04・会長からの電話
『俺だ』
会長の低い声が、ダイレクトに俺の耳へと入り込んでくる。うん…好き。暴れ出したくなる衝動をなんとか抑えて、その代わりに携帯を持つ手に力が入る。声までカッコイイなんて本当会長は罪深いね。そして電話を発明した人はマジ天才。さっき捕まった時も顔近くて確かにヤバかったけど、電話越しとはいえ耳ゼロ距離は倍の倍ヤバい。…ギャグかな?
実際に耳元で長時間囁かれるなんて事が起きたら、途中で耐えきれずに全力で逃げ出しちゃうだろうけど、電話越しだったらずっと聞けてしまう。耳が幸せ。
『?おいシロ。…聞こえてねぇのか?』
思わず聞き入って返事をしない俺に、会長が焦れたように聞いてくる。あ、やば。声に痺れ過ぎて内容全然把握出来なかった。
「あ、先輩ごめんなさい…今ぜんぜん内容聞いてませんでした」
『…あ"?』
正直過ぎたわ。
たった一言から会長の怒りを感じる。
「あの、本当にごめんなさい。もう一回言ってもらえませんか?」
反省をのせた声音でなんとか許してもらえないだろうか。
『……チッ』
駄目か。舌打ちされた。
『……ちゃんと聞いとけや。はぁ…だから、お前の近くにまだ補佐の三馬鹿はいるかって聞いたんだ』
と、思ったら許して貰えたようだ。もう怒りはなさそうな声で繰り返してくれた。なんか今優しい。良かった良かった。
というか。
「補佐の…」
(三馬鹿?)
思わずキョトンとして、緒方と空と陸に視線を向ける。この三人の事だよね?三馬鹿って口に出さなかったのは優しさだ。彼らもキョトンと見返してきてちょっと可愛い。
「えっと、まだいますよ」
『やっぱそうかよ。急かして来た癖に何やってんだアイツら。…あー、おいシロ』
「はい」
『空に代われ。さっき紹介しただろ。双子の片割れの大人しい方だ』
「え?あ、はい少々お待ち下さい」
あれ?なんで俺、取り次ぎみたいな事やってんだろ。俺の携帯で。
そう思いながらも、目をぱちくりさせる空に携帯を差し出す。
「あの、先ぱ…結城会長からです」
「え?…あ、あっ!!」
「…げ、やばァ!」
「…わぁ、あははは★」
どうやら三人は、揃って携帯の電源を切りっぱにしていたらしい。慌てて電源を入れている。会長が俺に電話してきたのは、三人がまだ俺と一緒にいると考えての事みたいだ。別に俺への用事があったからとかではなくて。
…いや?別にそんな事で落ち込まないし。そんな事だろうなってちゃんとわかってたし…。
「あ、これありがとうございました」
小さく溜め息を吐いていると、丁度通話を終えたらしい空に携帯を返された。もちろんもう切れてる。…嘘です、ちょっと悲しい。
「それより君、会長と連絡先まで交換してるなんて凄いねー!☆」
「…え?」
内心ショボーンとしていると、緒方が上目遣いでそんな事を言ってきた。俺はそれに軽く首を傾げる。
「だって会長ってば「おいシロ!!」…ほぇ!?☆」
緒方が何か教えてくれようとしたのに、それは途中で遮られてしまった。最近こういう事がよく起こる気がする。みんな遮るの好きね。
俺は再び小さく溜め息を吐くと、ゆっくり転校生の方に視線を向ける。彼は俺の携帯をビシッと指差していた。
「何、王道く…ッ!」
「なんでシロなんかが比呂の連絡先知ってんだよ!!」
そう怒鳴って携帯を奪おうとしてくる。
(は?一体何)
「シロは比呂の親衛隊なんだろ!?」
それを軽く避けると、さらに苛立ったようにそんな事を言われた。
「いや、違うけど」
「なんでっ…、なんでそんな奴が比呂と連絡先交換してんだよ!?」
「えー、難聴かな?」
やっぱこの子相変わらず面倒臭いわ。
「えっ?君、本当に親衛隊の子だったのぉ?☆」
「会長ってば親衛隊の子達の事ォ、あんま好きじゃない筈だよォ?」
「先程とても仲が良さそうに見えましたけどね」
君らも難聴か?
