04・風紀初仕事
とりあえず秀君からピアスを受け取る。ノンホールとはいえ、ピアスなんて付けた事ないからちょっぴり緊張するな。そう思いながら顔を上げて、俺はある事に気付いた。
「梅木と委員長は付けてないんですね」
「え?」
思えば、今まで秀君がピアスを付けてる姿なんて見た事がなかった。委員長もこのピアスは付けていない。他のピアスはジャラジャラ付いてるけど。あれ痛くないのかな。
「おや、本当ですねぇ」
「…ああ、俺は」
修ちゃんまで不思議そうに言うと、秀君は少し眉を下げ、委員長の方をチラッと見てから口を開いた。
「何故か委員長が、俺を直視出来なくなるそうなので…」
寂しげに呟く秀君。俺達はゆっくりと委員長に視線を向ける。彼は怖いくらい真面目な表情で書類とにらめっこしていた。
(……)
でも委員長、そんなに強く握りしめたら、紙がしわくちゃになっちゃいますよ?
(あとね、修ちゃん…)
やめて。伸びちゃう。俺の制服伸びちゃうから。そんなぐいぐいと掴んで引っ張らないで。これを誰にも気付かれずにやるの本当に凄いな。
「…そうか」
内心でツッコミながらも秀君にはそう返しておく。これ以上は俺の制服の為にも何も聞かない方が良さそうだ。
「で、これから僕達は何をすれば良いんだ?」
さっさと話題を変えよう。問い掛けながら秀君を見上げると、何処と無くホッとしたような顔をした。
「悪いな。永代と水上には、これから梅木と一緒に行ってもらいてぇ場所があるんだ」
いつの間にか委員長が立ち上がってこちらを見ている。
「どこですか?」
「校舎裏だ」
(あ、それって…)
「ある人物からの情報で、校舎裏の一部を縄張りにしている生徒達が一人の生徒に暴力行為を行ったと知りまして。暫く風紀で様子を観察していたのですが、最近彼らの動きがまた活発化してきたようなので…」
秀君がチラッと不自然にならない程度に俺を見てから説明する。
うん。
間違いなく俺が前に携帯で伝えた件だね。
「…まぁ、早い話がそろそろ奴等を本気で取り締まろうって事だな」
ここまで聞いて、もしかしてと思ったのと同時に、委員長が正解とばかりにニヤリと笑って言った。
「本当は俺も行きてぇとこなんだけどな…」
そう続けながら、委員長が俺達の方へ近寄ってくる。
「ちと書類が溜まっててよ…」
そして、そのまま親指で机の上を指差した。委員長の机の上には生徒会室ほどではないが書類が積まれている。
「すみません。委員長にしか処理出来ないものばかりでして…」
「わぁってるよ、気にすんな」
申し訳なさそうに謝る秀君に、委員長はくしゃりと笑顔を向けた。その表情に、俺は少し格好良いなと思った。
「!」
(あれ?)
そこで秀君の顔を見て驚く。
「っ…」
なんでそんな切なそうな表情をしてるんだよ。
「と、まぁそういう事だから頼むな」
委員長は気付いていない。
流石にここで秀君にどうしたのかは聞けない。
俺は委員長の方に視線を戻すと、しっかり頷いた。
「分かりました。ここまで連れてくれば良いんですか?」
「ああ、頼む。あまりにも暴れるようなら実力行使も許可する。一応こっちで証拠も抑えてるから心配はいらねぇ」
「はい、では行ってきます。…悪魔、梅木行くぞ」
「ふふふ、彼等とお会いするの、とても楽しみですねぇ」
修ちゃんは暴れたいのだろうか。
「ああ」
秀君は、いつもの秀君に戻っていた。
+++
「ねぇ」
「え?」
廊下に誰もいない事を確認すると、早速俺は前を歩く秀君に声を掛けた。
「永代…?」
「秀君さ、委員長と何かあったの?」
いつもの俺だったら気にしないし、こんなお節介は焼かない。でも、相手は秀君だから。大事な友達だから。さっきの表情が気になった。心配してるんだよ。
俺がじっと見上げると、秀君は何処か焦ったように俺の口を塞いできた。
(ちょ、なんでだ!?)
「むー!むー!」
抗議するようにバシバシと秀君の腕を叩く。すると秀君は俺を引き寄せて耳元で何か囁こうとした。しかし、この時俺はふと視線を感じてそちらを見てしまい。
「!」
(…あ)
途端に慌てた。
修ちゃんがもの凄く良い笑顔で俺達の事を観察していたからだ。あの目にはとても覚えがある。
「ほぉほぉ。見た目不良×冷酷副会長の図。…なかなか良いな」
(やっぱりー!!)
「…て、あれ?」
修ちゃんのそんな呟きが聞こえたと思ったら、口を塞ぐ手がぱっとなくなった。
「?」
不思議に思って振り向くと、秀君は驚愕の表情で修ちゃんを見ている。
「っ…、っ~!?」
一歩後ずさって修ちゃんを指差す秀君。こんな秀君の姿は貴重だ。
それより、修ちゃんのさっきの台詞、聞いちゃったんだね。可哀想に…。
「ハ、ハルっち…」
呆然とした表情のまま秀君は俺を呼ぶ。驚きすぎて愛称になっている。
「何だい秀君」
「一体…どういう事だ?」
俺は思わず苦笑した。実は秀君には元から修ちゃんとの関係をバラす気でいた。だからさっきは素で話し掛けたんだけど、どうやら少しタイミングを間違えたようだ。
「今更だけど改めて紹介するね。生徒会の腹黒会計である水上修二。…俺の幼馴染み」
「幼馴染み…」
「宜しくな、梅木秀吉副委員長さん。副委員長さんには毎回萌えさせてもらってるぜ」
「はい?燃え?…てか口調!?」
修ちゃん、萌えとか言っても秀君には伝わらないと思うよ。あと秀君驚きすぎ。
「うっわ。信じらんねぇ…。すっかり騙されたわ」
萌えとは何かと説明し出した修ちゃんに若干引きながら、秀君はポツリと呟いた。それだけ俺達の演技が凄いって事だろう。
俺と修ちゃんが幼馴染みという事は一時期噂が広まった事がある。けれど、直接確認してくる人達はおらず、その噂はいつの間にか無かった事にされた。皆そんな事実知りたくなかったようだ。
「今まで黙っててごめんね。でも、そういう事だから素で話しても大丈夫なんだよ」
「あ?あ、ああ…」
「…」
それでも秀君は戸惑ったままだ。これでは、委員長との事を聞ける状態じゃない。
やはり、タイミングを間違えたかな。




