05・正義のヒーロー
「まんまと今日もいるようだな…」
「そのようですねぇ」
「…」
とりあえず話しは後にして、まずは目の前の仕事を片付ける事にした俺達は、早速校舎裏へとやってきた。建物の陰からこっそり覗き込む。
ちなみに今の俺達は冷酷と腹黒バージョンだ。秀君が俺達の見事な演技に遠い目をしている。
「…でも、何か可笑しい」
「?何がですか」
俺は目を細めて集団の奥の方を見詰めた。
「殺気を感じる」
「!行きましょう」
俺が無表情で振り返り答えると、秀君が急に走り出した。俺と修ちゃんも一瞬顔を見合わせてからすぐに後を追う。
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「調子に乗ってんじゃねぇぞ、北嶋ァ!」
「今日こそてめぇのそのムカつく顔をぐちゃぐちゃにぶっ潰してやるぜ!」
秀君に追い付き集団の背後に近付くと、彼等は一人を囲い込んで何やら騒いでいた。興奮していて俺達に気付く様子は一切ない。
「!」
あれは…。
大勢を相手にしている男には見覚えがあった。間違いない。彼は…。
「一年の北嶋雄大ですね」
「そのようですねぇ」
丁度頭に思い浮かんだ人物の名前に、俺はつい秀君と修ちゃんを見つめてしまう。風紀委員である秀君は兎も角、修ちゃんは何故彼を知っているんだろう。そう思ったが、「親衛隊が存在する美形リスト」を作っていた修ちゃんだし、知ってても別に可笑しくないかとすぐに納得した。
顔を前に戻しながらも、俺は北嶋君と会った時の事を思い出した。あの時は俺のドーナツを美味しそうに食べてくれたっけ。確か平凡君…山下君と一緒にいて、仲が良さそうだった。
「何故彼が?」
「ふふふ。彼、集団に負けないくらいの殺気放ってますねぇ」
流石にここまで来ると、修ちゃんや秀君にもこの殺気は感じ取れたようだ。それにしてもやはり何かがおかしい。北嶋君はなんでこんなにも憤っているんだろう。
「あ」
そして気付いた。北嶋君の存在感の強さに埋もれて気配が薄くなっていた者に。
北嶋君の後ろ。北嶋君に庇われている少年。
―――山下君だ。
「悪魔、梅木」
二人に声を掛ける。こっちを向いた修ちゃんと秀君に、俺は顎で北嶋君の背後を見るように促した。
「!」
「あれはっ…」
秀君は当然、彼も知っている。
転校生に巻き込まれて、今学園で危険視されている山下君だから。
それにしても修ちゃんはどうしちゃったのだろう。確かに山下君とは会った事あるけど。
山下君の姿を見た途端、真剣な表情になった。
「襲われたのか…?」
修ちゃんの言葉にはっとして視線を戻す。確かに山下君は怯えたように自分の身体を抱き締めている。その身体には少し大きめのブレザーが掛けられていて、恐らく北嶋君のだろう。
「…これはもう、萌えとか言ってる場合じゃねぇな」
「え?」
凄みのある低い声に顔を向けると、修ちゃんが片手で髪をかき上げた。
「!」
流石にこれには驚く。まさか素で行く気?
「ハル」
「わっ!?…ちょっ!」
そして目が合った途端にいきなり髪をくしゃくしゃにされた。修ちゃんが俺の眼鏡を奪って自分に掛ける。
え、なんで?
「今は制服姿でワックスもねぇし、適当に髪上げただけじゃ流石に会計だとバレるかもしんねぇだろ」
「…あ、そうだね?」
でもね、だからって人の心は読まないで。
「水上、永代…?」
「ごめんね秀君。なんか修ちゃん、かなりご立腹な様だから」
「あいつらに対して演技無理そうだわ。悪いな副委員長さん」
「!…はぁ、仕方ねぇな」
秀君は一瞬目を見開いた。でもそれは苦笑に変わり、すぐに顔を引き締めて彼らに視線を向ける。
「委員長には黙っています。行きましょう」
俺達は一斉に集団へ急接近した。秀君が声を張り上げる。
「全員大人しくしてください、風紀です」
なんか正義のヒーローみたいだ。
「なっ…風紀!?」
「チッ、いつの間に」
「行くぞお前らっ」
俺達の姿を確認すると、奴等は一斉に逃げようとする。しかしそれを秀君は許さない。
「逃げても無駄です。あなた方のクラス、名前、それに今までしてきた行為の証拠はこちらで既に掴んでいますから」
「!」
その言葉に立ち止まった彼らは殺気のこもった視線を今度は俺達に向けてきた。
「だったら…」
「てめぇら三人を人質に、風紀の連中を脅して隠滅させるしかねぇよなぁ…」
そう言って、北嶋君達の存在を忘れたように俺達の方に向かってくる。
その時ふと、リーダーと思わしき人物と目が合った。その男は俺を見て何故かにやりと笑う。
「おいおい一人随分と可愛いのがいるじゃねぇか」
「?」
(可愛い…?)
ってまさか俺の事!?
何、身長で言ってんの?確かに修ちゃんや秀君よりは小さいけど!その差だってほんの数センチくらいだよ!?
「制服は高等部だな」
それは何か?君達も俺が幼く見えるとでも言いたいのか??
「なんだか弱そうだな」
は?俺が…弱そう?
「あっちの平凡相手にするよか断然こっちのが良くね?」
相手…?
てか山下君達の存在ちゃんと覚えてたんだ…。
「相手って、山下君に何したの君達」
名を呼ばれビクッと体をはねらせた山下君に気付いて、俺は奴等に聞く。
「あ~?俺達は頼まれて襲っただけだぜ?」
「こんな平凡じゃ勃たねぇってのになぁ」
「でもあの平凡、身体はけっこう良さそうだったぜ?」
「なんだよお前、ああいうのが好きなのか?」
「はぁ!?だから身体はって言っただろうが!!」
「っ…」
ガハハと下品に笑い出す奴等に、北嶋君の殺気が益々迫り上がっていく。
俺、肌がピリピリするよ。
「でもそれを、北嶋の野郎が途中で邪魔しやがって…」
「マジ殺してぇ」
その言葉にホッとした。山下君は一応まだ無事だった。
「だから、風紀のあんたが責任取ってくれよ」
「はい?」
「あいつら助けに来たんだろ?あんたが相手してくれんなら、もう北嶋達には手を出さねぇよ」
「…それ、本当?」
「…おいハル」
修ちゃんから、まさかお前、って声が聞こえたけど気にしない。
だって俺が喧嘩の相手をするだけで、北嶋君達には手を出さないって言ってくれてるんだよね?これは乗らない手はないでしょ。
「おぅ!マジマジ」
「じゃあ、相手しよっかな」
俺は嬉々として上着を脱いだ。袖を捲る。
「やっぱ勘違いしてるな…」
後ろで修ちゃんが呆れた声を出してるけど…なんでだ?
「じゃ、行くよ?」
俺はペロッと唇を舐めた。
俺“暴力”は嫌いだけど、“喧嘩”って嫌いじゃないんだよね。