違うって言ってんじゃん。
俺はもう何度目かになる溜め息を吐く。
「…あのさ王道くぅーん、いい加減理解して欲しいんだけど、俺ってば会長の親衛隊には入ってないからね」
そう伝えながら、今更になって先程彼が言っていた話の意味が分かった。
溢したとか、片付けただとか…。
それってこの前転校生と対面した時の、プリン事件の事を言っていたのか。思えば初対面だったし、あれが前回の接触か。うわ、しかも友達なら渾名で呼ぶって言って王道君と呼び始めた事まで思い出した。あとそん時にも親衛隊って決めつけられたんだったな。溢した時のあれ、俺悪くないのに謝っちゃったわ。
「嘘つくな!連絡先だって、比呂から無理矢理聞き出したんだろ!!」
「だからなんでそうなるの?思考回路どうなってんの?連絡先だって先輩の方から教えてくれたんだけど」
「「「えッ!?」」」
"えッ!?"って何、吃驚した。
補佐の三馬鹿さん達はどうした。
「比呂がそんな事する訳ないだろ!だったら俺にだってとっくにっ……!ッシロは大嘘付きだ!最低だ!携帯貸してみろよ!」
あれ?もしかして転校生ったら、会長にまだ連絡先教えてもらってない感じ?
(っ…)
うわ。それはちょっと…嬉しいかも。
先程落ち込んだ気持ちが少し浮上する。
「シロ、ほら早く寄越せってば!」
「なんで君に俺の携帯渡さないといけないの?絶対嫌…」
と、そこで背後に気配を感じた。
(転校生のお友達もいい加減にしろよな…)
俺が気付かない筈ないでしょうが。転校生の為か何かは知らないけど、人の携帯無理矢理奪おうとするとか、どっちが最低なんだよ。もう、イライラするなぁ。
「チッ、あのさー」
俺は素早く身体を回転させる。
「君達、ウザいんだけど?」
「「!?」」
そのまま友人二人の背後、丁度あいだ位に立つと、俺は彼らの耳元で囁いてあげた。
ちなみに“ど?”の辺りで二人の右足と左足にそれぞれ膝カックンをくらわせた。油断してた彼らはそれぞれ片足とはいえ、ガクンって大勢崩しててウケる。俺は両足を曲げた状態から真っ直ぐに戻すと、目を丸くする補佐達にニコリと笑顔を向けた。ちょっと警戒レベル戻っちゃったかな?
「シ、シロ!」
俺が二人から離れると、転校生が今になってはっとしたように俺を睨んできた。
「良太と暁に何するんだよ!俺の友達に乱暴すんなよな!」
良太と暁…?ってこの二人の事か。
元々忘れっぽいけど、覚える価値はないね。
「何って、膝カックンだけど?今のが乱暴に見えたんだね王道君には」
「煩い!」
転校生は怒鳴りながら、突進する勢いで近付いてくる。携帯の事はまだ諦めていないようだ。
そのままこちらに手を伸ばしてきた。
もー、
「だからさぁ…」
右足を軸に先程のように体を回転させた。そして素早く転校生の背後に回ると、彼の頭に手を伸ばす。
(……このまま、)
「おやおや皆様お久し振りですねぇ」
「!」
あと数センチで触れるという所で、聞き慣れた声に動きを止める。そして、ぱちくりと瞬きした。
「あ…っぶな…」
途端に頭も冷えた。
俺ってば今、転校生の頭を鷲掴んで、勢いのまま壁に押し付けようとしてたわ。暴力は駄目なのに。すぐに転校生から距離を取ると、俺はほっと息を吐く。そしてさっき俺を止めてくれた、会計姿の修ちゃんに視線を向けた。
目を細めてニコリとされた。
(ひぇ…ごめんなさい。止めてくれてありがとう、修ちゃん様)
いつものようにそうアイコンタクト。
いや、というか…何故此処に?




