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【BL】いつも側に  作者: Ag/あぐ
第4話「彼等が正義ってヤツですか?」
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12・情けない顔

憂鬱になりながら終えた授業。俺は歴史の先生と話し込む修ちゃんを横目に、さっさと教室を抜け出した。


(逃げるが勝ち!)


オーブンはすっごく欲しい。だからミスコスにもちゃんと出る。そう考えてはいても、やっぱり男として女装は嫌なのだ。だからそれに関わる事からつい逃げ出してしまう訳で。


俺は何食わぬ顔で人気(ひとけ)のない所まで行くと、変装を解いてそのまま調理室に向かった。


副会長のままだと目立つと思うし、修ちゃんがもし「永代君を見ませんでしたか?」とか周りの生徒達に聞いたら恐るべき学園内情報網ですぐに居場所がバレるからね。


本当の姿なら皆俺に気付かないだろうし、動きやすい。


「どうしたものか…」


俺はネクタイをポケットにしまいながら小さく呟く。


(秀君は、どう切り出したら相談してきてくれるかな…)


歩きながら考えるのはその事だ。

俺って誰かの相談に乗るとかそういうの、した事ないから悩む。…いや悩むって、俺が悩んでどうする。あ、修ちゃんに相談する?…ってそれも可笑しいよね。今逃げてる最中だし。


「ん゛~…」


腕を組みながらつい唸る。気付くと目の前に調理室の扉があって慌てて立ち止まった。俺考え込みすぎか。小さく深呼吸してから扉を開けた。


「…………よし!」


お菓子作ろ。


うんうん。

悩んでる時はやっぱりお菓子作りだ!


俺はブレザーを脱ぎ、ワイシャツの袖を捲ると手を洗った。


「何作ろっかな」


清潔なタオルで手を拭きながら、レシピ本が詰まった棚の前に立つ。前からあった物と、俺のオリジナルをメモったノート。たまに見返すと参考になったり勉強になる。初心にかえれるし。


だけど本棚の前でどのレシピ本を選ぶかでだんだん面倒になってきてしまった。この際、さっき授業中に書いてたブラウニーでも作ろうかな。あれ?それ良いじゃん。


俺は途端に気分が上がって、早速材料を確認するために踵を返す。


「っ…!?」


で、滅茶苦茶ビックリした。


「び、びったぁ…あ、えと、こんにちは」


「…」


黒板前のデカい教師用の調理台。その椅子に、いつの間にか会長が座っていた。


「…あの?」


しかし、会長は俺の声掛けには見向きもせず黙って何やら作業を続けている。


「…何、してるんですか?」


無視された事に若干傷付きながらも、台に近付きながら聞く。また無視されるかと思ったけど、会長はそこでやっと不機嫌そうだけど顔を上げてくれた。


「見て分かんねぇか」


「…えと、書類、ですか?」


「チッ」


え、なんなの…酷い。


「……」


てか会長、今最高に機嫌が悪いのかな。そもそもなんで此処にいるの?


「仕事だ」


「…………は、はい?」


俺が首を傾げていると、会長が書類に向き直って呟いた。


「だから、仕事だつってんだろ。言っとくがな、俺はお前が来る前から此処にいたからな」


「えっ…」


マジで?会長最初からいたの!?全然気付かなかったんだけど。


あ。そういえば、鍵開いてたし電気も入る前から点いていたかも。俺それに気付かなかったのってやばくない?誰もいないと思って変な事したり言ったりしてなかったかな。


「そ、そうなんですかぁ…」


内心焦りながらもそう返す。


「でも、なんでこんな所で仕事を?」


生徒会室でやれば良いのでは?


「……んなの俺の勝手だろうが」


「えー…」


一瞬会長がチラッとこちらを見てきたけど、すぐにまた俯いてしまった。


会長が何を考えているのか全く分からず、そんな自分に溜め息が出る。こんな時、修ちゃんなら何かを察せたのかな。


(…って、何を落ち込んできてるんだよ俺は!)


