪の女性も、そこからこちらの正体を見抜いたのだろう。

 だが、だからといって、それに付き合う義理はない。

(ほとぼりを冷ましてから、また行きましょう。別の店でもいいし……)

 次は顔を隠していこう。

 そう考えて歩いていた為か、確認が遅れてしまった。

(……つけられてる?)

 最初は気のせいかと思った。しかし、シャルロットが裏通りに入るのをついてきた時点で、目的が自分だと分かる。

「さて、と……」

 振り返ると、そこには男が二人。古着屋で会った彼女はいない。どうやら別口のお客のようだ。

「お姉ちゃん、新入りの冒険者だろ?」

「冒険者ギルドじゃ教えられないこと、俺達が教えてやるよ……」

(なるほど、新入りいびりか……)

 街中で魔法を使うわけにはいかない。たとえ正当防衛でも、事情聴取の為に一時拘束を受ける義務がある。『オルケ』の時は田舎町ということもあり、盗賊を引き渡すついでになあなあですぐ片付けて貰えたが、ここは大国『ヤズ』の首都だ。

(下手したら二、三日の拘束もあり得る。面倒臭そ(めんど)うね)

 手持ちの武器は、ヴィノクロフ家の家宝である魔杖しかない。

 多少は杖術の心得があるものの、精々が貴族の(たしな)み程度だ。果たして冒険者(本職)相手に、どこまで通用するのやら。

(できれば奥の手(・・・)は使いたくないし…………ん?)

 冒険者達の後方から、何かが見えた。

 それは近くに落ちていたのか、おそらくは(ほうき)()だっただろう、ただの棒切れだった。

「てりゃっ!」

 ゴンッ! という景気のいい音と共に、冒険者の一人は倒れた。その背後から現れたのは、先程の赤髪の女性だった。

「てめっ、何しやが、る……」

 折れた棒切れを手放した彼女は代わりに、どこから抜いたのか、ブッチの持つものとは型式も大きさも違う、小型の廻転銃(リボルバー)を握っていた。その銃口はもう一人の冒険者の男に向けられている。

「もう弱い者いじめはやめたら? 一般人より弱いんだし」

「んだ、」

 ――ダンッ!

 軽い銃声が響く。

「……っち!」

 所詮(しょせん)は女の一撃だったので、殴られた男はすでに意識を取り戻していた。耳元近くの壁に銃弾を撃ち込まれて戦意を喪失した男は、殴られた方の手を取り、背を向けて去っていく。

「……こっち、早く」

「わっと!」

 その赤髪の女性に手を引かれ、シャルロットはさらに路地の奥へと引き連れられていった。




「さすがに余計なことを言ってしまったかと追いかけたんだけど……正解だったようですね。シャルロット様」

「……あまり目立ちたくないの。敬語はやめてくれる?」

 少し離れた喫茶店にて、シャルロットはテーブルの向かいの席に座る、ミーシャ・ロッカと名乗った女性にそう話しかけた。

 適当なところで路地の表側に出た二人は、あえて人目につくように動きながら、この店の中へと逃げ込んだのだ。今は借りていた眼鏡をミーシャに返し、矯正されて逆に歪んだ視界を、目を揉んで(ほぐ)すようにして戻している。他にシャルロットの正体に気付いた者はいないようだが、念の為の措置(そち)だ。

「じゃあ敬語はやめさせてもらうけど……どうしてあの店に?」

「服がなくて買いに来てたのよ。あなたこそ、着替えでも買いに来ていたの?」

「まあ、そんなところで」

 静かにお茶を飲みながら過ごしているものの、シャルロットの内心は穏やかではなかった。たとえ偶然とはいえ、相手がどう動くか予想ができないというのは、不安材料としかなりえない。

 おまけに相手は、こちらよりも凶悪な武器を持っているのだ。

「ちなみにあれは護身用として渡されたから、あまり使わない予定なのでご心配なく」

「そう……使わせちゃって、悪かったわね」

 足りるかは分からないが、ここの支払いだけは持とう。

 しかし傍に寄せようと指を伸ばした伝票を、ミーシャは先に押さえつけた。

「代わりに話を聞かせてくれない? 『ヤィ(あの国)』でばら()いた醜聞(スキャンダル)や、国そのものの情勢について」

「『ヤィ(あの国)』のことを聞きたいの? ……はっきり言って、旅行には向かないわよ」

 というより、どんな理由であれ近づくことすら勧められない。

 それが『ヤィ』という国の現状だった。王位継承者は一人しかおらず、王はまともでも、その子孫がまともとは限らない。

 現実が見えず、教わったこと以外となると何もできなくなる元婚約者が王となる。このままでは、『ヤィ』という国そのものが滅びることになるだろう。それを解決する為に、シャルロットは今力をつけ、革命軍を立ち上げようとしているのだから。

 しかしミーシャは、それでも構わないと話を(うなが)してくる。

「私の仕事は、ある国の出版社に勤めている特派員なのよ。まあ、その上司が裏で何しているのかは知らないし、聞きたくないけれど……」

 おそらく、廻転銃(リボルバー)のことを言っているのだろう。銃については認知されていても、一般では流通していない武器を支給されているという時点で、何かが背後に(ひそ)んでいることは容易に想像がつく。

「……それでも、他国の情勢を探って自国に伝えるのが私の仕事だから」

 それ以上に、世界のことを知りたいから、と彼女は告げてくるが、今のシャルロットには関係なかった。

「それなら教えるけど……もう大して新しくないわよ」

 それでも、今からその国に向かうのであれば、情報は多いに越したことはない。多少は戦い方を熟知している様子な上に、小型とはいえ護身用の廻転銃(リボルバー)がある。後は情報次第で、生存率は大きく変動することだろう。

「じゃあ取引成立で」

 しかし指を話した途端、シャルロットはその伝票を抜き取った。

「……その代わり、お願いがあるの」

 ミーシャが何か言おうとする前に、シャルロットは口を開いた。

「今から言う町の(ダイナー)にいる私宛てに、『ヤィ』の情勢を送って欲しいの。手段は任せるから、なるべく秘密裏に」

「……いつ、どれだけの期間、どれだけの情報を送れるかは分からないのに?」

 それでもシャルロットは手持ちのわずかな金銭をテーブルの上に置き、ミーシャの方へと移した。

「あなたはあの国をどう思っているかは知らないし興味もない。だけどね……」


「私はあの国を変えたいの。その為なら、代償は惜しまないわ」


 ミーシャは溜息を一つ()くと、シャルロットの伸ばしていた手の上に自らのものを重ねた。

「自分の命優先で、一切情報が送れない状況になっても恨まないなら」

「十分よ」

 取引は、成立した。

 そして宿に戻る時間になるまで、シャルロットはミーシャに、知りうる限りの国の内情を話して聞かせたのであった。

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