07・幼馴染の紹介
「えと、こんにちは!」
俺は会長に向けて、へらっと笑う。
素の姿で会うのは三日ぶりくらいだ。
「こんにちはじゃねぇよ。今授業中だぞ。こんなとこで何して…って、それ…まさかお前風紀に入ったのか?」
会長が訝しげに近寄って来たが、俺の耳にこの前までは付いていなかったピアスを見つけてすぐに理解したようだ。
「あー…まぁ、はい。お試し期間中ですけど」
俺は頬を掻きながら答える。なんか下手な事言えない。会長元々風紀嫌ってるぽかったし。
「……」
ほらー!
なんか眉間に皺寄せちゃってるよ!
「あの、先輩?」
「…つか誰だ」
「へ?」
俺が内心あわあわしていると、不機嫌そうな表情のまま聞いてくる。
「後ろの奴は誰なんだって聞いてんだよ」
思わず首を傾げると、ちょっとイライラしたように言い直して来た。
「後ろの奴…あ」
そこでやっと誰について聞かれているのか気が付いた。修ちゃんの事ですね。察しが悪くて申し訳ない。
「紹介してなかったですね、すみません。えと、この前の休みの時に俺、待ち合わせをしてるって言ったじゃないですか。彼がその幼馴染みなんです」
「幼馴染本当にいたのかよ」
えっ、何それ酷い。
俺が嘘を言ったとでも思ってたの?
「なんで疑ったんですか…」
つい唇を尖らす。会長はそんな俺の表情を見ても悪びれる様子はない。
「お前、この前の放課後の件で俺と会うの気まずかったんじゃねぇかって思ってな。3日前はつい色々と問い詰めちまったけど、後から考えたら俺から離れる為に言った適当な嘘なんじゃねぇかと思えてきたんだよ」
「はぁ!?俺は会長にそんな嘘つかないよ!」
「!?」
「っ…あ、いや、ごめんなさい、つい…」
「…」
うわ、何してんの俺。放課後の件って転校生が俺のプリンを落とした時の事かな。後からもこうやって俺の事考えてくれたのは嬉しいけど、会長から離れる為とか勘違いされてムキになっちゃった。絶対驚かせたよね。咄嗟に“会長”って呼んじゃったし。
「…おいコラ、ハル!」
「うぇっ?」
俺が一人反省会をしていると、突然ぐいっと肩を組まれた。
「修ちゃん…」
ちょっと吃驚。急に何。
「お前な。いつになったら俺の事ちゃんと“先輩”に紹介してくれんだよ」
「へっ?」
(…………あ)
そ、そっか。途中だったね。もう紹介した気でいたよ。
俺は一つ咳払いをすると、修ちゃんと肩を組んだ格好のまま、会長に視線を戻した。
「って、先輩?」
会長は何故だか無感情な目で俺達を見ていた。どんな感情を抱いてそんな表情なの…?
「………なんだよ」
「えっ?いや、その…えーと」
一瞬にして元に戻る。今のなんだったんだろう。気になって仕方がない。
「何してんだよハル」
「だ、だってさ…」
修ちゃんが顔を近づけ囁いてくる。
耳が擽ったい。
「あ〜あ、仕方ねぇなぁ」
修ちゃんはなんでそんな楽しそうなの!?
仕方ないって、一体何する気だよ。
「あっ」
「どもども~、はじめまして生徒会長の結城比呂先輩」
咄嗟に止めようとしたけど間に合わなかった。修ちゃんは手をヒラヒラさせながら会長に爽やかな笑顔で挨拶をする。
「俺はシュウって言います。もう知っていると思いますがこいつ…シロの幼馴染みです」
そして何故か、ぐいっと今度は肩ではなく腰を引き寄せられた。
(…………ん?)
「あの、修ちゃん?」
「ん?どうしたシロ」
「どうしたって…」
なんか益々近いよね?
なんで俺腰抱かれたの。
「………てめぇらデキてんのかよ」
俺が困惑しながらも修ちゃんを見上げていると、会長からそんなお言葉が。
「ッ…違っ!」
なんで会長がそんな事言うの?
俺が好きなのは会長なのに。
…いや、会長は全然悪くはないんだけど、つい俺は会長に恨みがましい視線を向けてしまい、……固まった。
「っ…!?」
会長の目がなんか物凄く怖いんだけど!??
「っ……せ、先輩?」
今まで、変装中だって睨まれた事は何度もある。だけど今回は特に眼光鋭くて怖い。
「!」
俺が固まったままでいると、ポンッと頭に何かが乗った。そのまま優しく撫でられて、修ちゃんの手だって事に気づく。
なんだかそれにホッとして、落ち着いて会長を見返す事が出来る様になった。
「ははっ!違いますよ結城会長。俺とシロは全然そんな関係じゃないですって。あえて俺達の関係を言葉にするなら“兄弟”って所ですかね」
修ちゃんは白い歯を見せながら爽やかに言い切る。いつも通り、変わらず修ちゃんは格好良い。
「………そうかよ」
会長は顔を背けながら低い声で呟いた。いつもの会長だ。さっきの、というか、今日の会長は本当にどうしてしまったんだろう。
俺は思わず会長の横顔をじっと見つめる。
「なんだ」
「えっ?」
すると、急に視線だけこちらを向いて睨んできた。うわ、見てたの気付かれた!
「…えっその、あっ!これ!これあげます!」
「あん?」
誤魔化すように、俺は修ちゃんに買ってもらった先程の生キャラメルを会長に差し出した。
「ほらほら」
「っ、てめッ…!」
返事はなかったけど、俺は包装を開いて会長の口の中に無理矢理含ませる。焦ったせいか強引すぎたね。ガシッとその手を掴まれてしまった。
途端、俺から離れてニヤニヤ見ていた修ちゃんから「ぐほっ」という変な音が聞こえてきたんだけど、気にしたら負けだよね。
「!……ん」
「あ、どうですか?美味しいですよね!」
右手を掴まれたまま会長を見上げる。
文句を言おうとしてたっぽい会長は、だけどどうやら生キャラメルがお気に召したらしく、口をひたすらもぐもぐさせていて可愛かった。
「…これ購買のか」
「え?」
力をゆるめられ、右手が解放される。ちょっと残念とか思っていたら、会長がポツリと呟いた。
「…先輩食べた事あるんですか?」
思わずドキッとする。
俺が案を出した生キャラメル。もう食べていてくれてたんだ。会長は案を出したのが俺だとは知らないと思うけど、もの凄く嬉しい。
「ああ、まぁな。この前セ…っ」
「?………せ?」
会長が久し振りに俺様的笑顔を見せた。俺はそれさえも嬉しかったんだけど、何故か話の途中で言葉を切られてしまう。
「先輩?」
「………チッ、何でもねぇよ」
「え!?気になるじゃないですか言ってくださいよ」
「てめぇには関係な…」
「あ!結城会長まさか自分のセフ…ッおっと」
「え?」
何々、修ちゃんはわかった系?
だけど何かを口にしようとして、会長の睨みに両手を上げて苦笑降参ポーズ。
なんか修ちゃんと会長仲良くなってない?
自分の察しの悪さが嫌になる。
結局会長も修ちゃんも続きの言葉を教えてくれる事はなかった。