よし、お菓子作りに戻ろう。

俺はこちらを見ていない会長に笑顔を向ける。


「…先輩、今からお菓子を作るんですが」


「…………………そうかよ」


わ。今会長の背後に花が舞ったような気がする。顔はツンツンなのにそれは可愛いぞ…。


俺はちょろいもので、思わずにやけそうになる顔を抑えながら、背を向ける。


「ちょっと煩くなるかもですが、仕事頑張ってください」


その書類の束には俺達の分も含まれている筈だよね。自業自得な事かもしれないけど、無理しない程度に頑張って欲しいと思う。


(…よぉし)


俺はブラウニーをやめて、会長の好きなプリンを作る事にした。


「……ふぅ」


仕事を再開した会長を背後に、プリン作りを始める。そして、手を動かしながら秀君について再び考えた。


やっぱりストレートに「何か悩んでる事ない?」って聞いてみるか。委員長が遠回しに聞いたとは言ってたけど、それは遠回しだったから伝わっていなかった可能性もあるし…。


うーん…。

あーいやでもなぁ…。


「おい」


「……はぁ」


情けない友達でごめんよ秀君。もう少し自然に相談に乗れる人間になれたらなぁ…。そう修ちゃんみたいに。ってまた修ちゃんと自分を比べてしまった…。


「おい!!」


「っうはぁい!?」


大声で呼び掛けられて慌てて振り向く。すぐ近くに会長が立っていた。


「な、なんですか?」


先程以上に驚いた。


「俺が呼び掛けたら一回で返事しろ」


「そんな俺様な」


あ、俺様だった。


俺のちょっと生意気な返答に、しかし会長は怪訝そうな顔をするだけで、それに対しての文句は言わなかった。もしかしたら今の俺は相当情けない表情だったのかもしれない。


「えと、今日のお菓子はまたプリンですよ。後は冷やすだけなので、もう少しだけ待ってて下さい」


そう言って、この前と同じように専用カップに入れたプリン達を冷蔵庫に持って行こうとする。


「………待て」


「え?」


だけどそんな俺の肩を軽く掴んで止める会長。急な接触につい固まってしまう。


「あ、あの何か?」


「っ………お前、ちょっとそこ座れ」


「へ?」


会長は一瞬何故か自分の行動に驚いたようだったけど、すぐに仏頂面に戻った。


「いいから座れ!!」


「ええぇ!?」


会長に怒鳴られ、プリンをテーブルに置いて椅子に座る。俺また会長を怒らせるような事したかな。


「ふんっ」


ドスッと何故か俺の隣に椅子を置いて、テーブルを横にするようにして座る会長。俺も同じようにすると、会長と向き合う形になってしまう。


(え?え?何?)


この状況は一体…?


「言え」


「…へ?」


訳が分からないまま会長を横目に盗み見ると、腕を組んだ彼にそう命令された。でも相変わらず意味が分からない。何を言えば良んだ?


「…あの」


「早く言えよ。俺も暇じゃねぇんだ」


「それはすみません。でも…」


何を?


そう小さく口にすると、調理室がシーンと静まった。


元々人の出入りはないし、今ここには俺と会長の二人しかいないから静まるのは当たり前なんだけど。


そんな事をほんの数秒の間に思った次の瞬間、会長が乱暴に立ち上がった。俺は思わず仰反る。


「てめぇな!俺様がわざわざ他人の悩みを聞いてやろうっつーのに、何を?とはなんだ!いつも以上に情けねぇ顔してっからどうせ下らねぇ事で悩んでんじゃねぇかと思って配慮してやったのによ!午前中の能天気さどこやった!!」


「は?え?えぇぇ?」


突然の早口な台詞に頭がついていけない。


俺が未だにハテナを散りばめている事に気付いた会長は、両手で俺の頬を左右に引っ張ってきた。


いひゃい( いたい )ッ!いひゃい( いたい )よッひぇんひゃい( せんぱい )っ!」


「るせぇ!」


これ絶対頬赤くなってるよ!?


俺は頬をおさえながら涙目で会長を睨むが、会長はお行儀悪くも足で椅子を元に戻し、再度向き合うように座り直した。テーブルに肘を置き、頬杖をつく。ジト目だ。


…うぐっ。今の会長格好良いなんて思ってないんだからな!


「ん」


俺の視線を見事に無視した会長は、その格好のまま一瞬顎を突き出して俺に何かを促してきた。


「……」


大分落ち着いたし、流石にもうその意味は分かる。


俺は睨むのをやめると、背筋をピンと伸ばして会長とちゃんと向き合った。


俺、会長に相談してみても良いかな…?

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