02・俺達限定の…
のりにぃ。名前は“のりまさ”という。
今度文化祭に来てくれる予定の、俺と修ちゃんが“あの人”とか"師匠"とか呼んでいたお方だ。俺達より10歳程年上で、とても格好良いお兄さんだ。
『ん?その声…まさか春か!?』
「う、うん。のりにぃ久しぶり」
メールは極たまにしていたけど、声は本当に久しぶりに聞く。最後に聞いたのは…2年前位だっただろうか。
『春、春春ー!マジ久しぶりだなぁオイ!相変わらず声も口調も可愛いすぎる!!声だけで俺の寿命は確実に10年は延びたな!実に滾る!!ああックソ!久し振りに春の感触を味わいてぇ!!はぁはぁ!はぁはぁ!!なぁ春?今のお前は風呂入った時どこからどうやって洗うんだ?お兄さんに詳しく細かく教えてくれないか?』
「…」
(変態だぁ…)
のりにぃは相変わらずのご様子で。
“これ”がなければ完璧で、俺と修ちゃんが最も尊敬する人なんだけどね…。
「修ちゃん」
「な?変態だっただろ…今の師匠」
「うん」
こくりと頷いて修ちゃんと目を合わせて同時に溜め息を吐いた。
のりにぃは昔から俺と修ちゃん限定で変態だ。たまにセクハラ紛いの事をしてきたり、下ネタを言ってきたり…。のりにぃが言うには、孫のように愛してるから仕方ねぇだろ!らしい。あと天使は愛でるもの、とかも言っていた。
意味がわからない。
孫を変態的に愛し、セクハラする祖父なんていない。そして俺達は天使ではない。笑顔で格好良く親指を立てないで欲しい。顔と言動が合わないんだよね。そして、そもそも孫みたいってなんだよ。のりにぃまだ全然若いでしょうに。
「修ちゃん、はい」
「…おう」
なんか耳元から卑猥な言葉が聞こえ始めて、俺はつい修ちゃんへ携帯を返す。受け取った修ちゃんはちょっと苦い顔だ。
「はぁ…師匠、いい加減にしろよ?」
『…!?……?』
「ん?あー黒の無地だったかぁ?」
『…!』
「はいはい」
『っ…、……!』
「え?別に良いだろ?」
『……、…』
「師匠は師匠だぜ?普通に読めるし」
『……、…!』
「ハルはハル。俺は俺だ」
微かに聞こえてくるのりにぃの声と修ちゃんの言葉で、なんとなく俺にも内容が分かった。それにしても流石修ちゃんだ。今の変態モードののりにぃを軽くあしらってる感じ。聞いてる限り、修ちゃんのお陰でのりにぃも段々とまともなのりにぃに戻り掛けている。
「…ああ、わかった。待ってるぜ師匠。…ん、じゃあな」
暫くすると、のりにぃは本格的に変態モードから抜け出したのか、話題が近況や文化祭の日程などについてに変わっていて、いつの間にか会話が終わって修ちゃんが通話を切っていた。
どうやらのりにぃはそれが目的で電話をしてきたようだ。メールやメッセージじゃないのはたぶん普通にのりにぃが修ちゃんの声を聞きたかったからで。非通知だった理由は分からないけど。
ちなみそれは別に、のりにぃにとって修ちゃんの方がより特別だから、という訳ではない。ただ単にのりにぃには俺のメールアドレスのみで、電話番号を教えていないだけだ。俺は別に教えても良かったのだけど、修ちゃんがそれを許してくれなかった。
“初なハルにはまだ早い”らしい。
確かに、あんな過度なセクハラ・下ネタ満載な発言には慣れていないけど、相手はのりにぃなんだ。のりにぃだって常に変態モードって訳じゃないし、別に俺に対して早いとかはないと思うのに…。
「ハル」
「えっ?何、修ちゃん」
「知らないって幸せな事だよな…」
「何が!?」
修ちゃんは答えずに、遠い目をしてキッチンに戻っていってしまった。
(ど、どういう意味だったんだろう…)
理由は分からないが、なんとなく背筋が震えた。
「そういや生徒会室の荷物まとめんの忘れてたな」
「あ」
暫くして。
いただきますと挨拶をして箸を持ったら、修ちゃんがポツリと呟いた。
「委員長には返事しちまったけど、ミスコスの事ですっかり忘れてたわ」
ミスコスとはミスコスプレコンテストの略みたい。
「じゃあ明日の朝、授業が始まる前に生徒会室行ってまとめる?」
「ああ、そうだな。暫くは風紀委員だし、生徒会で使う資料以外は持っていくか。主に私物だけだから、すぐ終わんだろ」
「そだね」
確かにすぐ終わるだろうけど…。
「でもさ、修ちゃん…」
俺達の鍵付きの引き出しの中は、皆には見せられないような私物でいっぱいだったような気がするよ?
+++
次の日の朝。
俺と修ちゃんは予定通り生徒会室にいた。
「これは私物で…あ、これは置いてこ」
「こいつは寮の方に持ち帰りで、こっちは使うな、持っていこう」
二人きりの為、変装はしてるが素のままで荷物をまとめている。それにしても思っていたより私物が多かった。生徒会に必要ないものまで入ってたし、俺もよくこんなに溜め込んだものだ。面倒くさがりな性格のせいで、寮まで持ち帰るのが面倒だったせいだ。
「よし、こんなもんだな」
「修ちゃん終わったの?」
開けられないようにガムテープが貼られた段ボールを見て、俺は声を掛けた。
「ああ。ハルはまだか?」
「うーん…もう少し」
俺もこの機会に必要ない物は寮に持ち帰ろう。
幾分かして、俺もやっと作業を終えた。
「よし!修ちゃん終わったよ」
「おう」
俺達は段ボールを抱えて出口へと向かう。扉の前に置いておけば、風紀の人が持って行ってくれるらしいからだ。同じ階なんだから自分達で持っていくのにね。
「お」
「あ」
修ちゃんが片手で荷物を抱えながら扉をわずかに開けた所で、二人して同時に目を合わせた。
「珍しいね」
「あいつらマジでやる気だな」
「俺達愛されてるぅ」
思わず笑ってしまう。しかし、すぐに無表情と微笑みを浮かべ、大きく扉を開いた。
「わっ!?」
「えっ」
「あれ!?」
「っ…」
すると、ドアノブに手を伸ばした格好で驚きに固まる陸と、その後ろでは同じように固まる空、緒方、久山が立っていた。




