07・廊下にて
「僕はちょっとした調べものだよ。暫く席を外す」
本当はドーナツ作りに行くんだけどね。
「…」
うーん。やっぱまだ見てくる。
何か表情や態度に出しちゃってたかな?
それで違和感を感じてるのかも。
「永代、お前」
「!…何?」
「…い」
「だから俺は別に、行きたくねぇって!」
会長が何か言おうとした瞬間、邪魔するように大きな声が廊下に響き渡った。それと同時に、俺が支えているのとは逆の、もう片側の扉がふいに開く。
「お二人共、さっきからどうしたんですか?そんな所で見つめ合って」
そこから修ちゃんがにこやかに聞いてくる。このタイミング、絶対さっきまで俺達の事ニヤニヤしながら観察してたな。
「チッ。なんでもねぇよ。それより何の騒ぎだ」
会長はそう言って廊下の方に顔を向けてしまった。俺も、会長が何を言い掛けたのか気にはなるけど、修ちゃんと共に同じ方向に顔を向ける。
「あー!!」
すると丁度。廊下の向こう、階段がある方向から見知った美形達と黒い塊がやって来る。この前のイケメン二人にサボりの生徒会メンバー、久山と緒方と陸と空。そして黒い塊こと、嫌そうにこちらを指差す転校生だ。
「あんた!」
俺は思わずムッとする。
何会長の事指差してんの。
「よぉ、さっき振りだな」
「!」
珍しく指を差されたりしても怒らない会長も気になったけど、それよりも今の台詞。
え、何それ。まさか会長もさっきまで転校生と一緒にいたって事?
「おやおや、何か生徒会室にご用でしょうか、二堂君」
いつもの如く、俺の些細な心の変化に気付いた修ちゃんが、然り気無く転校生の意識を自分に向けさせる。まただ。修ちゃん毎度ごめん、そしてありがと。俺ってば最近ホント短気になっちゃったかもで反省しなきゃだ。
「あっ修二先輩!俺の事は楓で良いってこの前言ったじゃん!じゃなくて、言ったじゃねーですか!」
なんかまだ敬語酷いんだね。いつの間にか修ちゃんまで名前呼びされてるし。
「ああ、失礼しました。お…楓君」
はい。修ちゃんは修ちゃんで今「王道君」て言いそうになってるしね。そこは気を付けて。
「それで、楓君は生徒会室に何の用があって来たのですか?」
修ちゃんがいつもの微笑みで聞く。
転校生はそれに何か言いたげな表情をして口を尖らせたが、以前癖がなんたらと伝えていたお陰で、それをちゃんと覚えていたらしい彼は結局その件に関しては何も言わなかった。
「それが違うんだよ修二先輩!俺は別にここに来る気もなかったし、むしろ来たくなかったん…で、すけど、なんかこいつらに無理矢理…」
そう生徒会メンバーを見ながら答える。どうやら緒方や陸たちに強引にここまで連れて来られたらしい。余計な事を。
「なんだ、やっと何か答える気になったんじゃねぇのか」
「んな訳ないだろ、このバ会長!!」
…ぶっ。バ会長って!
ちょっと上手いとか思っちゃったけど、会長に向かってバ会長ってなんだ。
「なんだとバ楓。正直になれよ。本当は俺様に会いに来たんだろ」
会長も負けてなかった。
「はぁ?あんた自意識過剰すぎ!」
だけどこれ、なんだか餓鬼んちょ同士の喧嘩みたい。転校生はもの凄く嫌そうな表情をした。
顔半分位が強付いた髪と眼鏡で覆われているけど、口許がこれでもかってくらい引きつり歪んでいるのだ。
「そうだよ会長ォそれってば絶対あり得ないしィ」
「楓ちゃんは俺達が強引に連れてきたんですし、会長に会いに来たとかないない☆」
無理矢理連れてきた自覚はあるんだね。
「会長…会いに、あり得ない」
「馬鹿な発言は控えた方が良いかと思いますが」
久山も後輩達も、皆すっごい言うよね…。
仲間達に言葉の集中攻撃を受けて、会長もなんだか変な顔だよ。ショックでも受けたのかな?慰めてあげたいけど、ごめんね。今の俺だと追加攻撃になる。
「まぁまぁ、皆さん。廊下で立ち話しもなんなので中へどうぞ」
修ちゃんが宥めるようにして提案するが、転校生は慌てたように首を横に振った。
「あっいや!悪いけど俺はマジで帰るし!帰りますんで!」
そして彼はもう敬語を諦めよう。注意する人間なんてここにはいないみたいだし。
「…はぁ。僕はもう行くよ」
それより、俺は前みたくイライラしたくないのでさっさと退散する事にする。ドーナツも作りたいしね。
「あ、春斗先輩!待てよ!待ってください」
「…は?」
えっ待って。俺まで名前呼び!?
転校生に後ろから袖を掴まれ思わず立ち止まる。吃驚して油断した。
「…何」
仕方なく、そう振り向いた。