01・頼まれ事
会議が一応無事に終わったその日の夜。
生徒会の仕事をやらなくてよくなった俺と修ちゃんは、俺の部屋でダラダラと駄弁りながら、テレビゲームをして暇を潰していた。なんか、巨大な蟻とか蜘蛛とかが襲ってくるゲームだ。空に漂うUFOは俺が狙い撃つ!
「なぁ、ハル」
「なぁに修ちゃん」
ミッションクリアの文字が表示された所で、修ちゃんが改まって名前を呼んできた。俺は返事を返しながらお菓子を摘み、口に放り込む。
「女装する気ねぇか?」
「……………はい?」
ポロッと膝に乗せてたコントローラーが床に落ちる。思わず修ちゃんの方へ顔を向けたが、修ちゃんは真顔でゲームをセーブし、俺の手を布巾で拭いながら見つめ返してきた。
「あ、ありがとう…じゃなくて、今なんて?」
「なぁ、ハル。女装する気ねぇか?」
「……」
少し修ちゃんから距離を取った。
またなんか壊れてしまったのだろうか。長く幼馴染やって来てるけど、こんな事を言われたのは初めてだ。
「こらこらハル君やい。今の俺は、別に壊れてはねぇぞ」
「え…ほ、本当に?」
「嘘ついてどうすんだよ。俺が壊れるのは腐った内容に関してだけだからな!」
「…」
そんな胸張って言われてもね…。
それはそれでちょっと嫌だし…。
「まぁとりあえず聞いてくれ。実はな、ちょっと頼まれ事をされちまってな」
「頼まれ事?」
俺は元の場所に座り直して話を聞く体勢になる。
「ああ。これは会議が終わったすぐ後の事なんだが…」
修ちゃんの話によると、会議が終わったすぐ後に、文化祭実行委員の顧問に声を掛けられたらしい。
「水上やばい。今年は無理かも」
「え」
その人は俺達の素を知っている信頼出来る先生の一人で、前に修ちゃんが言っていたのだが、どうやらオタクなんだとか。
先生は目立たぬよう修ちゃんを会議室の隅まで引っ張って行くと、話し出したそうな。
「念願のミスコンという名の女装コスプレコンテスト…参加者人数が足りなくて駄目かもしれん…」
「え、マジすか」
「ああ、マジだ。くそっ、このままだと中止になっちまう!でも俺は絶対にやりたいんだ!だから水上、どうか人数集めに協力してくれ!上玉だと嬉しい!」
「探してはみます」
「ああ、頼む!俺ももっと色んな奴に声掛けてみるから」
「はい」
真剣な表情で話し合っていたから周りに悟らせるミスは犯してねぇぜって言われたけど…俺、ここで聞くのやめてもいいかな?
「俺はすぐに何人か候補を思い浮かべた…」
回想を終えると修ちゃんは腕を組んだ。
「彼じゃない。彼はいいかも。だがしかし…。そんな風に俺的希望者リストを頭に作り上げていき、一番最後に思い浮かんで、尚且つ最もしっくりきたのが、ハル…お前だったんだ」
「…」
「ハル…我が幼馴染みよ。やってはくれまいか?俺は断言できる。お前なら絶対に似合うと!!」
「修ちゃん」
俺は力説する修ちゃんに向かって満面の笑みを浮かべた。
「絶対、嫌!」
俺は男だ。そもそも女装もコスプレも趣味じゃない。
「…どうしてもか?」
「どうしてもだね」
「会長達が、参加者人数が集まれば協力してくれるって言っててもか?」
「はい?」
え。何それ。
「いやぁ、会長達も俺達の為にやる気満々の本気で、かなり燃えているみたいだぞ」
「…」
なんでこういう時に会長達の話題を出すかなぁ。てか、いつ会長達と話したんだよ…。
「それでもか?」
「!う、う"ぅ~…」
そんな事言われても俺は無理だし、負けな…
「あと、欲しがってたオーブン取り付けてやるって言ってもか?」
!?
「やる!!!」
つい渋っていた事なんて忘れて思い切り頷いていた。修ちゃんが言っているのは、今まで何度かこっそり申請していたのに許可が出なかった、家庭用ではなく本格的な業務用のオーブンの事だ。どうしても部屋に欲しかったから、念願のあれを取り付けてもらえるんだったらなんでもするわ!
「俺、女装でもコスプレでも何でもやる!あ、でもやっぱあんま無茶振りするのだけはやめてね」
「……ハル」
「ん?」
あれ?俺が参加するって言ったのに、修ちゃんはあまり嬉しそうではない。喜ぶ所か、肩を落として深く溜め息を吐いていた。なんでだ。
「会長達よりオーブンに釣られるって…」
「?」
その声はあまりにも小さくて聞こえなかった。
そのうち修ちゃんは、ヨロヨロとした足取りで夕飯を作る為にキッチンに歩いて行った。今日も作ってくれるらしい。やったね。
―――ブブブブ…。
(ん?)
そんな時、ソファーの上から独特の音が聞こえてきた。見ると修ちゃんの携帯が震えている。
「修ちゃーん!携帯鳴ってるみたいだよー」
「あー?メールかメッセとかの通知だろ」
「ん…いや、違うみたい。電話だよー」
俺の返事に、修ちゃんがエプロンの紐を結びながら戻って来た。携帯を手に取り画面を見ると、怪訝顔に。
「…非通知」
そう小さく呟くと、そのまま携帯を耳に当てた。修ちゃんはどうやら非通知でも出るタイプのようだ。俺は出ない。
「……」
思わず感心していると、しかしその直後に修ちゃんは無言であっさり通話を切ってしまった。
(あれっ?)
そのまま元の場所、ソファーの上に戻そうとして…
―――ブブブブ…。
再度携帯が震え出した。修ちゃんは置こうとしていた手を止め、溜め息まじりに携帯を見つめる。
「修ちゃんどうしたの?てか、誰?」
「ん?…ああ、ただの変態」
「は?」
(変態?)
「まぁ、ハルも知ってる人だけど。出るか?」
「え」
俺も知ってる人?
非通知で?
混乱しながらも携帯を受け取る。恐る恐る耳に当てると、なんと確かに聞き覚えのある声だった。
『はぁはぁ…はぁはぁ…お兄さん今何色のパンツ履いてるの?』
「…っ」
でも内容は修ちゃんの言っていた通り、本当に変態みたいだった。思わず固まる。
『はぁはぁ…っていつまでやらせんだよ修。しかも勝手に切りやがってよぉ。ノってこいよ!寂しいだろうが、俺が!』
「…の、のりにぃ?」
思わず呟くと、苦笑する修ちゃんと目が合った。




